1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. スポーツ
  4. スポーツ総合

“シャンパン”か“リアリズム”か? W杯前回王者フランスのリアルな現在地

集英社オンライン / 2022年12月1日 14時1分

いよいよ開幕した「FIFAワールドカップカタール2022」。英ブックメーカーの優勝オッズ1位はブラジルだが、前回優勝国のフランス代表を推す声も少なくない。フィリップ・トルシエ元日本代表監督の通訳を務め、現在はDAZNリーグ・アンの解説でも活躍するフランス人ジャーナリスト、フローラン・ダバディ氏に話を伺った。 トップ画像:左からアントワーヌ・グリーズマン、キリアン・エムバペ、オリビエ・ジルー/写真:アフロ

ベスト8から連覇が見えてくる

――日本では初戦の勝利以降大いに盛り上がっていますが、フランス国内のW杯ムードや、期待度はいかがですか?

今大会が例外的な “秋開催”で、ラグビーフランス代表の試合や男子テニスの年間ツアー最終戦など、サッカー以外のスポーツも佳境を迎えているので、現状では「W杯ムード」と呼べるほどの盛り上がりにはなっていません。



国内の大方の予想としては、組み合わせをシミレーションしても、まずグループリーグは突破するだろう、と。その後にトーナメント1回戦で当たるグループDの国を見ても、前回のベスト16で下したアルゼンチンを含め、フランスからすると特に苦手意識のある国はなく、組み合わせに恵まれた、という印象で受け止められています。

そこで勝った場合、次はオランダ・セネガル・イングランドのいずれかが来る可能性が高いですが、どこが来ても“五分五分”の戦いになるでしょう。ベスト8まで残ると「残り3試合勝てば優勝」なので、フランスメディアもそこで初めて「連覇」という言葉を使い始め、やっとサポーターも盛り上がり始めるのではないかな。

FIFAワールドカップカタール2022のグループリーグ組み合わせ

――ダバディさんの個人的な予想はいかがですか?

予想というよりは個人的な願望ですが、2002年日韓W杯のリベンジマッチとして、セネガルとの対戦をベスト8で観たいです。あの大会は初戦でセネガルに負けて、そこから歯車が狂い始めましたし…。

今回のセネガルはとてもいいチームですし、セネガルはフランス語圏で個人的にも好きな国。アフリカのチームが初めてW杯で優勝するところも見てみたいので、もしそこでフランスが負けたら、そこからはセネガルを応援します(笑)。

――カタール入りしたフランス代表の雰囲気は良好ですか?

フランスメディアの報道を見ている限りは、とても落ち着いているようです。2000年にEUROを制した後、「日韓W杯も余裕で連覇」という楽観的なムードがフランス国内にありました。20年前の話ですが、そこで“大コケ”してしまったことを、フランス人は忘れていません。

だからこそ選手や監督、スタッフ、メディア、サポーターも含めて、誰も前回王者という立場に驕っておらず、「連覇」という言葉は口にしない。それに、フランスから見てもやはりブラジルが今回の大本命です。そういう前提の上で、ロシアW杯のように1試合1試合ベストを尽くし、簡単には負けないチームを作り上げたい、という気持ちでまとまっているはずです。

“野戦病院”と化したフランス代表

――フランス代表の現在のチーム状況を解説していただけますか?

日本代表と同様に、前線・中盤・最終ラインのすべてのブロックに怪我人がいる状態で、日に日に状況が変わっています。

最終ラインは、絶対的な中心選手であるCBのラファエル・ヴァラン(マンチェスター・ユナイテッド)が、グループリーグ初戦に間に合いませんでした。ディディエ・デシャン監督はこれまでの基本フォーメーションの「3-4-1-2の3バックシステム」を完全に捨てて、4バックで今大会に臨むでしょう。

4バックシステムのCBの2人には、オートマティズム、阿吽の呼吸がより求められます。ヴァラン抜きのコンビが意外と上手くいった場合、そのコンビを崩して復帰後のヴァランを組み込むのか、上手くいったコンビを採用し続けるのか、現段階ではかなり不透明です。

――中盤はどうでしょうか?

前回のロシアW杯優勝チームの大黒柱だった、ポール・ポグバ(ユべントス)とエンゴロ・カンテ(チェルシー)が怪我の影響で今大会未召集です。招集選手の中では、チュアメニ(レアル・マドリード)がW杯予選でもまずまずの活躍を見せました。それから、所属クラブでの活躍度合いから考えると、フランス国内でも賛否両論ありますがアドリアン・ラビオ(ユベントス)、以上の2人が中盤のメインになりそうです。

――前線はどうですか?

