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賢い若者だけが気づいている「貧乏くさい日本」では実現が難しい、スティーブ・ジョブズ流生き方

集英社オンライン / 2022年11月17日 12時1分

昨年の全世帯の平均所得金額の調査を見ると、この10年間日本の家庭はまったく豊かになっていない。一方、アメリカでは、「BOBOS(ボボズ)」と呼ばれる新上流階級が台頭した。世界と日本では一体何が違うのか? その働き方の違いを考察する。

4世帯に1世帯が「年収1000万円以上」?

「“失われた30年”のあいだ賃金はほとんど上がらず、最近の円安もあって、日本はどんどん貧乏くさい国になっている」といわれている。

これは残念ながら事実に相違ないが、世帯あたりの平均所得金額の推移に注目すると別の風景が見てくる。

2021年の国民生活調査では、全世帯の平均所得金額は、2011年の548万2000円が10年かけて564万3000円に増えただけだ。これでは年率0.3%の伸びにしかならず、日本の家庭はこの10年まったく豊かになっていない。


出典:2021年厚生労働省「国民生活調査」より

だが「児童(18歳未満の子ども)がいる世帯」では、様子がずいぶん異なる。2011年の世帯収入は687万円だったが、それが2021年には813万5000円に増えている。こちらは年率1.7%の伸びで、全世帯平均の6倍超だ。

さらには、所得金額の分布を見ると、全世帯平均では1000万円以上が12.7%(およそ8世帯に1世帯)だが、児童のいる世帯では24.8%にもなる。子どものいる世帯では、およそ4世帯に1世帯が「年収1000万円以上」なのだ。――さらに「年収800~1000万円」の世帯16.2%を加えれば、2~3世帯に1世帯(41%)が「年収800万円以上」世帯になる。

出典:2021年厚生労働省「国民生活調査」より

だがこれは、なにかおかしいと思わないだろうか。

共働き世帯で年収1000万円は珍しくない

子どもが18歳未満ということは、親は30代か、せいぜい40代だろう。
国税庁の「民間給与実態統計調査」(2020年)では、サラリーマン(給与所得者)男性の平均年収は30代で約490万円(30~34歳458万円、35~39歳518万円)、40代で約600万円(40~44歳571万円、45~49歳621万円)だから、8世帯に1世帯が年収1000万円超、2~3世帯が年収800万円超などということがあるわけがないのだ。

この謎の答えはもうわかるだろう。こうした高所得世帯の多くは共働きなのだ。

若くして年収1000万円のビジネスパーソンはめったにいないとしても、共働き世帯で年収1000万円ならそれほど珍しいことではないだろう。実際、男女の平均給与を合計すると、30代後半で955万円(男518万円、女437万円)になる。世帯年収1000万円は、共働きの「平均」なのだ。

日本で女子中高生にアンケートをとると「将来の夢はお嫁さん」とこたえるらしく、「このままでは日本の未来はどうなるのか」と嘆く大人がいる。
だがこうしたデータを見るかぎり、そんな心配をする必要はないとわかる。賢い男と賢い女は、いまでもちゃんとお互い助け合いながら共働きで子どもを育て、豊かな家庭を実現しているのだ。

スティーブ・ジョブズが提示した最高の生き方

アメリカではいま、「BOBOS(ボボズ)」(ブルジョアBourgeoisとボヘミアンBohemiansを組み合わせた造語だ)と呼ばれる新上流階級が台頭しつつある。
典型的なBOBOSのカップルはどちらも高学歴で、東部(ニューヨーク、ボストン)や西海岸(ロサンゼルス、サンフランシスコ)の都市かその郊外に住み、経済的に恵まれているもののドナルド・トランプのようなこてこての“大富豪”を軽蔑し、最先端のハイテク技術に囲まれながらも自然で素朴なものを愛している。

