藤本ゆみさん(38歳、仮名)は、日本一の風俗街・吉原の高級店で10年以上No.1として働いてきた店を辞めて、かつての職である看護師に復職した。
「一度股を開いた、風俗嬢だった自分が戻れるなんて思わなかった。でもやればできるということを伝えたい」と言う。
月収200万円から25万円に…吉原の人気No.1風俗嬢はなぜ看護師に転職したのか?
集英社オンライン / 2022年11月9日 18時1分
「風俗に落ちた」といった言葉はよく聞くが、「風俗から抜けた」後の話を聞くことは少ない。風俗を辞めた後、彼女たちはどんなセカンドキャリアを過ごしているのだろう。コロナ禍で激減した風俗の仕事から、需要が増える看護師に転職したひとりの女性に話を訊いた。
人気No.1風俗嬢はなぜ看護師になったのか?
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看護師免許を取得した20歳から3年間は救命病棟で働いていた、ゆみさん
看護師時代の病棟勤務はハードだったが、やり甲斐も感じていた中、家庭の事情で退職したという。その後、銀座でホステスとして1年ほど勤務した後、「より多く稼ごう」と一念発起して24歳で吉原の高級ソープランドに入店した。
「セックスは好きだったし、命に関わる現場にいたので、性に関わる現場で働くことに抵抗はありませんでした。救命病棟に勤務していた時は意識不明の患者さんの様子を見て、どんな処置が必要かを常に考える職場だったからか、風俗のお客様からはよく『細かい気遣いが他の子と違うね』といった評価をいただくことが多かったです。
もちろん、新人時代は回転数が大事だったから、回数をこなせたことも大きかったとは思います。幸いにも私は鉄マンで(笑)。ランカーになるまでに時間もかからず、わりと早くNo.1になれました」
コロナ禍で風俗嬢が最もしんどかったこと
風俗という仕事はまさにこのホスピタリティが大事なのだという。
「私は顔が特別かわいいわけでも、巨乳でもスタイルがいいわけでもありません。だったら細かい気遣いと愛想で勝負しようと思ったんです。それをコツコツとやってきました。すると私と店外デートしたいという方が増えてきたんです。中には、1日貸切していただけるお客様や、1回2時間の1枠を4~5枠も埋めて下さる方々についていただいたおかげで、10年間もNo.1でいれて安定して稼ぐことができました」
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吉原の老舗高級店で勤務していた時代のゆみさん
売れる風俗嬢のポイントは「気遣い」「共感と傾聴力」「常にアンテナを張りどんな話題にも対応できるようにするコミュ力」「控えめで謙虚」「愛嬌」だという。
「もちろんそれだけでなく、負けず嫌いというのも大きかったと思う。常にボーイさんに 『今月、他の女の子に抜かれてないよね?』と確認していましたから」
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取材当日「これ、お役に立てればと自分の思いをまとめました」と記者に手渡してくれた文書。記者への気遣いも嬉しい
しかし、辞めることを決断するまでの2年ほどは「精神的にしんどい」と感じることも増えたという。
「体力ももちろんしんどいですが、なにより精神的に堪えた。10時間という長時間、一瞬も気が抜けなかったり、たとえ嫌なお客様でも、体の接触で意にそぐわないことがあっても、愛想よく振る舞わないといけない。高い対価と引き換えに当然のストレスとはいえ大変でした。勤務時間外もSNSやLINEの対応をしなければいけない気の休まらなさもしんどかった」
そんなストレスがピークに達したのがコロナ禍だった。
「私自身も目減りする収入源に焦っていく中で、予約は入れてくださらないのにLINEのやりとりで精神的なつながりを求めるお客様が増えて、追い詰められました。
それと同時に『この緊急事態で看護師不足なのに、私は何をやってるのだろう』と、潜在看護師である自分に疑問を持つようにもなっていたんです。なんというか看護師としての血が騒ぎました」
