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「何ミサイル撃っとんねん!」僕が在日コリアンというだけで、大阪・ミナミで暴行を受けた顛末

集英社オンライン / 2022年12月1日 16時1分

2022年10月10日の明け方。大阪・ミナミを歩いていたプロパフォーマーのちゃんへん.さんは、すれ違った男から「チョンやんけ!」「何ミサイル撃っとんねん!」といきなり殴打された。さらに、その場にいた部外者からも暴行を受け……。いまだなくならないヘイトクライムの実状を本人がレポートする。

「日本おったらあかんやろ!」

僕は普段、「ちゃんへん.」という名前でジャグリングをしている在日コリアンで、パフォーマンスとともに学校公演も数多く行っている。

中学2年の時にジャグリングと出合い、翌年には米国のパフォーマンスコンテストで優勝した、ちゃんへん.氏。高校卒業後は海外で本格的にプロパフォーマーとして活動し、これまで世界82の国と地域で公演。マイケル・ジャクソン、金正恩の前でもパフォーマンスを披露した


10月9日の23時半過ぎ頃、友人たちが、僕の誕生日をお祝いしてくれるとのことで、大阪のミナミの街を歩いていた。お祝いされるのは少し苦手ではあるのだが、この日は仕事もなく、せっかくのご厚意なので甘えることにした。

お店に着き、何気ない会話をしていると、カウントダウンが始まった。10月10日、37歳になった。その後はゆっくりお酒を飲みながら会話を楽しみ、ふと時計を見ると朝の5時前だった。連日の公演での疲れもあってすごく眠かったので、始発の電車で帰ろうと思い、店を後にした。

宗右衛門町通り付近に差しかかると、前から歩いてきた男性3人組の一人A氏が、僕と目が合うなり「うわ!ちゃんへん.やんけ!」とこちらを指さした。こういうことはたまにあるのでそんなに驚きもしなかったのだが、A氏が隣のB氏に何やら伝えたようだ。

次の瞬間だった。B氏は「はあ!」と声を上げると眉間に皺を寄せながら足早に近づき、「チョンやんけ!」と言いながら思いきり僕の顎の左側を殴ったのだ。

突然のことでよろけてしまい、その際に持っていたスマホを奪われた。B氏はさらに殴りかかってきたので、僕は必死に後ずさりしながら避けた。B氏はお酒が入っているようで動きが少し鈍く、攻撃は当たることはなかったのだが、突然、名指しされた上に暴力を振るわれて、僕自身はパニックになった。

A氏ともう一人のC氏は止めようとしていた様子だったが、B氏は「何ミサイル撃っとんねん!」「チョンは日本おったらあかんやろ!」と叫び続けた。

さらに次の瞬間、突然、背中に強烈な衝撃があった。どうやら蹴られたらしい。後ろを確認すると、この状況を面白がったのか、部外者が数人割り込んできていた。これはもう落ち着いて話し合うことも困難と判断し、僕はとにかく全速力で逃げた。数人が追いかけてきたようだが、なんとか逃げ切ることに成功した。

このまま警察に行こうとも思ったが、あまりの疲労と睡魔に襲われ、一旦帰って休むことにした。家に着いて少しだけ余力があったので、パソコンでFacebookに覚えている限りの一部始終をアップしてとりあえず寝た。

「この人、北朝鮮の人なんすよ」

お昼前に目が覚めると、首と左顎に痛みがあった。昨夜はパニック状態で、何が何だかわからなかったが、改めて被害に遭った実感が湧いた。そういえばスマホを奪われたままで、これでは何もできないと困っていたのだが、幸いなことになんば駅に届けられていた。

スマホを受け取って通知を確認すると、Facebookにたくさんのコメントやシェアがされていて、友人からの連絡通知もかなりの数がきていた。それでTwitterにもこの出来事をツイートしたところ、ものすごい勢いで拡散され、色々な方々から「力になります」「サポートします」といったメッセージが届いた。

アドバイスの中には、「今後、警察に行くにしても弁護士をつけた方がいい」というものもあり、僕自身もこの理不尽な暴力に対して怒りがあったので、被害届ではなく告訴状を出す準備をすることにした。

すると、被害に遭った二日後の10月12日の朝、僕のホームページに一通の連絡が来た。それはA氏からだった。実はA氏は、僕の公演を10年ほど前に学校で見ていて、インスタグラムもフォローしている人物だった。

本当は騒動の後、SNSから連絡をしようと思っていたらしいが、Twitterのリツイートの数を見て萎縮してしまったそうだ。A氏によれば、B氏は示談を望んでいるが、事が事なだけに、きちんと自分で罪を償う覚悟はあると話しているという。

すぐに弁護士に連絡し、告訴状を一旦止めてもらって、ひとまずはA氏の話を聞くことにした。あの日の夜、A氏は「うわ! ちゃんへん.やんけ!」とは言ったものの、ニュアンス的には「うわ! ちゃんへん.さんだ!」という感じで悪意はなく、むしろ道で遭遇したことに興奮したのだろう。

