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解散までの3年間になにが起きたのか。記録映画が語るビートルズの葛藤と音楽愛

集英社オンライン / 2022年11月20日 12時1分

長編ドキュメンタリー・シリーズ『ザ・ビートルズ: Get Back』がディズニープラスで独占配信(2021年)されてから、約1年。話題は落ち着いたかに見えたが、この秋、またビートルズの魅力を深掘りした作品が世に出された。その魅力について、音楽ライター金澤寿和氏が解説する。

インドで瞑想したビートルズ

3部構成、約8時間の長編ドキュメンタリー・シリーズ『ザ・ビートルズ: Get Back』がディズニープラスで独占配信されてから約1年になるが、一番盛り上がったのは配信開始直後と、第3部のラスト・ライブ・パフォーマンス『ルーフトップ・コンサート』が今年2月に5日間限定で劇場公開された時だろう。そして7月にはブルーレイとDVDの形でパッケージ化され一般発売。


『ザ・ビートルズ:Get Back』Blu-rayコレクターズ・セット発売中。© 2022 Apple Corps Limited. Artwork © 2022 Disney/Apple Corps Limited.発売/ウォルト・ディズニー・ジャパン

この作品のオリジナルは1970年に公開された映画『レット・イット・ビー』である。しかしそれはまるで「ビートルズ解散のドキュメンタリー」のようにネガティヴな立ち位置で編集されており、暗く重苦しい内容だった。

その『レット・イット・ビー』を一から編集し直し、復刻したのが『ザ・ビートルズ: Get Back』だ。笑顔とユーモアに満ちたこの作品は、限定配信開始当時、大きな話題をさらったのである。ブルーレイ、DVDを発売してからしばらく時間が経ち、その話題も落ち着いてきたかに見えた。

しかしその様相が変わってきている。きっかけの一つが、ビートルズが67年に超越瞑想を学ぼうとインドを訪れた時の記録を辿った映画『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』の公開(2022年9月23日から全国公開中)。

そしてもう一つが、彼らが転機を迎えた66年のアルバム『リボルバー』のスペシャル・エディション(新規ミックスや未発表音源多数)のリリース(同10月28日)だ。

『リボルバー』のレコーディングから、ルーフトップ・コンサートを行った時期、ビートルズは世界中を飛び回るコンサート活動を中止し、スタジオに籠って音の実験を重ねていった。

そこでバンドは音楽的に成長し、メンバー個々のパーソナリティが明確になり、皮肉にも解散へと突き進んでいく。そうした内部の実態が、約3年の間、彼らを映した一連の作品の中に、刻み込まれている。

1960年代後半、ビートルズに何が起こったか

3年間に何が起こったか。駆け足で時系列的に追ってみよう。

『リボルバー』のレコーディングは1966年4〜6月。最初で最後となる日本公演の直前だ。既に前作『ラバー・ソウル』で、シタール導入や斬新なコード・ワークの使用など新しいトライアルを行なっていたビートルズ。

だが『リボルバー』での音楽的進化の度合いは、それまでの比では無かった。

そして同年10月の発売日を前に、トラブルばかりが続いていた世界各国でのライブ活動を停止。ファンや野次馬たちの喧騒から離れ、自由な時間を持てるようになった。

そこでメンバーたちはそれぞれに、音楽的にもプライベートでも、自分探しの旅を始めることになる。この時期にメンバーの結婚や婚約が相次いだり、新しいパートナーと出会ったのも、決して偶然ではないだろう。

思想家でアジテイター的側面もあるジョン・レノンと、真のメロディメーカー、ポール・マッカートニーという天才二人。そしてマスコット的存在のリンゴ・スター。その3人に囲まれたコモンマン、ジョージ・ハリスンが、グループ内で初めて大きな存在感を発揮したのが、インドへの傾倒だった。

映画『ヘルプ』の撮影で初めてシタールに触れたジョージは、名人ラヴィ・シャンカールに演奏法を習い、インドの精神世界にも惹かれて、ヒンドゥー教の流れを汲む超越瞑想の導師マハリシ・マヘーシュ・ヨーギーに会う。

マハリシ・マヘーシュ・ヨーギーとビートルズご一行。© B6B-II FILMS INC. 2020. All rights reserved

そしてジョンやポール、そのパートナーらを伴って、67年8月にロンドンで開催されたマハリシの講義に参加。

翌年2月には、メンバー4人が各パートナーを連れて、北インド・リシケシュにあるマハリシの僧院アシュラを訪れ、彼の教えに耳を傾けながら瞑想に耽る日々を送った。

リシケシュにあるマハリシの僧院。© B6B-II FILMS INC. 2020. All rights reserved

世界中を飛び回り、熱狂的ファンに追い回されたことから一転、ゆったり流れる時間を過ごした彼らが、心身ともにリフレッシュできたのは間違いない。68年に発表された2枚組『ザ・ビートルズ(通称ホワイト・アルバム)』の収録曲の多くがここで書かれたことも、ファンならよく知るところだろう。

「育ての親」の急死

ビートルズの歩みに絶大な影響を与えた事件も、この時期に発生している。ロンドンでマハリシの講座を受けた直後に起きた、敏腕マネージャー、ブライアン・エプスタインの急死だ。

