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総理大臣会見では10年ぶり! 新規参加のフリー記者が岸田首相に質問した一部始終

集英社オンライン / 2022年11月9日 13時1分

「直近10年で新たに事前登録が認められたフリーランス記者は0名」という、日本の総理大臣記者会見の異常な閉鎖性を伝えるシリーズ企画の第5弾。フリーランス記者として10年ぶりに同会見への参加に成功した犬飼淳氏は、2回目の参加となった10月28日の会見で、ついに岸田総理に初めて質問することができた。これまでの経緯を振り返り、日本の報道自由度の現在地を改めて考える。

ついに初質問に成功!

総理大臣記者会見への2回目の参加となった10月28日、ついに筆者は岸田文雄総理への初質問を果たした。

初参加となった前回(8月10日)のリポート記事でも紹介した通り、指名される記者は事前におおむね決まっているという噂は事実と判断せざるを得ない状況だったため、立場の弱いフリーランスである筆者が総理に質問するには数年かかる可能性も覚悟していた。



そのため、質問内容を官邸に事前提出していない筆者が2回目の参加でなぜ指名してもらえたのかは今でも全く分からず、筆者自身がこの急展開に最も驚いている。

ともあれ、念願の指名を受けて筆者は継続的に追ってきたインボイス制度について質問することができた。

これまで岸田総理を始めとする政府が導入根拠に挙げてきた「複数税率下での適切な課税に必要」という主張は今年2月〜3月の国会質疑で導入根拠として全く成立していないと明らかになっていることを踏まえて、これ以外にまともな導入根拠が存在するのかを問い質した。


*問題の国会質疑の詳細は、6月23日に筆者が集英社オンラインに寄稿した「インボイス導入の本当の狙いは「消費税20%超増税」への布石か?」参照

結果、岸田総理はインボイスの導入根拠を一言も説明できず、まともな導入根拠が存在しないことを改めて露呈する形となった。岸田総理の2分弱の回答が全く質問の回答になっていないことは、筆者が不誠実答弁を視覚化する際に用いてきた「信号無視話法」の手法を採り入れた下記のYoutube映像をご覧頂ければ、お分かり頂けるはずだ。

*外部配信サイト等で動画を再生できない場合は筆者のYoutubeチャンネル「犬飼淳」で視聴可能。

*質疑の詳しい解説は筆者がtheletter「犬飼淳のニュースレター」で10月30日に公開した「首相会見で自ら質問! しかし、インボイス導入根拠を一言も説明できない岸田総理」参照

会見に同席したはずの内閣記者会 常勤幹事社19社(テレビ局、全国紙、ブロック紙を中心とする大手メディア)が、この質疑を全く報じていないことは非常に残念なことだ。だが、すでにインボイス導入まで1年を切ったにもかかわらず、総理がまともな導入根拠を一言も説明できないという衝撃的事実が、公の場で明らかになったことには大きな意味があったのではないか。

日本における「報道の自由」の現在地

「国境なき記者団」による世界報道自由度ランキングが71位にまで転落し、原因の一つである総理大臣記者会見の閉鎖性に疑問を呈する記事を筆者が集英社オンラインに寄稿したのは今年5月末。

「直近10年で新たに事前登録が認められたフリーランス記者は0名」という異常な閉鎖性を問題視して、同会見に参加・質問できるのかを自ら体当たりリポートするという趣旨で始まったのが、このシリーズ企画だ。

何年経っても参加も質問もできないまま企画倒れする結末も覚悟していたが、まさか僅か5ヶ月で当初のゴールである初質問へ辿り着くとは筆者も編集部も全く想像していなかった。

この5ヶ月間に総理大臣記者会見を通して筆者が体験した出来事を踏まえて日本の報道の自由の現在地を考えてみると、閉鎖的だった面もある一方、想像よりはマシだったと思える面も多々あった。

想像以上に閉鎖的だった面については、theletter「犬飼淳のニュースレター」で配信したリポートで詳述しているため、今回は「想像よりマシだった面」に焦点を当てて、可能な限りポジティブに、前向きに、事実を振り返りたい。

まず、私が総理大臣記者会見への参加条件を満たすために提出した署名記事(直近3ヶ月以内に各月1つ以上、総理や官邸に関する署名記事を加盟社で書くことが求められる)は以下3点であった。

なぜ君は総理会見に参加できないのか? 「報道自由度71位」という日本の異常な現実(5月31日公開)
インボイス導入の本当の狙いは「消費税20%超増税」への布石か?(6月23日公開)
なぜ君は総理会見に参加できないのか? 直近10年「新規登録0人」の異常性(7月7日公開)

タイトルからも明らかな通り、全てが政権に批判的な内容だ。しかも、このうちの2つは総理大臣記者会見の閉鎖性を批判する内容だ。つまり、総理大臣記者会見に参加するための根拠として、総理大臣記者会見を批判する記事を提出したわけだ。最初からケンカを売っていると解釈されても致し方ない。

