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男性がパートナーに服用を強要することにでもなったら…日本が「アフターピル」の市販薬化に慎重な理由

集英社オンライン / 2022年11月25日 12時1分

2022年9月、フランスで全ての女性に対して緊急避妊薬(アフターピル)が処方箋なしでも無料で入手できるようになった。我が国でも「処方箋なしでの緊急避妊薬購入(OTC化)」の実現が求められているが、どのような課題や懸念があるのだろうか。日本家族計画協会会長(産婦人科医)の北村邦夫氏に話をうかがった。

緊急避妊薬は「絶対に妊娠させない薬」ではない

――最近、フランスでは緊急避妊薬が全ての女性に対して処方箋なしの無料提供となりましたね。日本での現状について教えてください。

「現在、緊急避妊薬は世界で約90カ国が処方箋なしに薬局で購入することができますが、日本では医師の診察と処方箋が必要です。

当院でも、緊急避妊薬を求めて来た女性が置かれている状況、その後の生活スタイルを聞き取った上で、処置方法や薬の処方の可否を判断しています」



――具体的にはどのように判断をするのですか?

緊急避妊法選択のアルゴリズム(北村氏提供)

「性行為後、避妊の失敗を訴えて来院される方の中には、緊急避妊の必要がない方もいます。性行為後に明らかに月経が来ている場合などですね。

緊急避妊をする必要がある方でも、緊急避妊薬なのか、銅付加子宮内避妊具(銅イオンを放出する用具を子宮に挿入し、受精及び着床を防ぐ)か、もしくはレボノルゲストレル放出子宮内避妊システム(ミレーナ)を挿入するのか、などいくつか選択肢があります。銅付加子宮内避妊具やミレーナの場合、緊急避妊の措置の後、5年間避妊できるというメリットがあります。

その中で緊急避妊薬を処方する場合、当院では来院した女性に『次の月経まで性行為をするのを待てるか』ということも確認します」

――次の性行為の時期が緊急避妊と関係があるのですか?

「排卵前に緊急避妊薬を服用することで、『排卵を抑制する』働きと、『排卵を遅らせる』働きがあります。排卵を抑制あるいは遅らせることによって、膣内の精子が受精する能力を失うのです。

しかし、緊急避妊薬を服用した直後に再び避妊しなかったり、避妊に失敗した性行為をしたりすると、排卵を遅らせたことが逆効果となり、むしろ妊娠の可能性が高まってしまうことがあるのです」

――服用前に医師に説明をしてもらわなければ、知らずに再び無防備な性行為に及んでしまう可能性がありますね。

「そのリスクを避けるため、当院では問診で次の月経が来るまでの間、性行為の可能性があるか否かを聞き、さらに面前服用(医師の前で薬を飲んでもらうこと)を徹底しています」

処方箋不要となることへの期待と懸念点

――薬局で処方箋なしに簡単に手に入るようになっても、そのような問診や説明がしっかりと行われるのでしょうか?

OTC医薬品(処方箋なしで買える薬)の分類(北村氏提供)

「近い将来、緊急避妊薬が日本でOTC化(※薬局・薬店・ドラッグストアなどで処方せんなしに購入できるようになること)された場合、『要指導医薬品』に分類され、購入の際に薬剤師からの使用方法などの指導が義務付けられると思います。しかし、現在の制度上、3年経てば『要指導医薬品』から外れてしまい、指導なしで購入できることになってしまいかねません。

また、現在病院で行っている問診やその後のカウンセリングが薬局でできるか疑問です。例えば、レジ前で『この後、月経が来て妊娠が否定されるまでの間、セックスをする予定はあるか』をお客さまに聞くことは現実的ではありませんよね」

――やはり病院で直接診てもらわなければ、個々に応じた対応は難しいのでしょうか。

「現在、オンライン診療でも処方してもらうことができます。オンライン診療で緊急避妊薬が必要と判断した場合、女性の自宅に薬を送る方法以外に、最寄りの薬局に処方箋を送り、そこで薬を処方してもらうというルートがあります。

