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日本代表も丸裸に。W杯ドイツ代表を支える分析集団“チーム・ケルン”の日本人スタッフを直撃

集英社オンライン / 2022年11月16日 15時1分

開幕が間近に迫ったFIFAワールドカップ カタール2022。日本代表のグループリーグ初戦の相手はドイツ代表で、11月23日22時(日本時間)キックオフ予定だ。優勝候補でもあるドイツ代表は“チーム・ケルン”という分析集団を有しており、そこには現在3人の日本人スタッフが在籍している。今回、そのうちの一人である大野嵩仁氏にインタビューを実施し、“チーム・ケルン”の分析方法や、日本代表の勝ち上がり予想などを聞いた。(トップ画像/日本代表が初戦で戦うドイツ代表の面々(ロイター/アフロ))

チーム・ケルンとはサッカードイツ代表をサポートする分析チーム。代表チームとケルン体育大学が2006年に立ち上げた共同プロジェクトで、対戦国の選手や戦術、セットプレーなどを分析している。4年ごとに開催されるW杯とUEFA欧州選手権に向けて、その大会の2年前にチームが発足され、大会終了までの2年間が任期となる。


今回インタビューを試みた大野氏が所属しているのはカタールW杯に向けたチームで、2020年に発足したという。

チーム独自の分析方法や、日本のスカウティング結果等、日本人スタッフへ、特別に話を聞くことができた。

チーム・ケルンが担当するのは“個人分析”

――まずはチームチーム・ケルンについて説明していただけますか?

チーム・ケルンで経験を積めばドイツサッカー界に就職する上での強みになるので、応募者が年々増えています。入るには筆記試験を通過する必要があり、今回は約130人の応募者の中から63人が合格しました。私のようなケルン体育大学の学生・大学院生と、すでにドイツサッカー界で分析官やコーチとして働いている人たちで構成されています。

63人の分析スタッフが6グループに分けられ、それぞれに一人のグループリーダーがいます。各グループはW杯の対戦相手5〜6カ国分を担当します。私のグループの対象国には、グループリーグ初戦の相手である日本代表も含まれています。

ドイツ代表チームには分析担当者が3人いるのですが、戦う可能性のある対戦国の全てを分析するには莫大な時間と労力が必要になってしまうので、チーム・ケルンが対戦国の「チーム分析」と「個人分析」を引き受け、そのデータを代表チームに送る、という感じです。

ちなみに、私が担当する日本代表選手の個人分析は既に終わっていて、レポートとビデオを提出済みです。

大野嵩仁氏。ケルン体育大学で学びながら、自力で交渉してドイツ6部リーグのチームに入団し、移籍を経て、現在はドイツ4部リーグでプレーする現役プレーヤ ーでもある

状況に応じたプレーの“クセ”を見抜く

――個人分析とは具体的にどのようなものでしょうか。「日本代表の三笘選手は、サイドでの1対1の状況であれば、ドリブル突破の成功率が〇〇%」といったようなイメージが思い浮かびますが。

チーム・ケルンでは、今おっしゃった「1対1でのドリブルの勝率」というような、“パーセンテージの分析”は行いません。その理由は「勝率に着目した分析は、相手のレベルが変わると参考にならない」からです。

たとえば日本代表選手の分析で、「アジアのあまり強くない格下チームとの対戦時のドリブル勝率」と、「日本代表より格上のブラジル代表との対戦時のドリブル勝率」を比べたとしても、それらは“同じ1試合”でも“同じ条件”とは言えず、有益な情報ではありません。

勝率には再現性がない、とでも言ったほうが的確でしょうか。ただ、ドリブルの勝率や走行距離、スプリント回数などは、選手のコンディションを推し量る時に参考になるとは思います。

――では実際にチーム・ケルンではどうやって分析を行うのでしょうか?

あらかじめ用意された個人分析用のフォーマットがあり、選手の名前、身長・体重、利き足、今シーズン何試合出場、ゴールやアシストなどの結果、というような情報が記されています。その下に、チーム・ケルンのスタッフが分析した項目を追記していきます。

分析する項目はかなり細かく設定されているのですが、それらを「強み・特徴・弱み」に分類し、強みは赤、特徴は黒、とそれぞれ別の色で記していきます。また文字の情報に加え、それらに該当する実際のプレー映像を過去の試合から見つけ、編集し、グループリーダーに送ります。

分析項目は、たとえばサイドアタッカーが攻撃時に1対1の状況で、「ボディフェイントを入れながら、利き足を使って縦に突破するのが得意」というようなものです。

守備の項目では、サイドバックの選手が自分と逆サイドの守備が突破されてクロスを上げられる時、「自分のマークを優先するのか、もしくはスペースを埋めることを優先するのか」や「ボールウォッチャーになりやすい(本来マークするはずの相手選手がフリーになってしまう)」、などの項目について分析していきます。

つまり一人の選手の「様々な状況に応じたプレーの“クセ”」を見つけていきます。ですが、同じような項目でも、ポジションによって「どこを重点的に分析するのか」が細かく変わりますね。

チーム・ケルンの分析を活かした
マッツ・フンメルス(元ドイツ代表)

――そのような細い分析のデータを、選手は試合前にチェックするのでしょうか?

