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「iPadはコンピュータとして設計していない」––Apple役員が語る「iPadと教育の未来」

集英社オンライン / 2022年11月18日 9時1分

タブレット界のトップランナーとして確固たる地位を築いたAppleのiPadシリーズ。さまざまな分野での活用が進むが、特に近年、教育現場での存在感が増している。Appleが考える教育市場におけるiPadの革新性とは? Appleのワールドワイドプロダクトマーケティング担当で副社長のボブ・ボーチャーズ氏に話を聞いた。

「学び」を変えるiPad

登場から11年が経過したiPad。2022年10月には、第10世代となるiPadがフルモデルチェンジしてリリースされたばかりだ。

iPhoneに先駆けて開発が進んでいたとされる「指での操作」を前提とした大画面を備えるデバイスは、「タブレット」というコンピュータのカテゴリを成立させ、今もなおトップランナーとして君臨している。



このデバイスは家の中だけでなく、建築、航空・交通分野、店舗など、「現場」が存在するビジネスシーンでの活用が深く進んでいる。その一方で、Appleが非常に大切にし、また象徴的な利用シーンとなっているのが「教育」の場だ。

今回、Appleのワールドワイドプロダクトマーケティング担当副社長ボブ・ボーチャーズ(Bob Borchers)氏に、第10世代iPadについて、そしてiPadと教育の現在・未来について、インタビューする機会をいただいた。

同氏は、「iPadにとって教育市場は非常に重要だ」と語る。

学びの現場では、その効率性を高めるためのルールが多数存在してきた。しかし時代が進むにつれて、それが多様化し、またルールに縛られない自由な思考や学びが取り入れられるようになってきた。

iPadは、そうした学びの環境の変化を吸収し、可能性を拡げる存在になることを目指しているという。いくつかの例を交えながら、学びとiPadの関係について、探ってみよう。

教育現場での活用が進むiPad

生徒にとってノートと鉛筆、それ以上

筆者は現在大学で教鞭を執っており、出張授業などで中学校や高等学校を訪問する機会も多い。その際、訪問先で目にする変化の様子で驚かされるのは、ノートと鉛筆が、iPadとApple Pencilに置き換えられていることだ。

生徒たちはiPadで授業ノートを取り、それをしばしば友人たちと共有している。また調べ学習ではアプリを切り替えながら情報をiPadにまとめていき、グループで収集した情報を共同編集できるスライドにまとめ上げていく。手書きも交えて活き活きと表現されるそのスライドは、ビジネスの現場のそれよりも、見ていてワクワクさせられる。

ボブ・ボーチャーズ氏によると、iPadを使ったノートテイキングは、世界的に広がっているそうだ。

「iPadでApple Pencilが使えるようになってから、世界中の学生が、ノートをiPadで取るようになりました。さらに、イラストにしたり、図や写真に書き込んだり、場合によってはアートを作り出したり。自分の表現を手助けするために、iPadとApple Pencilで自然に創造性を発揮し始めたのです」(ボーチャーズ氏)

Appleのワールドワイドプロダクトマーケティング担当副社長ボブ・ボーチャーズ氏

創造性と生産性のユニークな融合

教室の中でiPadが活用される様子を見ていていつも驚かされるのが、そのスピード感だ。生徒たちはグループに分かれて15分も経てば、調べたことが数ページのスライドにまとまり、すぐにでも発表できる準備が整う。

いくつかのGIGAスクールの現場を取材していて判明したが、この「15分」という時間は、授業が始まって、デバイスで何か始めるために教室内の準備が整うまでの時間と等しいことすらある。これは「コンピュータを学ぶ」ではなく、「コンピュータを用いて学ぶ」を体現する中で、iPadの優位性が表れる例と言える。

「そこがiPadと他のデバイスの大きな違いです。iPadなら、デジタルなものを使うことに生徒たちがストレスを感じず、やりたいことを何でもできます。iPadを使うために覚えることはごくわずかで、すぐに使い始めることができる点は、生産性の高さにつながるでしょう。

iPadは、何か特定の用途のために設計されたわけではありません。iPadが登場した頃、私たちは『魔法のガラス板』と呼びましたが、ストレスなく使えて、柔軟性があり、わかりやすい製品にしたかったのです。

加えて、Apple Pencilが使えるようになったことで、iPadはより生産性と創造性を兼ね備えるユニークな存在になりましたね」(ボーチャーズ氏)

「誰でもストレスなく扱える点は、iPadの優位性である」と指摘するボブ・ボーチャーズ氏

新モデルのマジックと新OSでの進化

Appleが新たに発表したiPad(第10世代)では、これまでのホームボタンを搭載したデザインを廃止し、上位モデルと同様のフルスクリーンデザインを採用した。さらにブルー、イエロー、ピンク、シルバーのポップな4色を用意し、「選ぶ楽しさ」を提供している。