厚労省が指定したセミナーを受講したことで、緊急避妊薬のオンライン処方に対応できることになった薬剤師は全国で1万名以上おり、以前よりも緊急避妊薬へのアクセスがしやすくなっていますね」

――オンライン診療であれば、近くに病院がない人や学生も医師の指導を受けつつ緊急避妊薬を安全に服用できますね。

「そうですね。しかしリアルに対面して問診することで『なぜ目の前の女性が緊急避妊薬を必要としているか』という背景が見えることも多々あり、根本的な解決につなげることもできます。

そのほか、緊急避妊薬の服用後に、低用量ピルの定期的な服用を推奨することもできますが、オンライン診療ではそこまでの指導がなかなか難しいという課題があります」

緊急避妊法は、避妊のゴールではなくスタート

――緊急避妊薬を求めてきた人に、低用量ピルの服用をすすめるのはなぜですか?

「低用量ピルの服用は、日常的にできる有効な避妊法です。緊急避妊薬は、避妊しなかった、避妊に失敗したなど無防備な性交が行われた過去3日以内での避妊失敗率が0.7%であるのに対して、低用量ピルを1年間服用した人の避妊失敗率は年間で0.29%。

3日間と1年ですから、どちらが推奨されるかは一目瞭然ですよね。

私は、女性の体を守るためにも緊急避妊薬にアクセスしやすい環境づくりに並行して、低用量ピル服用開始の機会をしっかり確保すべきだと考えています。緊急避妊薬は避妊法選択のゴールではなく、スタートなのです」

――ここまでのお話以外に、緊急避妊薬のOTC化について懸念はありますか?

「懸念の一つは、緊急避妊薬を本人以外が求めてくる場合ですね。

例えば、男性が購入しようと来店した場合はどうでしょうか。コンセンサスが取れているカップルのパートナーならまだしも、『アフターピルで避妊すればいい』という考えで、男性が女性に服用を強要することにならないか懸念しています。

事実、アメリカで緊急避妊薬がOTC化されたところ、コンドームを装着しない性行為の増加、病院への受診率などの低下が見られ、『アフターピルで避妊をすれば大丈夫』という誤った認識が広がりました。

日本でもこのような風潮になる可能性は十分あります。事実、性行為のたびに相手の女性に緊急避妊薬の使用を強要した有名人のニュースがありましたね。誤った認識が広がらないためにも、性教育の充実などの環境整備も同時に求められているところです」

海外の反省を生かし、課題をクリアすることが
OTC化への第一歩

――海外の事例や反省、現状の課題を踏まえて、緊急避妊薬のOTC化について、先生はどのような展開が望ましいと考えますか。

「私は緊急避妊薬のOTC化に賛成ではありますが、導入されるにはここまで話したような課題が同時にクリアされる必要があると思っています。

10年以上前にパリとロンドンへ視察に行った際、両方の地で緊急避妊薬のOTC化がどのように進められているかを知るために、緊急避妊薬の購入を試みたことがありました。

パリでは問題なく購入できましたが、ロンドンでは私が医師であり、視察目的であることを説明したのですが、男性は女性に対して緊急避妊薬の服用を強要する可能性があるという理由から売ってもらえませんでした。

この経験が、私の現在の診療姿勢の基礎となっています。

将来、日本の薬局でも緊急避妊薬を販売できるようになったとしても、プライバシーや薬を欲する背景などを踏まえた、個々に応じた対応が望まれますね」

緊急避妊薬を必要としている女性がより簡単に入手できる環境が必要な一方で、全ての女性の健康や尊厳が守られる社会でなければならない。現在進行形で緊急避妊薬のOTC化が議論されているが、性教育の充実を含め、それに対応した社会づくりが求められている。

参考資料
緊急避妊薬の使用-米国(一般社団法人日本家族計画協会)
https://www.jfpa.or.jp/kazokutokenko/topics/rensai4/001467.html

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