しかし、官邸報道室はこのような記事を提出しても、参加資格として認めた。報道規制が本当に厳しい国であれば、政権に批判的な記事を書くジャーナリストは会見から完全に締め出す対応がとられることもあるが、幸い日本は現時点では流石にそこまでは堕ちていないことがこの事実からハッキリと分かる。

「3回中、2回当選」という事実

もちろん、参加資格が認められても「内閣記者会以外(外国プレス・雑誌・フリー等)」の参加枠は10席に限られるため、抽選に選ばれないと会見には参加できない。

*コロナ禍以降の総理大臣記者会見は感染対策を理由にペン記者(質問が許されている記者)の参加人数は29名に制限されており、うち19名は内閣記者会 常勤幹事社19社(1社1名ずつ)。残り10名が内閣記者会以外(外国プレス・雑誌・フリー等)。

ただでさえ普段から官邸への取材機会を制限されている「内閣記者会以外(外国プレス・雑誌・フリー等)」にとっては貴重な取材機会のため、申込数は多く、毎回のように抽選が行われている。

この抽選を官邸報道室は公平に行なっていると説明しているが、正直なところ、これについても当初は半信半疑であった。

ところが、フタをあけてみれば筆者が同会見への参加資格を満たした後に申し込んだ3回のうち、なんと2回(8月10日、10月28日)も抽選に当たって参加することができた。連続して抽選に外れることも珍しくない中、非常に幸運だったと言える。

しかも、筆者は初参加となった8月10日(改造内閣発足日)の会見終了時に岸田総理に対して、会見室に響き渡るほどの大声で「8人しかやってません! 短すぎます!」と抗議しているのだ。

この日、大きな注目を集めていた旧統一教会をめぐる問題の説明責任を岸田総理が全く果たさないまま、わずか30分弱の質疑で会見を終えようとした上、質問者8名の大半が極めて形式的で緩い質問に終始。

筆者としては我慢の限界を超える状況だったが、とはいえ初参加の駆け出しフリーランス記者がいきなり総理に“野次”を飛ばしたのだ。官邸からも内閣記者会からも「要注意人物」と一発認定されたことは間違いない。

*外部配信サイト等で動画を再生できない場合は筆者のYoutubeチャンネル「犬飼淳」で視聴可能。

ここまで好き勝手に行動していたにもかかわらず、その次の2回目の参加で初めて質問することができたのだ。フリーランス記者の場合、初参加から初質問までに数年、人によっては10年近くかかったとも聞いていたので、筆者は極めて幸運だ。

こうした事実を踏まえると、総理大臣記者会見は確かに閉鎖性が高いが、ギリギリのところで最低限の公平性は担保されているのかもしれない。

諦めなければフリー記者も会見で総理に質問できる

とはいえ、第2次安倍政権以降発足以降のここ10年で、こうした公平性が急速に悪化していることは間違いなく、このまま誰も抵抗しなければ悪化の一途を辿るだけだろう。

会見の閉鎖性を改善していくには、やはり「内閣記者会以外(外国プレス、フリーランス 等)」の新たな参加者がどんどん増えるべきだと思う。

現に、官邸という小さなムラの常識を全く知らない筆者が初参加したことで、会見の異常性が改めて世間に知られる機会となった。

そこで声を大にして言いたいのは、ぜひ新たなフリーランス記者に、今後もどんどん参加して欲しいということだ。私も継続して参加するうちにムラの常識(一般社会では非常識)に慣れてしまい、違和感に気付けなくなってしまう恐れがある。やはり、フレッシュな立場の視点は常に必要だ。

そもそも10年間にわたって新規のフリーランス記者が参加できなかった最大の理由は、参加条件(直近3ヶ月以内に各月1つ以上 総理や官邸に関する署名記事を加盟社で掲載し続ける、署名記事の掲載媒体から推薦状を得る)のハードルが、取材機会が限られるフリーランスにとって申請を諦めざるを得ないほど高かったからであろう。

現に官邸からは「直近10年間にわたって、そもそも参加を申請する新規のフリーランス記者がいなかった」と聞いている。

*筆者が参加条件を満たした経緯の詳細は、9月1日に集英社オンラインに寄稿した「民主党政権以来10年ぶり! ついに総理大臣記者会見への参加が認められた【顛末レポート】」 参照

だが、逆に言えば、この厳しい参加条件を満たしさえすれば、どれだけ政権に批判的な記者であっても、(少なくとも現時点では)官邸は申請を公平に審査していることがわかったし、運がよければ指名されることもある。

これだけの事実を、筆者はこの5ヶ月で実体験をもとに積み上げてきた。ここまで計5回にわたる集英社オンラインの連載で一連の具体的な流れ(申請~抽選~参加~質問)を詳細に書いてきたので、ぜひ参考にして頂きたい。


文/犬飼淳 写真/小川裕夫

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