今年のバロンドールを受賞したカリム・ベンゼマ(レアル・マドリード)が怪我で辞退となりましたが、このシチュエーションは「2002年日韓W杯のジネディーヌ・ジダン」に似ていると感じています。

ジダンが中心だった時代のフランス代表は、1998年フランスW杯で優勝、2000年の欧州選手権(以下、EURO)でも優勝し、ジダン自身はバロンドールを受賞しました。そんな素晴らしい流れで日韓W杯を迎えたのですが、大会前に怪我を負い、グループリーグ3戦目にようやく強行出場するものの、“時すでに遅し”で…。
結局、2敗1分という残念な結果で敗退しました。

おそらくベンゼマの代わりはオリヴィエ・ジルー(ACミラン)が出場するでしょう。ジルーはキリアン・エムバペ(パリ・サンジェルマン)との連携が良く、表立って口にはしていませんが、エムバペとしては「ベンゼマよりもジルーの方がプレーしやすい」と感じている節があります。
その点ではプラスな要素もあるかもしれませんが、いずれにしろ全てのポジションで怪我人が多く、かなり大変なチーム状況です。

ポール・ポグバ不在の今、唯一のリーダーは…

――今回のチームを束ねるリーダーは誰なのでしょうか?

ロシアW杯ではポグバがリーダーで、ドレッシングルームにおいてもチームを鼓舞する重要な存在でしたが、その代わりになれるような選手は今回のメンバーにはいません。

GKのウーゴ・ロリス(トッテナム)はとても寡黙な男ですが、経験があり、彼が話す時にはみんなが耳を傾けます。とはいえ、強烈なリーダーシップを発揮するわけではない。エムバペも所属クラブでの言動が度々話題になりますし、昨年のEUROでも彼の態度によってチーム内で分裂が起きたので、最初は大人しくするでしょう。ゴールを量産すれば、調子に乗ってしまうかもしれませんが。

唯一、アントワーヌ・グリーズマン(アトレティコ・マドリード)がリーダーになれそうにも見えますが、彼の性格は私がいたトルシエジャパンでいえば森島寛晃のようなタイプで、ムードメーカーであり、ドンと構えるリーダーではないですね。 今大会、前線からかなり献身的に守備に走り、かつ攻撃面でも質の高いプレーを見せています。
「フランス代表のここまでのMVP」と評されるパフォーマンスにはチームメートも脱帽しており、グリーズマンを“チームリーダー”だと見なす意見もありますが、彼としては、あくまでも“影の存在”として貢献したいはずです。

“リーダー不在”がいい方向に働き、みんなが謙虚になって一つにまとまれるのか。チームに問題が起きた時に、誰もチームを引っ張れないのか。どちらに転ぶかは分かりません。強いて言えば、ロシアW杯を制し、その後もチームを率いている監督のデシャンが唯一のリーダーでしょう。

カタールW杯後の監督はあのレジェンド!

フローラン・ダバディ

――デシャン監督は、あまりリスクを冒さない戦術を好む印象ですが、そのスタイルは今大会も変わりませんか?

デシャンは常にデシャンで、きっと“一生変わらない”(笑)。選手時代のプレースタイルと監督としての戦術、そのどちらにおいても、彼の“コンサバティブで守備的な哲学”はずっと同じです。

戦術的には、最終ラインからの丁寧なビルドアップよりも、「ロングボールを1トップに当てて、そのこぼれ球を拾う」というような、単純な攻め方を好みます。4バック化やポグバの不在を考えると、戦術の単純化は今回さらに進むのではないでしょうか。

とはいえ、今いる選手も物凄い力を発揮するポテンシャルを秘めていますし、エムバペ1人だけでも脅威になれるので、そう簡単に負けるチームではない。2戦目のデンマーク戦が、今大会のフランス代表の強さを測るバロメーターになると思います。

――デシャン監督の人柄や戦術は、フランス国内では支持されているのでしょうか?

支持率でいえば、賛成46%・反対54%くらいの五分五分です。ただ、守備的な戦術だけでなく、若手の抜擢に消極的な点など、選手選考においてもかなり保守的な監督なので、サッカー関係者ではないサポーターの間では特に支持率が低いですね。

しかしながらデシャンの契約は今年限りで、「その後の監督はジダン」と“ほぼ確定的に”フランスメディアでは報道されています。そしてジダンになれば、フランス代表のアイデンティティも今とは180度変わってくるはずです。

1978年から1998年までのフランス代表は、ミシェル・プラティニの影響が色濃い、“シャンパンサッカー”と呼ばれる、攻撃的な魅せるサッカーでした。1998年以降、デシャン式の結果至上主義の“リアリズムなサッカー”に変わり、現在に至るまでそれが続いています。

ジダンが監督になれば、プラティニ時代のような創造性溢れる攻撃サッカーが復活するでしょうから、それはそれで個人的には楽しみです。

―“シャンパンサッカー”と“リアリズムなサッカー”、どちらがフランス代表の本来の姿なのですか?

サッカー界やサポーター間でも、その意見は二分されています。W杯を2回優勝したデシャン式を評価している人もいれば、「1982年と1986年のチームの方が、サッカーの質や“スペクタクルさ”ではW杯優勝チームよりも優れていた」と主張する人も多い。

フランスはラテンの国ですが、人種的にはケルト人もゲルマン人もいて、多様な民族が混ざり合っている国なので、そういうディベートは尽きませんね。ジダンはそういう部分を絶妙なバランスで調整できそうな人物なので、そこに期待している人も多いです。

取材・文/佐藤麻水

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください