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国内新店舗を次々にオープン。30年間ずっと革新的であり続けるアウトドアブランド「アークテリクス」の現在地

集英社オンライン / 2022年12月2日 12時1分

1989年にカナダで発足したアウトドアブランド「アークテリクス(ARC’TERYX)」。すでにザ・ノース・フェイスやパタゴニアといった巨星たちが燦然と輝き一時代を築いていたアウトドア業界に、彗星のごとく現れた同ブランドがなぜここまで注目されるようになったのか? この秋オープンした国内最新店舗の模様とともに、アークテリクスの現在を読み解く。

“ガレージブランド”的存在だったアークテリクス

コロナ禍となって盛況を見せているのが、アウトドア市場だ。キャンプシーンは特に顕著で、週末ともなればキャンプ場の予約が取れないなんてことも珍しくない。

そのためキャンパーたちの多くは、他の人とは違ったアイテムを探し求め、自身のテントサイトを個性的に彩る。それが今日の“ガレージブランド”の隆盛へと繋がっており、いまや大小様々なブランドが個性豊かなアイテムをリリースし、凌ぎを削っている。


カナダにあるアークテリクスのオフィス(写真提供/アメア スポーツ ジャパン)

1990年代後半のアークテリクスは、まさに現代のキャンプシーンにおける、自由な発想から革新的なアイテム開発を見せるガレージブランドと重なるところがあるように感じる。というのも、90年代のストリートファッションブームのさなか、パタゴニアはヒット作を連発。ひとつの円熟期を迎えており、他方でザ・ノース・フェイスもまたファッションピースとして不動の地位を築いた。

アークテリクスが開発した初期のオリジナルハーネス「Vapor Harness」(写真提供/アメア スポーツ ジャパン)

1989年に誕生したアークテリクスは、元を辿ればクライミングハーネス作りを出自とするコテコテのアウトドアギアブランド。しかも、当時の主役だったアメリカンブランドではなく「カナダ発」というところも見逃せない。

しかし、イノベーターとしての顔はブランド発足時から明らかで、熱を使ったラミネート加工など革新的な手法を用いたアイテムが当初から高い評価を得ていた。そもそも「始祖鳥(しそちょう)」を表す挑戦的なロゴマークとブランド名も、自身のモノづくりに対する絶対の自信の表れといえる。

その実力と評価をそのままに、アークテリクスは、90年代後半のアウトドアシーンの主役へと一気に駆け上がっていったのだ。

ブランドロゴには最古の鳥類・始祖鳥が採用されている(写真提供/アメア スポーツ ジャパン)

アウトドア業界を揺るがす「大発明」

アークテリクスは、1996年にゴアテックス(GORE-TEX)ライセンスを取得する。このことはアークテリクスのアウトドアブランドとしてのモノづくりが対外的に認められたことを示す。それほどまでに当時、ゴアテックスのライセンスを取得するのは難しいことだった。

そしてブランドの威信をかけた最高パフォーマンスシェルの開発という至上命題を、フラッグシップモデル「アルファ SV ジャケット(ALPHA SV JACKET)」の誕生を持って達成。これは1998年のことであり、時を同じくして、いまなお同社のアイコニックな存在としてロングセールスを続けるバックパック「アロー 22 バックパック(Arro 22 Backpack)」も登場した。

「アロー 22 バックパック」(写真提供/アメア スポーツ ジャパン)

バレット型のアウトシェイプを持つそれは、アウトドアらしい頑丈なナイロンとマットな防水素材がコンビネーションされ、黒のワントーンで統一。そして「カンガルーポケット」と呼ばれるフロントポケットの中心には、鈍く光る線が一筋走る。それこそが90年代のアウトドアの大発明と言われる「止水ファスナー」だ。

ファスナー部分から水が侵入するのを防ぐためにテープで覆われたファスナーは、いまでこそ当たり前の存在となっているが、当時はYKKとアークテリクスが共同開発したセンセーショナルな新素材だった。

アークテリクスの大発明とも言える「止水ファスナー」(写真提供/アメア スポーツ ジャパン)

しかも当のアークテリクスはアウトドア業界の発展のため特許などを取得せず、YKKの商品ラインナップのひとつとして展開されることを承認する。そのため止水ファスナーはウェアを中心としたアウトドアアイテムへと瞬く間に普及し、定番パーツとなっていったのだ。

しかしアークテリクスは“見せ方”が一枚も二枚も上手であった。どこかモードな雰囲気を漂わすこの革新的な新素材を類稀なるデザイン力で見事にプロダクトへと昇華させたのだ。そんな止水ファスナーを印象的に使ったアイテムのひとつがアロー22であり、止水ファスナーがバックパックのデザイン性の決め手にすらなっている。

