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独特な五・七・五、東京とソウルの交換日記、コロナ禍の美大生の創造…「TOKYO ART BOOK FAIR」で見つけた名作たち

集英社オンライン / 2022年11月10日 10時1分

年に一度、東京都内で開催される「TOKYO ART BOOK FAIR」は、2009年に始まった日本初のアート出版に特化したブックフェアだ。今年も10月27〜30日に東京都現代美術館で開催され、多様な作品が集った。その中で特に印象的だった作り手と作品を紹介しよう。

「TOKYO ART BOOK FAIR 2022」の会場には多くの人が訪れた

「TOKYO ART BOOK FAIR」(以下、TABF)は個人からグループ、ギャラリー、出版社、印刷会社までの出展者の幅広さが特徴で、今年は約200組が参加した。

このフェアの大きな魅力は、作り手との交流だ。制作者に話を聞きながら多様な表現に触れられる機会は、日常ではそう多くない。



今回、国内外のマニアックな雑誌に特化したオンラインストアを営む筆者がTABFへ足を運んだ。

複数のセクションの中で、毎年未知の才能が眠っている「ZINE’S MATE AREA」(旧Z SECTION)をまわり、70組の出展者から特に面白いと感じた作り手6組とその作品をピックアップした。

個人で活動するアーティストらが出展する「ZINE’S MATE AREA」

<俳句ジョージ>

詩人のジョージ・ネルソンさん

独特なリズムの五・七・五が魅力

「俳句」と冠しているものの日本人がイメージする「五・七・五」とも少し違うような独特なリズムで表現される、ジョージ・ネルソンさんの俳句集に惹かれた。

ニュージーランド出身のジョージさんは、7年前に留学のため東京へ。「授業がつまらなくて、授業中にヒップホップの歌詞を書こうとしたらダサくなっちゃって。それなら『五・七・五』にすればいいんじゃないと思った」とジョージさん。
「星多い 夢もいっぱい がんばろう」という一句を詠んだことから活動が始まった。

ジョージさんの詩集シリーズ(各¥1,650)。現在、4冊目まで出版している

以来、ずっと「五・七・五」で自身の心を表現しているのだという。俳句に添えられる線画のイラストレーションと、あえて手書きの文字を印刷しているのもいい。

「元カノの影響」だという関西弁を時折交えながらのプレゼンテーションはユニークでぐんぐん引き込まれてしまう。イベントなどにも積極的に出展しているようなので、ぜひ本人に直接会って多くの方に魅力を感じてほしい。

「とりあえずおどる」はジョージさんの座右の銘

<長岡綾子>

グラフィックデザイナーの長岡綾子さん

注目されない「面白さ」を伝える

豆腐のパッケージ裏面の模様、文具を花器に見立てた生け花、お菓子のパッケージに見立てたホームセンターの日用品……どれも日常でよく目にするものだが、こんな見方ができるとは。デザインを生業にしている長岡綾子(りょうこ)さんのものを捉える視点に唸った。

豆腐の容器裏面の模様をプリントした作品集『PRINT SAMPLE Food package of the TOFU』(¥5,940)

長岡さんは「美術に興味を持ったときに、こちら次第で世界の見え方が変わるんだと感動したことが発端で。何でもない日用品やゴミが、視点次第で面白くなったら精神的に豊かになるのではと思いました」と話す。

一連のシリーズは、誰も注目していないようなところに面白さが潜んでいることを教えてくれる。今年は、研究者へのインタビューと写真を通して研究の魅力を伝える雑誌『Q』の制作も開始した。

写真左の『Q』(¥660)創刊号では、動物考古学者のインタビューを掲載

「知られていないことを伝えていきたい」と、誠実に情報を届けようとする姿勢が印象的だった。細部に宿るデザインのこだわりにも注目だ。

<SIGMAGAZINE>

「Translation」がテーマの『SIGMAGAZINE』#3(¥2,000)

コロナ禍の空白に「なんかおもしろイイもの」

『SIGMAGAZINE』の「SIG」とは、「something interesting good」(何か面白くて、いい)の頭文字を取ったもので、「Σ(sigma)」は2つ以上の総和を表す記号。「私たちの“Something interesting good”な発見を組み合わせて、あなたの視点を90°くらい傾ける」というステートメントがユニークだ。

本誌は、当時美術大学の学生だった7人で始まったリトルプレスプロジェクト。「コロナ禍で大学に行けなくなって生まれた空白の時間でものづくりをしたい」と新嶋晃基さんが発起人となり始まったそうだ。仕掛けのあるホームページも面白い。

現在は、新嶋さんと河島倫子さんのふたりが主体となり、日常のモチーフや現象をキーワードに、平面造形や写真、文章、印刷、ウェブを用いて制作を続ける。

作り手のひとり、デザイナーの河島倫子さん

「Translation」がテーマのVol.3では、テキストでできた絵がフォントの変換によって表情を変えるよう、また縦横幅を引き伸ばすことで正しい比率になるグラフィックに目からウロコが落ちる。実験をしながら、予想外の着地点への到達を自ら楽しむという柔軟さがいい。

ペーパーバッグサイズの200ページ

<かもめ姉妹>

日本で出会って以来、友達になったマキさん(左)とハナさん

東京とソウルの「小さな楽しみ」を交換

10年前から親交を深めてきた韓国人のハナさんと日本人のマキさん。コロナ禍で突然会えなくなってしまい、互いの日常を報告するオンライン上のやりとりから本誌は始まった。

ふたりとも映画『かもめ食堂』が好きだから、かもめ姉妹。海を間に挟んで行き来するという意味も込めている。「小さな楽しみを探す」と謳う通り、それぞれが暮らすソウル、東京の街に対する思いや好きな場所について綴り合い、日常に潜むささやかな感情を丁寧にすくい取る文章が心地いい。

『かもめ姉妹』#1〜3(¥1,100〜1,300)は、韓国語と日本語の2カ国語表記

どんな風景を見ながら何を感じ、日々を過ごしているのか。そんな問いを読み手にも投げかける。ふたりは同名のウェブマガジンも運営し、毎週更新。紙版は現在3号まで出ていて、「小さいマガジンをたくさんつくって、いずれ本にまとめたい」と話す。

優しい語り口と、離れていても互いを思い合う気持ち。今日もかもめ姉妹は、言葉と写真を通じて心を通わせているのだろう。

A2のペラ1枚を3回折り畳んだA5サイズ

<台湾囡仔>

台湾出身で、日本に暮らすTEI YUさん

カオスだけどなぜか懐かしい

ファンシーでカオスな色使い。でも、どこか懐かしさを感じるような空間が広がっていた台湾出身のTEI YUさんのブース「台湾囡仔」。

肉の断面をスキャンした写真が表紙の、その名も『肉』という冊子がまず目に飛び込んできた。「成分:(LOVE/100%)、賞味期限:2022/10/30」とある。日付はTABFの最終日だ。

『肉』(¥2,500)は台湾の夜市を紹介している

TEI YUさんは、5年前にスタイリストを目指して台湾から移住し、文化服装学院を卒業後アパレル業界で働いている。

「台湾の庶民文化を紹介したくて。夜市は私にとって親しみがある場所だけど、実はちょっと悲しいストーリーもあることを伝えたかったんです」

隣に並んでいた『我欲甲你做伙幾系郎』は広げると4mもある蛇腹の本で、部屋にある日用品と家電を使い、自身をモデルにしてスタイリング。写真やイラスト、グラフィック、文字との一見めちゃくちゃなコラージュに圧倒される。

『我欲甲你做伙幾系郎』(¥2,000)はコロナ禍に自宅で撮影をした

台湾と日本の文化をミックスさせながら作り続ける作品をもっともっと見てみたい。

購入すると、ビニールにパッケージングして持ち手ヒモをつけてくれた。台湾でポピュラーな包み方だそう

<HATORI HIROMI>

TABFで異彩を放ったHATORI HIROMIさん

ジンから納豆、焼きそばへの飛躍

さまざまなアートブックが会場にひしめく中で、異質な空間が目に入った。「おにぎり」「なっとう」「出来立て可 やきそば」「焼き立て可 餃子」と書かれる紙が並んでいる。

鉄板の上に見えるのは、毛糸でできた焼きそば。隣にはパック詰めされた餃子やおにぎりなどが鎮座。もちろん食品ではなく、布でつくられた作品だ。これぞ現代アート。本屋ではなかなか出合えないような変わり種に遭遇できるのがTABFの醍醐味だと改めて感じる。

『なっとう』(¥1,000)、『やきそば』(¥600)

容器を開けると毛糸の納豆が入っている

「幼い頃から手を動かして何かをつくるのが好きだった」と話すHATORI HIROMIさん。今回が初めての出展だという。

大学時代にジンをつくり始め、本を「開く」という動作に着目して発展したのが一連の作品とのこと。ジンからこの形への飛躍が面白いし、HATORIさんの全力で遊ぶ楽しさがひしひしと伝わり、ホクホクとした気持ちで会場を後にした。

「HATORI HIROMI」Instagram>>

取材・文/高山かおり
撮影/山野一真

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