中国の偵察型無人機「BZK-005」1機と、有人の情報収集機、哨戒機2機の計3機が沖縄本島と宮古島の間を飛行し、太平洋上に向かったのは11月14日のこと。
その4日前の10日にも、中国軍のものと推定される無人機1機が東シナ海から尖閣諸島北方を南進し、その後に大陸方面に戻ったことを防衛省が確認している。
【尖閣緊迫】「また中国の無人機だ!」航空自衛隊をあざ笑う“挑発飛行”。中国軍の真の目的とは
集英社オンライン / 2022年11月30日 12時1分
日本の領空周辺に中国の無人偵察機が飛来し、航空自衛隊がスクランブル発進するケースが増えている。特に昨今は尖閣諸島周辺に接近するなど、中国軍の日本領海周辺での動きが新たなステージに突入したとも言える。中国の狙いとは?
相次ぐ中国軍無人飛行機の飛来
すぐさま空自南西航空方面隊から、日本人パイロットが操るF-15戦闘機がスクランブル発進したこともあって、中国機は領空侵犯することなく、尖閣諸島まで80キロの地点で反転して事なきを得たが、こうした日本領海周辺での中国無人機の飛行は今年に入って6回目となる。
とくに沖縄本島と宮古島の間の通過は、中国軍が台湾周辺に弾道ミサイルを打ち込んだ8月4日に無人機が飛来したケースがあったものの、10日のように尖閣諸島周辺にまで接近したことはこれまでになく、中国軍の日本領海周辺での動きが新たなステージに突入したと言える。
尖閣諸島周辺は領空侵犯を未然に防ぐために戦闘機が発進する日中それぞれの「防空識別圏」が重複している。そのため、中国にすれば「自国の識別圏で自軍の飛行機を飛ばして何が悪い」と開き直れるだけに、こうした中国機の飛来は今後も激増するだろう。
防空識別圏でお互いが有人機の場合は、「こちらは日本の航空自衛隊である。日本の領空に近づいているので進路を変更せよ」などと、中国機に無線で警告したり、進路を誘導することができる。しかし、パイロットが搭乗していない無人機ではこうした事前の警告も無視され、機能しないことが憂慮されるのだ。
無人機のセールスに利用も
今回の無人機飛来については、中国広東省珠海で11月8日から13日まで、中国政府が主催する2年ぶりの「国際航空宇宙博覧会」が開かれていたことも関係があるかもしれない。
この博覧会は国内外の軍関係者やサプライヤーが集うことで知られ、中国自慢の第5世代ステルス戦闘機「J-20」による編隊飛行などが披露されて世界の耳目を集めた。
この場で中国がひときわ熱心に売り込みをかけたのが新型無人機だ。ラインナップも豊富で、たとえば米国の無人機MQ-1「グレイイーグル」とほぼ同等の性能を持つとされる「翼竜1E」は高度1万mを飛行し、その滞空時間は35〜45時間、航続距離も7500kmを誇る。システムも大幅に向上し、自律飛行の精度が高まり、AIによる目標の識別機能も持つ。
また、偵察と攻撃を兼ね備える「翼竜3」は最大積載量(ペイロード)が2300kgもあり、機体の9箇所にさまざまなミサイルを積むことできるだけでなく、通信衛星のデータリンクで少なくとも半径3000kmにわたって通信・制御が可能となっている。
中国の「国際航空宇宙博覧会」で展示された「翼竜3」 写真/央视军事
大型無人機「翼竜10-B」も高スペックだ。ターボファンのジェットエンジンを備え、高度1万2500kmを時速650kmで飛行し、空対空、空対地ミサイルを搭載することができる。その性能は米軍の持つ大型無人偵察機RQ-4「グローバルホーク」に匹敵するとされているほどだ。
こうした売り出し中の無人機の性能と実績を各国の駐在武官にアピールしようと、中国軍が日本周辺に無人機を飛ばした可能性があるのだ。
真の狙いは自衛隊の疲弊
ただ、対日本では別の狙いもあるはずだ。それは自衛隊を疲弊させることだ。
沖縄方面での航空自衛隊のスクランブル発進はじつに330回(1~10月)を数える。そのほとんどが中国機に対するものだ。那覇の空自基地には2個飛行隊約40機のF-15が配備されているとはいえ、これだけのスクランブルをこなせば自衛隊側の疲労困憊は免れない。
日本領空周辺で連日のように無人機を運用して空自のパイロットを疲弊させ、さらには機体の整備が追いつかない状況を作り出したいというのが中国側の狙いなのだろう。
令和4年7月25日、単独飛行で太平洋に進出した中国の偵察攻撃型無人機「TB001」
それでなくても米軍沖縄嘉手納基地からのF-15の段階的撤退が決定され、空自の負担は強まるばかりだ。次期主力機となるであろうF-15EXはまだ製造が少なく、沖縄に回す余裕はないからだ。
ならば、無人機には無人機で対応すればよいとの声が上がるかもしれない。
しかし、我が国での無人機運用は海上保安庁が青森県八戸市で船舶などの海洋監視のため、米国製MQ-9B「シーガーディアン」の運用を始めたばかりだ。23年度に3機体制にし、海自も配備を予定する同年からは情報共有を図る予定だが、運用実績はこれからというのが実情だ。
中国に大きく遅れた日本のドローン技術
無人機開発でも日本は中国に大きく立ち遅れている。中国のドローン生産量は空撮用ドローンで有名なDJIなど、世界シェアの7割を占める。2006~2016年までのドローン特許出願件数も世界トップ20位中、米中勢が8割を占める。
こうした圧倒的なシェアを背景に、中国の軍用無人機の保有数は世界トップレベルとなり、さらには多種多様の無人機を同時に200機以上操る「スウォーム」(集団飛行)戦略や無人機のステルス化を目指すなど、その軍事転用技術のレベルも米国に肩を並べつつある。
一方の日本は2006~2016年のドローン特許出願件数はゼロで、日本独自の無人機開発(特に軍事部門)は中国に10年遅れているとされる。
ウクライナ戦線ではウクライナもロシアも無人機の運用は常識化している。台湾有事の際、尖閣上空にレーダーに映りづらい武装した攻撃型無人機の大群が中国から襲来するという事態は、決して絵空事ではなく、今、そこにある危機なのだ。
その時、日本がどう対応するのかが問われている。
取材・文/世良光弘 写真/防衛省・統合幕僚監部提供
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