余談だが、アロー誕生から4年後の2002年、当時高校3年生だった筆者もアローを入手している。まだアメアスポーツジャパンが国内ディストリビューターを務める前の話であり、町田の東急ハンズにて入手したことを昨日のことのように思い出す。

当時でも20,000円を超える高価なバックパックであり、そのためアロー22には手が届かず、ひと回り小さい「アロー 16 バックパック(Arro 16 Backpack)」を購入。今も手元に残るそれは、思い返すと自身の今の境遇の指針となるモノだったといえる。その体験をもってして感じることだが、アークテリクスの商品には人の人生に関わる決定的な何かが備わっている気がしてならないのだ。

筆者が購入した「アロー 16 バックパック」(撮影/岡本546)

現在のアークテリクスのヴィジョン

さて、筆者のノスタルジックかつ熱狂的な想いとともに話が横へとズレてしまったが、ここで現在のアークテリクスについて見ていきたい。というのも先にも述べたが、2022年は国内でアークテリクスが大きな動きを見せた年である。

3月の国内10店舗目となる直営店「二子玉川ライズ S.C.店」オープンを皮切りに、9月に「京都ブランドストア」、10月にはフラッグシップである「原宿ブランドストア」をリニューアル。それに伴い、隣には、原宿2店舗目となる「原宿バードネスト」もオープンさせている。そして10月には「東京 丸の内ブランドストア」と、今年だけで実に4店舗も新店がオープンしているのだ。

2022年10月にオープンした新旗艦店「アークテリクス 東京 丸の内ブランドストア」

シェルやバックパックがスマートに陳列された空間はスタイリッシュそのもの

アークテリクスのノウハウを結集したファッションラインとなる「ヴェイランス」の売り場も店内に設けられている

「東京 丸の内ブランドストア」では、国内では初、世界でも5番目となる修理やリペアを専門で受け付ける「ReBIRD™サービスカウンター」が設置された

「東京 丸の内ブランドストア」のオープニングセレモニーには、本国からマーケティングを担当するアークテリクス副社長カール・アーカー氏が駆けつけており、彼に話を聞くことができた。

この出店ラッシュの背景には、アジア市場とファッション市場を重視するアークテリクスの思惑が感じられる。というのも、アジア市場、中でも日本の市場についてどのように考え、どんなヴィジョンを持っているのかと彼に尋ねたところ、ファッションシーンとの結び付きの話を印象的に語っていたからだ。

アークテリクスのブランドマーケティング担当副社長カール・アーカー(Karl Aaker)氏

「アイテムを作る上での技術的なアプローチはもちろん同じですが、その中でも日本のユーザーのファッションへの流用は欧米にはない独自性があり、そしてそれは中国や韓国といった他のアジアの国々に対して先導的な役割も担っていると思っています。そういう面からも日本の市場は非常に重要であり、我々自身も学ぶことが多い場所ですよ」(カール・アーカー氏)

コアユーザーへ還元するために

たしかに、先述の「アロー 22 バックパック」の大ヒットがあり、日本では早い時期から大手セレクトショップを中心に、いわゆる“別注アイテム”の製作というアークテリクスとのコラボ業態が盛んに行われる動きがあった。しかし、近年のアークテリクスは、パレススケートボード(Palace Skateboards)やジルサンダー(Jil Sander)といった欧米の名のあるファッションブランドとの協業も盛んに行っている。そのことに関して、さらに突っ込んで尋ねた。

「私たちは常に、ハイカーを中心としたアウトドアズマンを念頭にモノづくりしています。しかし一方で、着るシーンを限定したり強制したりしているワケではなく、ユーザーが自由にどんな風に着てもらってもいいと思っています。

そういう点からも日本のユーザーたちの着用方法は、ブランド黎明期から非常に参考になっていました。それがビームスをはじめとした日本のショップとのコラボレーションに繋がり、コラボによって我々自身も新たな視点を発見することができ、そして同時にその発見をユーザーに還元するというサイクルを作ることができた。そのような経験があるから、クラフトマンシップを持つブランドとの協業は大歓迎なんです。

ありがたいことに、そういった誘いを多くいただいているのも事実で、アークテリクスというブランドをより洗練させるチャンスだと思っています。必ず自分たちの身となり、そしてハイカーなどのコアユーザーのために活かせると信じていますから」(カール・アーカー氏)

洋服屋やファッションブランドとの取り組みは必ず自分達に還元できる–––––。そう言い切ったカールの言葉は素材、技術、デザインの三位一体を提唱するアークテリクスのブランド理念に叶ったものである。

アウトドア業界において不動の地位を築いたアークテリクス。しかし彼らはいまの立場にあぐらをかくことなく、貪欲に学び続け、そして常にユーザーに還元しようとしている。
その姿勢があるからこそ、アウトドアズマンからの求心力を損なうことはなく、常に注目の的であり続けるのだろう。


文/岡本546
写真/山田秀隆

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