リヴァプールで彼らの才能を発掘したエプスタイン。仲はいいがやんちゃだった彼らをバンドとしてまとめ上げ、徹底したイメージ戦略を使って世界的な存在に仕立て上げたのは、まさに彼の手腕である。

ところが、ライブ活動を休止させた4人がそれぞれにアイデンティティの発露を求めるようになった時、メンバーに意見できる立場のエプスタインが突然この世を去り、4人の不協和音が一気に膨らんでしまった。そんなタイミングでのインド行きは、後の彼らの歩みを左右するものになった。

映画『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』は、マハリシの僧院で偶然4人に出会って親しくなったカナダ人青年の目から見たビートルズの回想記録だ。

世間から隔離されたサマー・キャンプのような僧院で自然に振る舞う4人には、エプスタイン亡き後のバンドをどうするか、メンバー各自がそれにどう関わっていくべきかを深く考え、互いに模索し合っているのが見て取れる。

同時に、ジョンやポールらがテラスに座ってギターを掻き鳴らして一緒に歌う姿には、まだ10代だったアマチュア時代を懐かしむ空気があり、音楽や仲間へのたゆまぬ愛情と、昔のままではいられなくなってしまった寂寥感が複雑に混じり合う。

テラスで曲を書くジョンとポール、耳を傾けるリンゴ。© B6B-II FILMS INC. 2020. All rights reserved

この時を以ってビートルズは、4人一丸の融合体から個々を尊重した共同体へと、かたちを変えていったのかもしれない。

ドキュメンタリー・シリーズ『ザ・ビートルズ: Get Back』とオリジナルの『レット・イット・ビー』の原点は、69年年明け早々に始まったTVのライブ・ショウに向けてのリハーサルである。

しかし、本来は映画撮影用だったトゥイッケナム・スタジオの音の悪さを発端に、メンバー間のいざこざが噴出。リハーサルは暗礁に乗り上げ、ジョージの脱退宣言まで飛び出した。そこでTVライブを延期、まずはアルバム制作を目指すことに。セッションも、完成したばかりのアップル・スタジオに場所を移した。

伝説のルーフトップ・コンサートで原点へ

アップルでのセッションはトゥイッケナムとは段違いに好調だった。一時離脱したジョージが、アップル・スタジオでは積極的に発言し、「今は演奏するのが楽しくて仕方がない」なんて言っているくらいである。

アップル・スタジオでのレコーディング・セッション。『ザ・ビートルズ:Get Back』Blu-rayコレクターズ・セット発売中。© 2022 Apple Corps. Ltd. All Rights Reserved.発売/ウォルト・ディズニー・ジャパン

もちろん音楽面で激しく意見を戦わせる場面は出てくるが、レコーディングの合間にアマチュア時代のレパートリーや当時のヒット曲でセッションに興じたり、家族やスタッフとふざけ合ったり、とにかく笑顔が絶えないことに驚いた。

そしてTVライブの代案として、1月30日にアップル・ビルの屋上で通称ルーフトップ・コンサートが行われ、その模様がライヴ録音及び映画用にシュートされる。『Get Back』というタイトルは、バンドの原点に戻るべくライブ一発録りを行なうというコンセプトの象徴だった。

アップル・ビルの屋上でのルーフトップ・コンサート。『ザ・ビートルズ:Get Back』Blu-rayコレクターズ・セット発売中。© 2022 Apple Corps. Ltd. All Rights Reserved.発売/ウォルト・ディズニー・ジャパン

『ザ・ビートルズ:Get Back』は配信開始当時、未発表映像やレストアされた画像の鮮明さ以上に大きな話題になったのは、ネガティヴなシーンが少なく、笑顔とユーモアに満ちた場面が多かったことだ。

トゥイッケナムの映像が多く使われ、重苦しい内容でビートルズ解散へのドキュメントとして受け止められたオリジナルの『レット・イット・ビー』とは、編集のコンセプトが大きく違っていた。

旧作がこれまで復刻されなかったのは、メンバーの間に「真実を伝えていない」という気持ちが大きかったからだと思われる。ビジネスやバンドの将来を語り合うと意見が割れてしまうけれど、楽器を手にしてみんなで音を出すと、自然に心が通じ合う。やはりビートルズの礎は、ハイスクール時代からの音楽仲間というところにあるのだ。

発売順こそ逆になったが、ビートルズ最後のアルバムとしてレコーディングされた『アビー・ロード』の完成度の高さは、共同体ビートルズのポテンシャルの高さを見事に表現している。

結論めいたことを書くなら、俗にいう中期〜後期ビートルズを捉えたこれらの映像群は、エプスタインの下にいた4人の悪ガキたちが成長し、それぞれの自我に目覚め、独立していく「青春グラフィティ」なのではないだろうか。

大人のように見えても、解散時点でジョンは29歳、一番若いジョージは27歳。活躍の舞台は大きかったけれど、彼らの素の姿は、音楽を愛する多くの若者たちとそう変わらない。

そんな4人の成長と、バンドの人間模様を窺い知ることができる『ザ・ビートルズ: Get Back』。この秋、『リボルバー』制作の裏側、インドでの彼らの自然な姿を知った上で見ると、また違った視点で楽しめる。若々しいビートルズの内面的魅力が、一層ヴィヴィッドなかたちで胸に響くのだ。


文/金澤寿和

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