代表チームが所有しているiPadの中に「分析用のアプリ」が入っていて、そこには対戦相手のフォーメーションが選手の顔付きで表示されています。画面から選手を選ぶと、たとえば「クロスに対する守備対応」という特徴が確認でき、そこを押すと実際のプレー映像が観られる、という仕組みです。

以前、元ドイツ代表のマッツ・フンメルス(ドルトムント所属)がインタビューでチーム・ケルンについて語っていたのですが、彼は試合前にiPadで分析映像をしっかりチェックしているそうです。

ある試合で、ドイツ代表がカウンター攻撃を受け、センターバックのフンメルスとボールを持った相手選手が1対1になり、ドリブルで抜かれたら残っているのはキーパーのみ、という危険な状況がありました。その場面でフンメルスは相手選手のドリブルを読み切り、ボールを取ってピンチを未然に防ぎました。

そのシーンを振り返りながら、「事前にもらったチーム・ケルンの分析によって、相手がどっちに抜きに来るかを、俺は既に知っていたんだ」ということをフンメルスは言っていました。
リップサービスの部分もあるとは思いますが、このように個人分析が実際の試合で役立つケースもあります。逆にそういうデータは気にせずに、頭を空っぽにして試合に臨みたい選手もいると思いますが。

いずれにしても、選手たちが「取捨選択できる状況」を作り、チームが勝つ可能性を少しでも上げるために、チーム・ケルンの個人分析が必要とされているのかな、とは思います。

日本対ドイツ戦の予想は…

――ちなみに大野さんが個人分析を担当した日本代表の選手がいますよね。大野さんはその選手を元々ご存知でしたか? そして、分析前と分析後では印象は変わるものですか?

どの選手を分析したかは言えないのですが(笑)、Jリーグや海外リーグでプレーする日本人選手の活躍は普段から追っているので、もちろん以前から知っていました。その選手について言及すると、ドリブル・シュート・クロスという目立つプレーについては、分析前のイメージ通りではありました。

ただ、より細かい部分、たとえばオフザボール(ボールを持っていない時)の動きで、「どのスペースに走り込むか」という点に着目すると、「ボールがない時のランニングも、この選手の強みの一つなんだ」という新しい気付きはありました。

今回の分析ではないですが、弱みに着目した時には、「この選手は守備時に後方のスペースを空けがちだな。この部分を改善したら、もっといい選手になるんだろうな」というような印象を受けることもあります。

やはりスター選手を含め、全ての選手に強みと弱みの両方があると、分析をしていても感じます。それぞれの選手の特徴をチームとして補い合って連動するのが、サッカーの面白さの一つだと思いますね。

――グループリーグ初戦の「日本対ドイツ」のスコアと、グループリーグを突破する国を予想してもらえますか?

希望としては、2-0や1-0でドイツに勝ってもらいたいです。自分が分析した日本人選手にゴールを決められたら悔しいので、ドイツが無失点で勝てばいいなと(笑)。ドイツとスペインは優勝候補ですし、客観的に見れば日本代表は相当苦しいグループに入ったな、というのが正直な感想です。ただW杯は年間を通して戦うリーグ戦ではないので、日本代表にもグループ突破のチャンスは十分にあると思います。

個人的な想いとしては、ドイツが日本に勝った上で、ドイツ代表と日本代表がグループリーグを突破して欲しいですね。

――最後に大野さん個人の今後の展望を教えていただけませんか?

小学生から高校生までは柏レイソルの下部組織でプレーし、その後、城西国際大学に進学してサッカーを続けましたが、夢だったJリーガーにはなれませんでした。
ただ、なかなかサッカーの夢を諦めきれず、「選手が無理ならばJリーグの監督になりたい」と大学在学中に考え始めました。ちょうどその頃、ケルン体育大学に在籍していた方と繋がり、「ケルン体育大学を卒業すれば、ドイツサッカー協会の指導者B級ライセンスを取得できる」ということを知ったのです。

将来的には、J1の監督になることができたらと思っていますが、その過程にJ3の監督があると思っており、予算が厳しいチームを指揮するには「 “分析”と“コーチング”の両方に長けた監督になる必要がある」という考えに至り、現在大学でコーチングやスポーツ心理学などを学び、チームケルンでは分析を勉強しています。

困難だと思いますが、可能な限りサッカー選手としてのキャリアも積み、夢を叶えたいです。

チーム・ケルンに在籍する3人の日本人スタッフ。左から大野嵩仁氏、平川聖剛氏・吉田健太氏

取材・文/佐藤麻水
写真提供/大野嵩仁

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