そんなBOBOSは大ジョッキのビールよりワインを好み、アメリカンフットボールのテレビ観戦より美術展やコンサートに行き、休暇はラスベガスでギャンブルするのではなくロッキー山脈をハイキングするひとたちでもある。
その多くは弁護士やコンサルタントなどの専門職か、独立したプロジェクトを任されたクリエイティブクラスで、かつては会社勤めが多かったが、いまではフリーエージェント化が急速に進んでいる。

「ボヘミアン」というのは、1960年代のヒッピーカルチャーの影響を受けていることを指し、ブルジョア化したヒッピーであるBOBOSにとって最高の生き方はアップルを創業したスティーブ・ジョブズだ。ジョブズはもともとインドの精神世界(スピリチュアル)に強く魅かれていて、大学を中退してインドを一人旅する費用を工面するためにゲーム会社で働きはじめた。

大富豪になってからも禅に傾倒するベジタリアンで、どんなときも黒のタートルネックにリーバイスのジーンズ、ニューバランスのスニーカーという格好だった(ファッションを気にするのは時間のムダだと考えていた)。

「オプトアウト」という合理的な選択

BOBOSのもうひとつの特徴は、「リベラル」であることだ。
これは政治的な立場ではなく(とはいえ彼らの多くは反トランプの民主党支持者だが)、たとえば、LGBTQ+(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クイア/クレスチョニング、その他)など性的少数者とも分け隔てなくつき合うという意味だ。

BOBOSはアメリカやヨーロッパだけではなく、中国やインド、東南アジアでも増えている。日本の若者が将来、留学したり、海外で働くようになったり、あるいは海外旅行するときでも、仲良くなるのはたいていBOBOSだろう。

なぜなら、「リベラル」でなければ外国人と友だちになろうとは思わないだろうから。

アメリカでは2000年前後に、成功したバリキャリの女性が突然、専業主婦になるために会社を辞める「オプトアウト」という現象が起きた。それまで国連や大手弁護士事務所、ウォール街などで活躍していた女性が、自ら選択(オプト)して労働市場から「脱落(アウト)」していったのだ。

しかし考えてみれば、これは合理的な選択だ。
有名大学や大学院を出た優秀な女性は、夫も高収入であることが多く、すでに一生分を稼いでしまった。だとすれば、なぜ子どもを犠牲にして、青筋立てて働きつづけなくてならないのか。

パワハラ上司、足を引っ張る同僚、生意気な部下

ところが、いまでは、オプトアウトのことなど誰も言わなくなった。エリート同士のパワーカップルには、フリーランスになるという、より魅力的な選択肢ができたからだ。

会社に毎日出社しなくても、仕事はリモートでできるし、SNSで評判を獲得すれば、会社の看板も必要なくなる。いつ誰とどのように仕事するかを自分たちで決められれば、子育てと仕事の両立はずっと容易になるだろう。

幸福についての研究では、愛する家族を亡くしたり、失恋や離婚で落ち込むよりも、日々の通勤の方が幸福度を下げることがわかっている。脳はよいことにも悪いことにも慣れてしまうので、どれほどつらい出来事でも「1回限り」であれば、いずれ幸福度は生得的な水準に戻っていく。
ところが「終わりの見えない嫌なこと」は、気持ちを切り替えることができないのだ。

現代人の最大のストレスは、人間関係を選択できないことだ。家族を選べないのは仕方がないとしても、パワハラする上司、足を引っ張る同僚、仕事ができないくせに生意気なことばかり言う部下と毎日顔を合わせなくてすむだけで、幸福度は劇的に上がる。
これが、多少のリスクがあっても、先進国でフリーエージェント化が進む理由だろう。

このようにして、経済的独立を達成したBOBOSのカップルは、お金よりも家庭や自由な時間を大切にするようになった。
4世帯に1世帯が「年収1000万円以上」というデータからわかるように、日本でも確実にBOBOSは増えている。
仕事も人間関係も選択できて、経済的な不安なしに好きなこと・得意なことをやりながら自由に生きる。これからはそんなライフスタイルが、世界中の若者たちが目指す理想になっていくだろう。

文/橘玲

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