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下着泥棒の犯人は家主の息子だった…賃貸住宅の合鍵は誰が持っている? 変わっていく鍵の概念【専門家に聞く】

集英社オンライン / 2022年11月26日 16時1分

「賃貸マンションで誰にも合鍵を渡していないのに、誰かに侵入された形跡がある……」。いったいなぜ? 「安全な賃貸生活応援」を掲げてメディアでも活動する不動産アドバイザーの穂積啓子さんは、「そもそも自分以外の誰かが部屋の鍵を持っているのかどうかも、知らない人が多い」と話す。穂積さんに昨今の合鍵事情について聞いた。

家主や管理会社が合鍵を持っていることが多い

――賃貸住宅の鍵は、自分以外にも持っている人がいるのですか。

借主(入居者)のほかに、家主(貸主)か管理会社が持っていることが多いですね。その理由は、災害、事故、事件、病気などで借主と近隣の人に危険が及びかねない有事の際に必要だからです。また、賃貸住宅の所有者は家主であり、鍵を含めて部屋を「貸している」という考え方から、こうした慣習があります。



家主から管理会社が物件の管理を委託されている場合は、管理会社が、「スペアキー」(合鍵)か、「マスターキー」という1本の鍵で複数の部屋の開錠ができるものを保有します。しかし、家主が「自主管理」している場合は、家主だけがどちらかを保有しています。

――ひと昔前のテレビドラマでは、犯罪が起きたマンションやアパートの扉を家主が合鍵で開けるシーンがよくありました。また、外出先で鍵を失くした人が「家主に開けてもらった」という話も耳にします。ですが、近ごろでは社会的にセキュリティへの意識が高まっています。そうしたシステムに変化はないのですか。

システムというよりは、慣習と言えるでしょう。家主が警察に協力するケースはありますが、逆に合鍵を利用して家主が借主の不在時に侵入していた、ということもあります。下着泥棒を捕まえたら、犯人は家主の息子や管理会社の社員だった、という事件もありましたが、報道されない、または事件として表面化していないケースも多々あります。

そのため、近ごろの新築マンションや住宅の家主、管理会社が「合鍵は持たない」とするケースも増えていますが、全体としてはまだ少数です。

築年数が20年以上の賃貸住宅の数のほうが全体のなかで圧倒的に多く、また最近の新築物件であっても、とくに学生や若い世代、単身者向きのマンションでは、家主や管理会社が合鍵を保有するケースはまだまだ大変多いのが実情です。

契約時に「鍵は誰が持っているのか」を確認する

――「自分以外の誰かが、自分の部屋の鍵を持っている」ことを知らない人も多いのではないでしょうか。

私の経験上、およそ8割の借主がご存知ではありません。賃貸契約を結ぶときには必ず、仲介会社の宅地建物取引士から「重要事項説明」を受けることが法令で決まっています。

その際に、「鍵を失くしたり、取り換えたりした場合は家主もしくは管理会社に速やかに連絡をし、新規の鍵を1本渡すこと」などと伝えられる場合は、「家主や管理会社も鍵を持っている・管理している」ということです。賃貸契約書にも明記されています。

しかし、そうした説明の際に、「あなたの部屋の鍵は、家主や管理会社も持っているのですよ」と話してくれることはほとんどないでしょう。「入居者がぎょっとするかもしれない表現で、わざわざ強調して告げることではない」と考えられているのが現実です。

――借主としては、他人に鍵を所有してほしくないでしょう。借主が契約時に鍵について自分でできることはありますか。

新しく賃貸住宅に入居する際には、契約前に、仲介の不動産会社や管理会社、家主のいずれかに、「鍵を交換しているか」ということと、「鍵は誰が所有しているのか」を確認してください。防犯や鍵の管理の意識が高いことを伝えるいい機会にもなるでしょう。