今回のiPadには、「Magic Keyboard Folio」という着脱式のキーボードとキックスタンドを備えるアクセサリが追加された。キーボードの有無にかかわらずiPadを自立させることができ、膝の上でも角度を付けてApple Pencilで書き込むこともできる。

この魔法のようなアクセサリも、教室という学びの現場に寄り添って考え抜かれたデザインだ。ペンとキーボード、講義とディスカッションなど、1つの授業の中でめまぐるしく変わる学びの場面にスムーズに対応できる設計といえる。

加えて、新しいiPadでは、カメラの位置が長方形の短い辺から、長い辺に移された。新型コロナウイルスのパンデミック以降、iPadでビデオ会議やオンライン授業に参加する機会が増え、かつキーボードと組み合わせて使う場合には横長に構えて使うことが多くなった。カメラ位置の変更に関しては、「視線が自然になる位置に移動させた」そうだ。

2022年10月に発表された新iPad(第10世代)

そして、年内配信予定のiPadOS 16.2における新アプリ「Freeform(フリーフォーム)」も、学びの現場において意欲的だ。簡単に言えば、巨大な模造紙やホワイトボードのようなアプリで、一人で、もしくは複数の人が同時に書き込むことができる、コラボレーション向けのツールとなる。

「我々が提供したかったのは、『無限のキャンバス』です。Freeformは手書きや文字入力、写真やビデオ、ファイルなどを配置することができるコラボレーションの場で、iPadの設計思想と同様、生産性と創造性を兼ね備えた新しいアプリと言えます。

普段やっているように、グループのメンバーをすぐに共有相手に加えて一緒にコラボレーションを開始してもいいですし、教室の生徒全員を1つのFreeformに参加させて、グループごとに領域に集まって書き込む、といったスタイルも実現できます」(ボーチャーズ氏)

Freeformは、グループごとの議論においては非常に強力なツールだ。筆者もケーススタディの授業などでは、グループごとに大きめのホワイトボードを用意して、書きながらディスカッションをしてもらう。このとき、ホワイトボードに書き切れなくなり、スマートフォンで写真を撮ってから消して、議論を再開する、といったシーンを何度も見てきた。その点で、Freeformが提供する「無限のキャンバス」が教育現場で有効であることは、「体験知」として非常に理解できる。

年内登場予定の新アプリ「Freeform」

「狭い枠」に押し込めない

Freeformは、「教育現場におけるiPadの存在を非常によく表現している」、とボブ・ボーチャーズ氏は考えている。あらゆる可能性に満ちた教育の現場において、それに応える多用途でクリエイティビティを発揮できる「iPadらしさ」の延長上に存在しているからだ。

「iPadが独自性を保てているのは、我々が“コンピュータ”としてiPadをデザインしていないからです。何かの用途に限定せず、多彩な可能性に対応し続けられるように努めています。

iPadは、あくまで“タッチファースト”な体験が中心です。Apple Pencilやキーボードを追加することもできますが、それが必須なわけではありません。結果として、何かメモを取ったり、写真やビデオを撮影したり、それを編集したり。また、映画を観る場所にもなりますし、コードを学んで、iPadで動作するアプリを作る場所にすらなります。偉大な小説を書く次世代の作家も現れるでしょう。

しかし、どんな用途であっても、私たちにとっては等しく重要です。多彩な用途で、生産性と創造性を発揮することを目指しているからです。だから狭い枠に押し込めようとせず、お使いになる皆さんの手に委ねて、どんな場面でも信じられないほどパワフルで革新的なものになるよう努力してきました。

次の世代が、この生産性と創造性の上で成長していくことは、今後の社会においても役立つでしょう。世界にまたがる難題を解決するうえでは、自由な発想を持ち、コラボレーションに長けた発明家やイノベーターが活躍すると考えるからです」(ボーチャーズ氏)

iPadを活用した授業を目の当たりにすると、日本の教室においても、生産性の向上は数多く見かけることができる。そのうえで、議論を起こし、アイディアを教室の中で共有することを通じて創造性を発揮できるFreeformのようなツールも用意されるようになった。

教育現場では「ある程度柔軟性を保ちながらも、学習目標を達成する」ということが求められるが、Appleはそこにも熱心に取り組んでいる。
その一例として、世界における新しい学びのアイディアを集めて発信するWebページや、「Everyone Can Code」や「Everyone Can Create」といったプログラミングや創造性を養う独自の活用カリキュラムが用意されている。

iPadを授業に活用する教員向けに、その実践事例を紹介するAppleのWebサイト(https://www.apple.com/jp/education/giga/

「Appleは、人々が最も快適な方法で創造性を発揮できることを目指している」とボブ・ボーチャーズ氏は指摘する。

iPadをきっかけに進む、学びの変革。
生産性、創造性を向上するための環境が、いま、Appleによって急速に整いつつあるのだ。


文/松村太郎
写真提供/Apple Japan合同会社

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