【漫画あり】人気タッグで描く甲斐谷忍・最新作『カモネギ』は読むほどにスカッとする人間経済講義
集英社オンライン / 2022年11月17日 17時1分
今年で画業30周年を迎える漫画家・甲斐谷忍。最新作『カモのネギには毒がある 加茂教授の人間経済学講義』(以下『カモネギ』)の単行本が11月17日に最新巻3巻が発売された。『クロサギ』『正直不動産』などの原案を担当した夏原武とのタッグで描く今作の見所とは!?
相思相愛で「甲斐谷×夏原」タッグ結成
――最新作『カモネギ』は、社会的に立場が弱い人を狙うペテン強者を、天才経済学者で巨万の富を持つ加茂洋平が駆逐するお話です。原案を夏原武さんが担当されていますが、まずは、このタッグが生まれた経緯をお聞かせください。
先のインタビューでもお話しましたが、僕は閃かない人間なので、アイデアを持っている人と仕事がしたいなと思っていたんです。
以前描いた『ソムリエ』という作品が、当時の集英社の取締役が言い出しっぺになって、プロジェクトとして人を集めた作品だったんですけど、またああいう風にチームで作品が作れたらと。
そんな折、夏原さん原案の『正直不動産』を読んで、「すげえ!」となったんです。以前から『クロサギ』(夏原さん原案)が好きだったこともあり、軽口程度に「夏原さんと仕事ができたらいいな」と編集者に話したら、本当に繋いでくれて。
その辺りは直接聞いた方がいいですよ。最初はどんな感じだったんですか?
(担当編集)グランドジャンプ編集部・綱島圭介副編集長 夏原さん的にも「大好きなマンガ家さんです」ということで、「だったら、こういうのはどうですか? こういうのはどうですか?」と、アイデアが溢れんばかりでした。
――では、初期の段階で今の方向性は決まったのでしょうか?
僕の方から最初にリクエストしたのは、「『クロサギ』が大好きで、そういう方向性にしたいけれど、二番煎じだとは思われたくない。だけど、お金の話にはしたいです」ということ。
お会いする前は、思想が合うかどうかが気になっていました。作品を作る時って、どうしてもどういうメッセージを込めるかという段取りになりますし、『ソムリエ』の時にそれが一番難しいことだと分かっていましたから。
一方で、自信もあって。
というのも、『正直不動産』って題名を見ても、1話目を見ても、最終的に正直者が勝つ話じゃないですか。思想が『LIAR GAME』と一緒なんです。実際にお会いして、その点も全く心配いらなかった。
(担当編集)綱島 まずは僕が単独で夏原さんとお会いして、お金についての話を蓄積されているなと感じたんです。誰もが関心のあるテーマですし、頭のいい人がお金に困っている人を助けるみたいな話って、一番カタルシスが強いじゃないですか。そこから甲斐谷さんも交えてお話するなかで、甲斐谷さんから大学教授というアイデアが出てきて、その設定が決定的になって作品が形作られていった感じです。
「最初は分からない」という感覚を
大事にしている
――大学教授というアイデアはどこから生まれたんですか?
