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奈良公園内に「しかせんべい」の自販機登場で、露天のおばちゃんたちが廃業の危機!?

集英社オンライン / 2022年11月8日 16時1分

奈良公園といえば1200匹もの野生の鹿が生息し、観光客が名物の鹿せんべいを与える様子が風物詩となっている。だが、その鹿せんべいを売る露店が今、存続の危機に脅えているという。理由は10月末に設置された2台の自販機にあった。

「10枚500円」は露店の2倍以上の価格

神の使いと呼ばれ、天然記念物として手厚く保護される奈良公園の鹿。観光資源としても大人気で、公園内にある春日大社を訪れた参拝客などが名物の鹿せんべいを与える様子は奈良の風物詩となっている。

その鹿せんべいを売る露店が今、存続の危機に脅えているという。いったい、なぜ⁉

きっかけは10月24日に公園内に「I LOVE シカ自販機~鹿への贈り物~」と命名された2台の自販機が設置されたことだった。



鹿せんべい(10枚200円)を売ることができるのは、「奈良公園行商組合」に登録された公園内の露店や茶店、土産物屋のみ。鹿せんべいの品質(米ぬかと小麦のみで製造し、着色料や糖分などをいっさい含まない)を保持し、売上の一部を鹿の保護活動に充てるためだ。

ただ、露店などの営業は午前9時から午後4時頃までで、それ以外の時間帯に奈良公園を訪れた観光客が鹿せんべいの代わりにポテトチップスやフライドチキンなど、鹿の健康に害をもたらす食べ物を与える行為が問題となっていた。

そこで鹿を保護する一般財団法人「奈良県ビジターズビューロ」など5団体が飲料メーカー・ダイドーの協力を得て、露店などの営業時間外でも鹿せんべいを購入できる自販機の設置に乗り出したのだ。

露店より大幅に高い10枚500円という価格設定にもかかわらず、売れ行きは好調。

「自販機にセットできる鹿せんべいは26個。それが一日で売り切れ、毎日補充に追われる状態」(ダイドー担当者)だという。

一見、どこにでもある飲料水用の自販機だが、よく見ると…

右側は、しかせんべいが買える仕様になっていた!

これに不安を感じているのがこれまで独占的に鹿せんべいを売ってきた80名ほどの露店のおばちゃんたちだ。
なにしろ、相手は雨の日も風の日も24時間黙々と鹿せんべいを売る機械。鹿の健康被害を防ぐための措置とはいえ、露店の売り上げ減になりかねない。おばちゃんの一人がこう不安を口にする。

不安を口にする露店のおばちゃんたち

「まだ2台だけだから黙っているけど、今後どんどん設置数が増えれば、わたしらの仕事がなくなってしまうのではと心配です。少ない年金の足しになればと、鹿せんべい売りに精を出してきたんですけどね」

別のおばちゃんもこう困惑する。

「コロナが落ち着いて観光客が戻ってきたと喜んでいたのに、ライバルの自販機が登場するなんて。県はわたしらのような零細な露店販売員を減らそうとしているんでしょうか?」

はたして、自治体は露店のおばちゃんたちを駆逐しようと画策しているのか? 自販機を設置した「奈良県ビジターズビューロ―」に露店側の懸念をぶつけてみた。
すると、答えは以下のようなものだった。

「露店と自販機がライバル関係? その心配はありません。自販機の鹿せんべいは行商組合から仕入れるので、売上はすべて行商組合の利益、つまり露店のみなさんの利益になります」(奈良県ビジターズビューロ―・中西康博専務理事)

ということは、自販機設置の動機はやっぱり、露店が営業していない早朝や夕方に観光客が鹿せんべい以外の食物を与えることを防ぐためだった?

「もちろん、それも狙いのひとつですが、最大の目的は啓発です。奈良公園の鹿を未来永劫、守ってゆきたい。そのためには自然の草を食べてもらうのが一番で、もし与えるとしても害のない鹿せんべいしかあげないでほしいということを広く啓発したいんです」(前同)

中西専務理事には忘れられない光景があるという。

1万円分の鹿せんべいを爆買いした観光客が……

「コロナ前のインバウンドが盛んな頃、奈良公園を鹿とのふれあい公園と勘違いした外国人観光客が一万円分の鹿せんべいを爆買いし、鹿に与えたことがあったんです。その鹿は可哀そうにお腹がパンパンに膨れ、足元には大量の鹿せんべいの破片が散らばっていた。

奈良公園の鹿は野生で、本来の主食は草です。なのに、その観光客はお腹がパンパンになるまで鹿にせんべいを与えてしまった。そんな誤った鹿との接し方をなくしたいんです」

たしかに、露店で売られるむきだしの鹿せんべいと違い、自販機の鹿せんべいは六角形のきれいな箱に収められており、そのサイド部分には正しいエサの与え方や鹿との接し方など、啓発メッセージがびっしりと書き込まれている。

「箱の正面イラストは子どもたちによる『奈良のシカ』保護啓発ポスターコンクールの受賞作品を採用しました。また、箱はKOME-KAMIと呼ばれる廃棄予定の米粉を混ぜたエコな紙素材で作ってあります。

すべて観光客にかわいい箱だな、持ち帰って部屋にでも飾ろうと思ってもらうためです。それで時々、この箱を見て奈良の鹿を大切にしなくちゃと思ってほしいんです。自販機での価格が500円にもなったのはこの箱代に300円もかかったためです(苦笑)」(前同)

箱の側面には「鹿せんべいのあげ方マナー」が

すべては鹿のため――。どうやら、自販機設置で売上が激減するという露店のおばちゃんたちの懸念は杞憂だったようだ。

観光客の踏みつけによる芝草への悪影響や車との接触事故多発など、鹿せんべい以外のエサやりによる健康被害の他にも鹿たちの生存を脅かす事例は事欠かない。現在、1200頭を数える奈良の鹿だが、終戦直後には密猟で79頭にまで激減し、絶滅の危機に瀕したこともある。

奈良の鹿には50年後、100年後も健やかでいてほしい。自販機の500円鹿せんべいがその一助となりますように。

ゆくゆくは自分でしかせんべいを買うシカも現れる……わけないか

取材・文・撮影/集英社オンライン編集部

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