「家主らが合鍵を持つ」という返事で、それを避けたい場合は、「自己責任で自分で所有するので、他人による合鍵の保有は避けてほしい」と仲介の不動産会社に折衝をしてみてもいいでしょう。そういう借主の方も増えています。

また、住居の鍵の交換ではおもに、1個のシリンダーに3本の鍵がセットされています。家主の多くは、そのうちの2本を借主に渡し、残りの1本を自分か管理会社で保有します。

家主が保有しない場合は、3本とも借主に渡されます。ただその場合でも、借主に渡す前に合鍵を作ってそれを家主らが保有しているという可能性は残ります。

入居時の鍵交換の費用は家主側が持つべき

――賃貸住宅では、借主が変わるたびに鍵を交換するのは当然のことですよね。

はい。鍵を交換しておかないと、前の借主が侵入することもできてしまいます。ある窃盗事件では、前の借主が容疑者に挙げられ、家主が鍵の交換をしていなかったことが露呈しました。

――借主が変わるとき、「鍵の交換」は家主か借主のどちらが実施し、その費用はどちらが負担すべきといった法律や規定はないのでしょうか。

どちらも法規制はありませんが、鍵の交換については、物件の管理と安全上、必須事項となります。たとえ賃貸契約書に「借主が実施して費用を負担すること」と明記している場合でも、家主は借主に対して、住居としての安全を保障する義務があります。

また、入居時の鍵の交換の実施や費用の負担を誰がするかについては、国土交通省が発行する「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」や、それに準拠する各自治体発行の同様のガイドラインにルールが定められています。

それらのガイドランでは、鍵の交換は物件管理の一環であるため、「入居時は家主が実施して費用を負担する」とされています。ただし、これは法律ではなく「ガイドライン」上のルールなので強制力や罰則はなく、実際のところ、家主が借主に負担を求めるケースが大変多いのが実情です。

もし契約時に費用の負担を求められた場合は、事前に金額や賃貸契約書の条文を確認し、状況によっては「入居を見合わせる」か、納得するまで話し合うのが得策でしょう。

変わる「鍵」の概念

――分譲マンションの場合は、入居者以外にも誰かが鍵を持っているのでしょうか。

分譲マンションでは、およそ2000年より前は、マスターキーを管理会社や管理組合が保管していました。しかし、ここ20年で新築された分譲マンションでは、マスターキーそのものを制作しない場合がほとんどです。分譲マンションは賃貸と違って、入居者は「区分所有者」なので、自ら管理をする立場になるからです。

ただし、築年数が古い分譲マンションや、新しくても管理組合の規約で合鍵の提出が義務となっている場合は、マスターキーや合鍵が存在します。中古マンションを購入する際には、鍵についての規約をよく確認しましょう。

――パスワードやカードによるロックも増えています。今後、賃貸住宅の鍵はどうなっていくのでしょうか。

家主側からも、「所有する賃貸住宅の合鍵を持つべきか」ということはよく相談されます。今後は家主も管理会社も、「合鍵やマスターキーは保有しない。鍵は入居者の責任で管理してもらう」というケースが増えていくでしょう。

その理由は、社会のセキュリティへのニーズ、また、部屋で事件や事故があった際には、家主や管理会社が疑われる可能性があることや、鍵の管理業務そのものが大変で、紛失すると高額の費用がかかることなども挙げられます。

これからはこの流れで、賃貸住宅であっても、鍵は使用する個人の責任所有物として認識されるようになるでしょう。

また、将来的にはスマホやパソコンのロック開錠と同じように、顔認証、指紋認証、スマホによる開錠などが一般的になるといわれています。すると物理的な鍵は不要になり、管理責任のありようや、犯罪の手口も形を変えていくことでしょう。

ただし、現状においては、鍵の種類の多様化、高額化などを見すえると、借主が変わる場合は、家主が鍵交換と交換費用を負担するのが妥当であり、それを義務とする法規制や整備も必要ではないかと考えています。

構成・文/藤井 空(そら) ユンブル 監修/穂積啓子 写真/shutterstock

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