ただ、問題はここからだった。A氏はB氏に「この人、北朝鮮の人なんすよ」と伝えたというのだ。実際には「朝鮮の人」ではあっても「北朝鮮の人」ではないのだが、この「北朝鮮」というワードにB氏が過剰に反応したのは間違いなく、そのワードから連想されるネガティブなイメージから暴行に及んでしまったのだという。

ちなみにB氏は当時泥酔状態で、その時の言動もまったく覚えていないらしい。だからといって許されることではないが、僕自身、少し時間が経ったこともあり冷静に考えてみて、その後、弁護士同席でB氏に会うことにした。

B氏が根っからのレイシストなら法的に戦うべきなのだろうが、まずは、酔っていたとはいえ今回のような言動の原因を知ることが大事だと思ったからだ。

「朝鮮籍」に対する誤解

実際にB氏と会ってみると、自身の言動を覚えていないとはいえ、やったことについて、相当反省している様子が見てとれた。

こういう時、「いやいや、絶対に反省していないだろ」「心の中ではどう思っているか分からない」と思う方もいるかもしれないが、僕は人間同士、会ってしっかり対話をすれば、演技かそうでないかは、分かると思っている。

B氏とじっくり話したところ、メディア等で見聞きする北朝鮮のイメージのみで、ああいった言動に及んでしまったという。ある意味で予想通りだった。在日朝鮮人はすべて「北朝鮮の人」で、朝鮮学校も「北朝鮮の人が通っている学校」だと思いこんでいた。

ここで今後、間違った認識があってはいけないので大事なことを書きたいと思う。

在日朝鮮人というのは、日本統治時代に朝鮮半島から日本に渡ってきた人たちのことであり、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の国籍保有者を指す言葉ではない。

朝鮮籍というのは、日本政府がそれまで皇国臣民=日本国籍者としてきた朝鮮人を第二次大戦後にいきなり外国人として登録するために作られた便宜上の記号なのだ。したがってこれは国籍ではない。朝鮮半島出身者という意味で「朝鮮籍」と国籍欄に表示されるが、事実上の無国籍なのである。

無国籍だからパスポートは持てない。それでも自分たちのルーツやアイデンティティを尊重して、国籍を取得せずにこの朝鮮籍にこだわり続ける人たちもいるのだ。

そして、朝鮮学校は北朝鮮政府が資金援助をして建てた学校ではあるものの、在日一世を除けば、通った方、通っている方のほとんどが日本生まれ日本育ちであり、国籍も韓国や日本の方が多い。

僕が提示した示談の条件

とはいえ、たとえ「北朝鮮」の人であったとしても、「拉致問題」や「ミサイル」や「核実験」を理由に、それらとは何の関係もない一般のコリアンに因縁をつけたり暴行を加えたりすることは、完全なるヘイトクライムであり、決して許されることはない。

それでも今回、僕はこの件についてB氏との和解に応じることにした。それは、彼がネットのデマやメディアの報道により間違った認識から生じた、自身の言動を反省していると判断したからだ。彼はレイシストではなく、こういうと抽象的で語弊があるかもしれないが、言ってしまえば本当に「普通の人」だった。

もし僕が今回の件をドライに法律に訴えて、勝利したとしても根本的な解決には向かわないと思うし、むしろ当事者同士が対話をした示談の先に、有意義な未来があるのではないかと考えた。

なので示談の条件として、B氏に在日韓国・朝鮮人の歴史的背景を多角的に学んでもらうことで、決着をつけることにした。この結果に僕自身は納得している。

もちろん、今後も同じようなことが起こるかもしれないし、死者が出てからでは手遅れだとも思う。それでもキング牧師の言葉をお借りすれば、いつの日かかつての加害者と被害者が兄弟として、家族として同じテーブルにつけることを目標にすることが最善なんだと思う。

全ての物事が対話や尊重によって解決するとは限らないかもしれないが、それでも対話や尊重を諦めない限り、解決は不可能ではないと僕は信じている。

著書の「ぼくは挑戦人」にも書いたけれど、ヘイトスピーチのデモに参加していた若者二人に声をかけてじっくり話し合い、最終的には一緒にご飯に行って仲良くなった。

今回の件が同じような方向に進んでいくかはまだ分からないけれど、もう少し時間が経って、その時が来たら、B氏とミナミの街で乾杯でもできたらなと思う。

マスメディアも日本の歴史教育も、朝鮮籍のことや同じ日本で暮らす在日のことをほとんど伝えてくれない。ならば僕は、これからもジャグリングショーや講演会を通じて、少しでも多くの人に在日のことを知ってもらい、共に生きていくことを伝え続けたい。

文/ちゃんへん.

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