夏原さんから最初に企画案をいただいた時に、こういう事件があって、こういう解決をするって部分は、すでに今の『カモネギ』だったんです。ただ、主人公が裏社会っぽい人で、それだと『クロサギ』に近すぎる。シンプルに詐欺師の真逆に居る人って誰よ?と考えた時に、陽の当たるところにいる大学教授ではないかと。
――原案は、どういう状態でお手元に届くのでしょう。
いわゆるレポートみたいな感じです。また、2週間に一度ぐらい夏原さんが僕らに講義をしてくれるんです。2巻の終わりの方で始まった最新のマルチ事情とか、1巻に出てくる「ひととき融資」(肉体関係を持つことを条件にお金を貸すこと)とか、知らないことだらけですよ。
夏原さんには取材のバックボーンがありますから、「そんな詐欺が成立するんですか?」という質問にも、なぜ引っかかるのかというところまで詳しく説明してくださる。そこが一番助かるところですね。
――そうすると、作品に落とし込みやすくなりますね。
マンガ家と編集者で仕事をすると、どうしてもマンガ家は中に入り込んでしまって、引いた立場で作品が見れなくなる。そこで、編集者が俯瞰で見る立場にいる訳です。だけど、『ソムリエ』の時に上手くいったみたいに、僕も1回引いて見てみたいと思ったんです。
夏原さんに詐欺事件の話をしてもらう時は、「最初は分からない」という感覚を大事にしていて、その後どう思うかを逐次覚えておくようにしています。この作業って自分で調べながらだと出来ないんですよね。目の前にポンと出された詐欺事件に対して、どう思うか、どういう疑問が湧くか、どういう怒りを覚えるのか。とても大事なところです。
経済理論で懲悪するスカッとする漫画
――怒りについてもおうかがいしたかったんです。甲斐谷先生の作品を読んでいると、何か大きな対象に対する怒りを感じる場面が多いのですが、やはり怒りというものが作品を作る際の大きな原動力になっていたりするのでしょうか。
昔はそうでしたが、今はそんなに怒っていないです(笑)。『ONE OUTS』なんかは、「このままじゃ本当にプロ野球がダメになる!」という怒りから描いた記憶があるんですけど。
――実際、その後、球団の統廃合も進みました。
描いている時はめちゃくちゃ怒っていたと思うんですけど、何をそんなに怒っていたのか、もはや思い出せない。人間ってどうしても丸くなっちゃうのでね。夏原さんはちゃんと怒っていますけど。
――『カモネギ』には、長く続く不況やコロナによる困窮に便乗して、社会的にも経済的にも弱い立場の人を食い物にするヤツらが次々に登場します。そういう人達をどのように見ていらっしゃるのでしょう?
この年になって、普段から怒りを沸々させることが無くなってきていましたが、夏原さんと話をしていると、つられて怒りが湧いてきます。そういう意味でも有難い存在ですね。今は夏原さんに怒らせてもらっている感じです。
――弱者に付け込むヤツらが、それを上回る加茂教授の経済理論でいっぱい食らわされる過程は胸がすく思いです。1巻の最終ページ、学長の鵡川のセリフに「(加茂教授には)もっと大きな敵と戦ってもらわなければならない」とあります。言える範囲で「大きな敵」についてお聞かせください。
そこは、夏原さんが色々思っているっぽいですけど、僕もよく分かっていないんです。この先どうなるか、僕も夏原劇場を楽しませてもらっている感じです。
――では最後に、本作への意気込みと読者への一言をお願いします。
この企画を立てる時、コミックスを手に取ってくれた人が楽しくなったり、役に立ったと思えるような作品をコンセプトにしようと決めました。そうなるように頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いします!
甲斐谷忍最新作『カモのネギには毒がある』1巻まるごと無料公開!(すべての画像を見るをクリック)※2022年12月18日23時59分まで
『カモのネギには毒がある』最新第3巻絶賛発売中!!
カモのネギには毒がある 3 加茂教授の人間経済学講義
著者:甲斐谷 忍 原案:夏原 武
2022年11月17日発売
715円(税込)
B6判/194ページ
978-4-08-892507-3
1%の経済強者と99%の弱者…「カモリズム社会」は、絶対に打倒する──!!
“実地研究”と称し様々な「奇行」をする世界的な天才経済学者・加茂洋平。大学で蔓延しつつあったマルチ商法組織「NSA」を潰滅させ、更なる上部の新型マルチ組織「起業家集団/風景」の殲滅へと動き出す。だがその「洗脳」強化された悪質な手口が浮かび上がり…。弱者を借金地獄に落とす悪徳商法を駆逐する、加茂教授の「カモリズム経済学」実践講義とは──!?
取材・文/山脇麻生 ©甲斐谷忍プロダクツ/集英社
甲斐谷忍画業30周年記念!!
レジェンド作品レビューパネル展示
ヒットメーカー・甲斐谷忍の貴重なイラスト&名作キャラ達がズラーッとお出迎え
この絶景ぜひご覧ください!!
【2022年12月中旬(予定)まで開催中】
場所:集英社神保町三丁目ビル1F
『カモのネギには毒がある』の大パネル試し読みも!!
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