生きているうえで必ず避けられないのが、親しい人との別れです。甫木元空監督はまだ30歳ですが、「期せずして、そうなってしまいました」と前置きしたうえで、父、母、恩師である青山真治監督との別れを経験し、最愛の人とかつて過ごした日々をモチーフに、映画や音楽ならではの表現として再構築してきました。劇場公開2作目となる59分の映画『はだかのゆめ』は、高知、四万十川の緑深い地で母と過ごした最後の夏をモチーフに、大胆にも幻想譚とした作品です。青木柚さん演じる主人公ノロは、死期を悟りながらもこれまで通りの日常を丁寧に暮らす母親の周りをぐるぐるとさ迷うばかり。劇中には甫木元監督の90歳のおじいさまが祖父役として登場し、誰よりも濃厚な生のエネルギーを放ってもいます。
また、甫木元監督は本作の映画音楽も手掛けています。実は甫木元監督、菊池剛さんとの二人編成のバンド、Bialystocksのボーカル、ギターとしても活躍。11月30日にはOfficial髭男dism、Kroiが所属するレーベル「IRORI RECORD」からメジャーデビューする、世にも珍しい映画監督とミュージシャンの二刀流として注目を浴びる存在なのです。メジャーデビューアルバムのタイトル「Quicksand」が示すように、人には時に、足元が崩れ落ちる瞬間が訪れますが、それをどう芸術に昇華していったのか。後半、Bialystocksのピアニスト、菊池剛さんにも登場いただき、お二人の音楽性についてもうかがいました。