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【日本代表の支柱】ドイツサッカー史上、最高の評価受ける日本人選手・鎌田大地の知られざる「雑草時代」

集英社オンライン / 2022年11月22日 9時1分

いよいよ開幕したカタールW杯。日本代表の初戦の相手は、通算4度の優勝を誇る強豪ドイツ。そのドイツでプレーし、選手の評価点ランキングでトップに輝いているのが、日本代表MF鎌田大地だ。絶好調の要因、知られざる彼の素顔を、スポーツライターのミムラユウスケ氏に語ってもらった。(サムネイル画像・トップ画像/写真:アフロ)

昨シーズンUEFAヨーロッパリーグ優勝を成し遂げた勢いそのままに、今シーズンも活躍を続ける鎌田大地。得点を量産し、現在ブンデスリーガの平均評価点ランキングでトップに輝くなど、ワールドクラスの領域へと着実に近づいている。

UEFAヨーロッパリーグ(以下、EL)優勝の裏話や今シーズンの躍動、気になる来季について、ブンデスリーガに精通し、鎌田への独占インタビューが話題を呼んだスポーツライター・ミムラユウスケ氏に話を伺った。


攻守両面で貢献して勝ち取ったヨーロッパタイトル

――昨シーズン、鎌田大地が所属するアイントラハト・フランクフルトはELで優勝しました。チームの中で鎌田はどういう役割を担いましたか?

シーズンを通してレギュラーとしてプレーし、チームをEL初優勝に導き、なおかつELのチーム得点王だったのは、まず単純に素晴らしいと思います。

ただ注目すべきは攻撃面だけではありません。そもそもフランクフルトのオリバー・グラスナー監督は守備にうるさい人で、守備的なチームを作ることを得意としています。なおかつ昨シーズンのチームは前線に攻撃的でアクの強い選手が多かった。そういうチームにおいて、味方選手が作ってしまう守備の穴を、高いサッカーIQで鎌田が埋めていました。

こうした守備の働きは数字に表れにくい地味な作業ですが、シーズン途中に「俺が求める守備を、お前はしっかりとやってくれている」と、監督から直接伝えられたそうです。攻守両面でチームに貢献できていたからこそ、監督の信頼を勝ち取り、試合に起用されたのだと思います。

レンジャーズとのEL決勝はPK戦までもつれこみましたが、鎌田は自らキッカーに名乗り出て、しっかりと決めました。そのハートの強さも、彼の魅力の一つですね。

――昨シーズンは2人のセカンドトップの一角で、今シーズンはそこから一列後ろに下がったボランチでの起用が増えている中、得点を量産しています。その要因は何ですか?

選手としての彼の分かりやすい特徴は、ボールを持った時にスッと背筋が伸び姿勢がよく、ピッチ全体を把握できている点にあると思います。それゆえ「あのスペースが空きそうだな」とか、「このルートを走ってあのスペースに顔を出せば、シュートまで持ち込める」、という“予測”が非常に優れている。

今シーズン、コンビネーションに優れた献身的なチームメイトが増えたので、予測に優れた鎌田が周りから活かされるシーンが、より多くなっています。その結果、ボランチにも関わらず、既に昨シーズンよりもゴールが多いという結果に繋がっているのだと思います。

実は、ボランチでのプレーを鎌田自身も前々から望んでいました。テクニックがある選手なので、ボールを触れば触るほど、彼の中でいいリズムが生まれやすいのでしょう。ボランチになってボールを触る機会が増えているのも、好調を引き出している要因の一つですね。

活躍を支える家族の存在

――フランクフルトのクラブとしての特徴を教えていただけますか?

フランクフルトを一言で表すと「古豪」になると思います。ブンデスリーガの前身であるドイツ・サッカー選手権では優勝経験がありますが、1963年にスタートした現行のリーグになってからは一度も優勝できていません。ただ、古豪だからこそファン・サポーターは多いですね。

そういう歴史ある伝統的なクラブなのですが、近年は積極的に資金を投入しており、ビッククラブを目指す過渡期にあります。つい先日、とても立派な新しいクラブハウスが完成したばかりで、2024年にドイツで開催されるUEFA欧州選手権(EURO)に向けたスタジアム改築も予定されています。

このタイミングでヨーロッパでの初タイトルを取れたので、クラブとしての勢いを感じますし、ドイツサッカー界でも注目されています。

ミムラユウスケ氏

――過去には稲本潤一や高原直泰、乾貴士などが在籍し、現在は長谷部誠もフランクフルトに所属していますが、日本人選手との特別な結びつきがあるのでしょうか?

日本人を特別視しているというよりは、これまで在籍した日本人選手のおかげで、「日本人選手への悪いイメージはない」、というレベルだと思います。高原直泰もクラブ得点王を取ったことがありますし、長年所属している長谷部誠はすでにクラブのレジェンド的な存在ですし。

しかしそれよりも、フランクフルトという都市が日本人が住む上で非常に暮らしやすい街、という側面の方が強いと思いますね。フランクフルト国際空港からの直行便ですぐ日本に帰れますし、日本食材店も日本料理屋もあり、街の中に川が流れていて景色も綺麗です。

サッカー界では海外移籍をした場合、「選手と一緒に移り住んだ家族が心地よく暮らしていると、選手自身も気持ちよくプレーできて、いい結果を残しやすい」とよく言われます。

逆に、情報として表にはほとんど出てこないのですが、「選手よりも家族が現地の暮らしに適応できず、仕方なく退団」という、家族の事情で海外移籍が失敗に終わるケースも、実は多々あるのです。

鎌田には非常に“家族想い”な一面があるので、フランクフルトの街で家族がリラックスして暮らせているのが、サッカー面でもよい循環を生み出しているのかな、と思いますね。

ドイツ人が重要視する“デュエルと闘志”

――現在、キッカー誌(ドイツ国内売上1位のサッカー専門紙)の平均評価点ランキングで鎌田選手が単独トップに位置していますが、その凄さを説明してもらえますか?

