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柔らかく香ばしい絶品ラクレットにうっとり。とびきりチーズ好きなシェフが切り盛りする由比ヶ浜のチーズ料理屋

集英社オンライン / 2022年11月26日 13時0分

築百年の数寄屋造りでからすみ蕎麦。「ありそうでない」がぎっしり詰まった鎌倉・材木座の「月と松」〉から続く

鎌倉で育ち、今も鎌倉に住み、当地を愛し続ける作家の甘糟りり子氏。食に関するエッセイも多い氏が、鎌倉だから味わえる美味のあれこれをお届けする。

ほとんどの料理にチーズが使われているレストラン

イタリアンレストランやビストロは数あれど、チーズセラーがある店はそうそうない。私が知っているのは「スブリデオ レストラーレ」だけだ。住所は長谷、最寄駅は江ノ電の由比ヶ浜。由比ヶ浜駅から歩いて3分ほどの私道沿いにある。チーズに焦点をあてたレストランだ。

たいていのメニューにチーズが使われている。自家製のパテの中にはコンテチーズが入っていたり、フレッシュハーブサラダは別注でブルーチーズや羊の乳のチーズなどハード系のものをかけてくれたり。デザートのメニューも然りで、ティラミスのザバイオーネクリームにマスカルポーネ、チョコレートムースにスティルトンが使われている。



チーズが主役のものからチーズが隠し味になっているものまで、そのグラデーションはあざやかだ。食べ歩き好きの友人を誘った時、「ほとんどの料理にチーズ」と聞いて、内心、全部似たような味になるのではないかと不安だったという。
しかし、そんな心配は無用、彼女は帰る前にしっかり自分の予約を取っていた。一つ決まったテーマがあると、逆に変化を楽しめるのではないだろうか。

元々は恵比寿の人気店だった。オーナーでもある吉田シェフが恵比寿の物件を手放すことになり、以前から愛着のあった鎌倉に移転を決めたそう。

移転後、鎌倉らしいメニューをと考案したのが「螺髪(らほつ)」。螺髪とは大仏のあの特徴的な縮毛のことで、チーズと玉ねぎでそれを表現した一皿だ。
じっくりオーブンでローストした玉葱にロックフォールと竹炭のソースがたっぷりとかかっている。とろりとした食感、白と灰色が合わさった幻想的な色彩(私は灰色が大好きなので、食べる前から気に入ってしまった)、ロックフォールの塩気と玉葱の甘さが溶け合った味わい、印象深い一皿である。

そんなオリジナリティ溢れるメニューも楽しいけれど、初めてここを訪れたのなら、ぜひ食べてほしいのが「ラクレット」だ。
専用のラクレットマシーンがあって、私は頼む度に勝手を言ってそれをテーブル近くに持ってきてもらう。柔らかそうだったチーズが香ばしくなっていく様を見ながらワインを飲むのが大好きだ。
時間をアテに味わう酒はどうしてこんなにおいしいのだろう。

船便ではるばる届いた圧巻のチーズたち

フロアに入るとすぐ右手に件のチーズ専用セラーがあり、ハードからソフトからさまざまなチーズが横たわっている。大きなセラーはフランスの名誉熟成師であるエルベ・モンス氏がプロデュースしたもので、吉田シェフいわく「恐らく、これは日本でうちしかない」。

船便で何ヶ月もかけて日本にやってきた、さまざまな大きさや形状のチーズがずらりと並ぶ様は圧巻だが、最上段の左にある数体のフィギアも目を引く。
『スター・ウォーズ』のダースベイダーで、これも吉田シェフのお手製だという。

フロアは吉田シェフのパートナーとソムリエの和田さんが切り盛りしている。鎌倉移転から合流した和田さんは以前、銀座のレストランで吉田シェフと働いていた時期があり、その時に吉田シェフの料理の世界観に惚れ込んでしまったそうだ。
スブリデオではどんなワインが中心なのか尋ねてみると、チーズと相性のいい、酵母が残っているようなナチュラル・ワインが多いとのこと。

ありそうでない、スプリデオの魅力とは

さて、『鎌倉だから、おいしい。』などで、さんざん化粧室にはそのお店の個性や思想が溢れでると書いてきたけれど、スブリデオの化粧室には驚いた。大きなフィロキセラがいるのだ。
フィロキセラとは別名・葡萄根油虫で葡萄の木を狙う虫。ワインの天敵である。かつてヨーロッパではこの被害で多くのワイナリーが滅ぼされたとも聞いた。ここの壁には、ワインのキャップシールなどで作られたフィロキセラが飾られている。吉田シェフの知り合いの作品だとか。これは一見の価値あり。

表通りすぎず隠れ家過ぎず、カジュアル過ぎずドレッシー過ぎず、高過ぎず安過ぎず、でも、この店にしかない個性を放っている。鎌倉では貴重な「個室」のあるレストランということを付け加えておこう。


写真・文/甘糟りり子

【お知らせ】
甘糟りり子&松島倫明トークイベント「鎌倉の暮らし、鎌倉の味覚」
12月17日(土) 17:00-18:30 @湘南 蔦屋書店1号館1階


鎌倉育ちで素敵な鎌倉ライフを発信している作家・甘糟りり子さん。
そして同じく鎌倉在住、日本版「WIRED」編集長・松島倫明さん。
日頃から親交のあるふたりが、鎌倉暮らしの愉しみや知られざる名店の逸品、美味の数々について話します。
鎌倉でのワークスタイルやお買い物事情など、かなりディープなトークをご期待ください!

書籍付きでお申込みいただいたお客様には、トーク終了後、甘糟さんよりサインをプレゼント! また、購入いただいた書籍には特典が付きます(予定)。

※1号館1階 湘南 蔦屋書店で 12月7日(水)から開催の「甘糟りり子が選ぶ稲村ヶ崎商店」フェア関連イベントです。
お申込み・詳細はこちらから

鎌倉だから、おいしい。

甘糟 りり子
柔らかく香ばしくなる絶品ラクレットにうっとり。チーズ好きなシェフが切り盛りする由比ヶ浜のイタリアン_08
2020年4月3日発売
1,650円(税込)
四六判/192ページ
ISBN:978-4-08-788037-3
この本を手にとってくださって、ありがとう。 でも、もし、あなたが鎌倉の飲食店のガイドブックを探しているのなら、 ごめんなさい。これは、そういう本ではありません。(著者まえがきより抜粋) 幼少期から鎌倉で育ち、今なお住み続ける著者が、愛し、慈しみ、ともに過ごしてきたともいえる、鎌倉の珠玉の美味を語るエッセイ集。 お屋敷街に佇む未来の老舗(イチリンハナレ)、自営の畑を持つ野菜のビーン・トゥー・バー(オステリア・ジョイア)、カレーもいいけれど私はビーフサラダ(珊瑚礁 本店)、今はなき丸山亭の流れをくむ一軒(ブラッスリー・シェ・アキ)、かつての鎌倉文士に想いを馳せながら(天ぷら ひろみ)……ガイドブックやグルメサイトでは絶対にわからない、鎌倉育ちだから知っているおいしさと魅力に出会える1冊。 素材が豪華ならいいというものでもない、店の内装もまた味わいの一端を担うもの、いいバーとバーテンダーに出会う喜び……著者自身の思い出や実体験とともに語られる鎌倉のおいしいものたちは、自然と「いい店」「いい味」ってこういうことなんだな、という読後感をくれる。 版画のように精緻なタッチで描かれた阿部伸二によるイラストも美しく、まさに読んでおいしい、これまでなかった大人のための鎌倉グルメエッセイ。

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