月収200~300万円から25万円になって変わったこと
しかし、14年というブランクは長い。ゆみさんが最初にとった行動は復職にあたっての専門書を読むことや東京都の看護師協会に講義と実技の試験を受けにいくことだった。
「復職にあたっては本を読み漁り、受けられる講義や実技はすべて受けました。そしてワクチン接種会場で打ち手のバイトを1か月間やり、次に治験のデータをとる1年間の契約バイトを経て、この春からコロナ患者も受け入れている病床100ほどの中規模病院に完全復職しました」
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復職後、勤務中に撮った自撮り写真
一方で、復職時の書類や面接時に14年間というブランクをどう説明したのだろうか。
「銀行で人事のお仕事をするお客様にアドバイスを受けて、『婚約者に養ってもらいながら家事手伝いをしていた』と言いました。風俗経験は言ってもいいことは何もないから徹底して嘘で固めろと。嘘をつくことに抵抗はありましたが、お客様からの『何でもかんでも正直に言わないでいい』という言葉と、『やめたら二度と戻るな』という言葉を励みにしました」
復職にあたり一番の心配は、生活水準を大幅に下げなければいけないことだった。
「多い時で月収200万円から300万円もありましたが、現在の月収は25万円。まず家賃12万5000円の住まいから7万円に下げ、風俗嬢時代は外食やコンビニ弁当で済ませていた食費を自炊中心にして、外食は月1回程度にするようになりました。以前は飲酒する時はバーとかでお酒を楽しんでいましたが、一切やめて自宅で発泡酒やサワーを自作。なにより風俗嬢時代のほとんどの同僚との付き合いをやめました」
人間関係の清算をしたのは「風俗嬢時代の友達と付き合ってたら華やかな暮らしをする彼女らを羨ましく感じて戻りたいと思ってしまうかもしれないから」と話すゆみさん。
「実際、吉原は熟女店や高齢女性店もあって何歳でも働ける街。なので私もいつまでも踏ん切りがつかなかったし、実際そんな女性は多いです。誰もが『私なんかが一般社会に戻れるわけがない』と思っていて。それはやっぱり、生活水準を下げるのが怖いってのもひとつの理由だと思います」
看護師として目指すは未来は…
もう一つ気をつけていることがあるという。
「14年間、更新し続けたブログはもちろんTwitterアカウントも消しました。今までの思い出や趣味などを書き溜めたアルバムのような存在でしたが、心の片隅に、一般職で失敗したら戻れるかもしれないと思う保険の気持ちがあった。だからこそ削除したんです」
自らのアカウントを消したように、風俗関係者のSNSも徹底して見ないようにしている。
「やはりお金がある人たちの煌びやかな生活や日常を見てしまうことで『羨ましい』という感情が芽生えるかもしれないし、完全復帰ではなく小遣い稼ぎ程度で戻ってもいいのではないかという甘い考えが出ちゃうかもしれないからです。それくらい風俗業界は出戻りに対してやさしい業界でもあるから、余計に徹底しています」
最後に、とゆみさんは言う。
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「今、自分は看護師。今の生活が普通なんですよね。一般職に戻ったとしてもストレスは絶えず、医療の現場でのいじめや患者様から暴言を吐かれるなどのストレスも当然あります。でも、風俗嬢時代の精神的ストレスの度合いとは違うと感じています」
とはいえ14年間も働いていたのなら、貯金額も相当だったのでは? と聞くと…
「実はゼロです(笑)。なんだかんだ無駄遣いの積み重ねをしたし、当時、付き合っていたヒモのような男性にすべて取られてしまいましたので(笑)。でも貯金ゼロからのスタートはある意味では生き直しな気がして清々しい気持ちです」
復帰して1年2ヶ月になるゆみさん。「患者様にとってのオンリーワンでいたいです。この人に看護されたら安心って思ってもらえるような看護師でありたいです」と前を向く。
取材・文・撮影/河合桃子
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