キッカー誌の採点では1が最高評価で6が最低評価なのですが、現在の鎌田の平均評価点は2.55です。
これまでに年間を通してランキングトップに立った日本人として、2010-2011シーズンの香川真司がいます。その年の香川の最終的な数字が2.62なので、もし鎌田がこのままのペースでプレーできれば、ドイツサッカー史でも稀に見るような評価の高さでシーズンを終えるかもしれません。

強豪ドイツ代表と現在リーグ1位のバイエルン・ミュンヘンの中心選手であるヨシュア・キミッヒやレロイ・サネ、ジャマル・ムシアラ、という錚々たる面々を抑えて平均評価点トップに立っているわけなので、それは凄いことです。もしドイツ人であればドイツ代表に選ばれるレベルでしょう。

今シーズンは、得点とアシストという結果だけではなく、スライディングや競り合いなどの体を張った守備が増えているのも、評価を高めている要因だと思います。
ドイツ人は、サッカーで一番大事なのはデュエル(球際での一対一の競り合い)だとよく口にします。たとえば試合翌日のスポーツ紙には、各選手のシュート数やゴール数などが書かれているのですが、必ずそこにデュエルの勝利数も載るくらい、“球際の攻防”がドイツでは重要視されているのです。

あとはドイツ語でKörperspracheという、直訳するとボディランゲージを意味する単語があります。それを上手く体現できている選手は、必然的に評価が上がります。
日本のサッカー文化では、上手くて華麗な選手が評価されやすいと思うのですが、一方でドイツでは「感情を表に出して闘う」ことをより重要視するのです。

これまでの鎌田は、そういった泥臭い部分はどちらかというと苦手だと思われていましたが、今シーズンはそれすらも改善し、ドイツ人をより納得させられるようになってきたのでしょう。

第15節終了時点のキッカー誌最新ランキングを元に作成。現在1位を走るバイエルン・ミュンヘンの選手が多数を占める中、鎌田大地がトップに君臨している

――フランクフルトと鎌田との契約が今シーズン限りということもあり、様々なクラブが獲得に関心を示していると報道されています。フランクフルト側は契約延長と移籍のどちらを望んでいるのでしょうか?

ドイツ国内の報道によると、フランクフルト側としては、鎌田と契約延長したいと考えているそうです。

フランクフルトの選手の給与体系を上から順に大まかに挙げると、「ワールドクラスのスター」、「主力」、「準レギュラー」、という3つの枠組みに分かれています。鎌田は、現在「主力」と「準レギュラー」の中間くらいの給与を得ています。

一番上の枠には、カタールW杯のドイツ代表にも選ばれたマリオ・ゲッツェとGKのケヴィン・トラップという、クラブが特別視している2選手しかおらず、彼らの年俸は約5億5千万円とされています。クラブ側は鎌田に、その一番上の枠に値する年俸で契約を結び直し、できるだけ長くチームに留まって欲しい、と考えているようです。

ただ、鎌田自身がどう考えているかはまだわかりません。
具体的なプランは聞いていませんが、彼の目標は「チャンピオンズリーグで優勝すること」だと、昔からずっと変わらずに言っています。フランクフルトはもちろんいいチームですが、チャンピオンズリーグ優勝というのはあまり現実的ではありません。

もしもこの先、チャンピオンズリーグ優勝を狙えるチームからのオファーがあれば、移籍を選ぶのではないかなと思いますね。

エリートではないからこその魅力

――ミムラさんの個人的な見解として、ブンデスリーガの強豪バイエルンや国外のチームも含め、鎌田におすすめの移籍先はありますか?

うーん、難しいですね(苦笑)。組織としての戦い方がより緻密にオーガナイズされているチームの方が、彼のプレースタイルには合っているでしょう。彼自身「自分は個人の能力だけで局面をなんとか解決してしまうようなタイプではない」と言っていますし。

バイエルンはチームスタイル的にも合いますし、ドイツ国内で鎌田の評価が高いことも考えれば、いい移籍先だとは思います。プレミアリーグであれば、チェルシーやマンチェスターユナイテッドよりも、アーセナルやマンチェスターシティの方が彼に合っているのではないでしょうか。ラ・リーガのチームだとレアル・マドリードよりもバルセロナの方が狙い目ではありますね。

――カタールW杯で鎌田にどういう活躍を期待しますか?

やはりゴールでしょう。ドイツとスペインという、かなり格上のチームがグループリーグの相手なので、相当頑張らなければ日本は突破できない。鎌田がゴールを決めて、勝ち上がって欲しいですね。

鎌田のプレースタイルを考えると意外かもしれませんが、そのサッカー経歴はエリートではなく、落ちこぼれというか、「雑草魂」的なものです。本田圭佑と同じように、ガンバのジュニアユース(中学生)からユース(高校)のチームに上がれなかったという挫折を中学3年生で味わっていて、その結果進学した東山高校サッカー部も、高校からそのままプロになった初めての選手が鎌田、というレベルで、名門ではありませんでした。

そういう場所から這い上がってきた彼の経歴や、今回お話ししたようなパーソナリティがもっと世間に伝わると、日本での評価も更に上がるのではないか、と思います。


取材・文/佐藤麻水

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