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ウクライナ戦争が世界の秩序を根底から変える「構造戦争」だった理由

集英社オンライン / 2022年12月16日 10時1分

9月に刊行された『非戦の安全保障論 ウクライナ戦争以後の日本の戦略』(集英社新書)の刊行を記念して、編者である「自衛隊を活かす会」主催の講演会を開催した(2022年10月14日、衆議院第二議員会館)。講演ではウクライナ戦争を考える上で多くの知見が示されたので、ここに講演での著者4人の冒頭発言を一人ずつ紹介する。第2回目は加藤朗氏。

2022年3月21日、キーウ(キエフ)のショッピングセンターにロシア軍による爆撃。写真:ロイター/アフロ

リビウで、初めて空襲警報を聞いた

本にも書いたんですけれども、本当に我が不明を恥じています。今から30年ほど前に書いた私の最初の著作は、これからの戦争は国家間戦争じゃないというものでして、それから30年以上、今日に至るまで、ずっとその研究を続けていました。



ところが、ウクライナ戦争が始まり、これは見事な国家間戦争で、クラウゼヴィッツの言う三位一体型の戦争、政府・国民・軍隊の古典的な国家間戦争に逆戻りしてしまったのです。

一体、自分は何を研究してきたんだろうかという深い反省の念の中で、ずっとウクライナ戦争を見続けていると言いたいところですが、あまりにも苦しくて、最近はウクライナ戦争のことについてはあまり見ておりません。

実際に4月の初めにリビウとキーウまで行きました。2017年に一度行ったことがありました。だからそれが一体どうなっているんだろうかと思って、見に行ったんです。

当時はハルキウまで行ったのですが、今回はとてもハルキウまで行ける状況じゃなくて、キーウで終わりましたけれども。

これまでも紛争地域には何か所も行ったことがあります。でも、それらの戦場とは違います。全く違います。初めて夜間外出禁止令の国に降り立って、夜の10時に外出禁止令が出るという直前の9時50分、私の乗ったバスがリビウに着きました。

あと10分で外出禁止になりますから、知らない土地でホテルまでどうやって行くんだという、もう本当に今まで感じたことがないようなある種のパニックに陥りました。

幸い、タクシーがつかまって、ホテルまで行ったんですが、ホテルがどこにあるのか分からないという、そういう状況の中で、それでも何とかホテルに着いて、ベッドでひと休みしていたら、空襲警報です。

初めて空襲警報を聞きました。もう慌てふためいて、飛び起きて、服を着て、すぐに逃げられるように靴を履いたまま、しばらくベッドに横になっていました。それも24時間もすれば慣れるような話ですけども。

つい最近、キーウがミサイルで攻撃されました(2022年10月10日)。公園などが攻撃された。あの公園は私も行ったことがあります。あの通りは歩いた場所です。本当にキーウの中心部です。日本でいえば日比谷公園にミサイルが着弾したのと同じです。

そのすぐ近くにキーウの駅があるんですけども──数百メートル離れたところです──そこを狙ったのかどうか、それは分かりません。それと公園のすぐ近く、大通りみたいなところにも一発着弾しています。そのすぐそばには、美術館か何か公共の建物があって、丸い典型的なドームがあったんですけども、そのガラスも全部割れていました。

大きな銅像は、全てぐるぐる巻きにして、爆弾の被害を防ぐような仕掛けがしてありましたけど、それはどうにか大丈夫だということです。本当に、ある意味で東京の霞が関とか、そんなところに落ちたような、そういう感覚です。

この戦争はこれまでの世界を根底から覆そうとしている

現状の報告はこれまでにして、私自身がこのウクライナ戦争とは何かということを考えたときに、結局これは構造戦争だということでした。つまり秩序を形成する戦争であるということだと思います。

地震にたとえて言えば、普通の地域紛争というのは、まさしく阪神・淡路の大震災のようなもの──あれは活断層型の地震だったんですが──、影響はその地域にしか及ばないんですよ。

ところが、今回のウクライナ戦争というのは、東日本大震災のようなプレート型のある種の大地震です。根底から崩れ始めています。これはもう世界の構造が変わりつつあるということです。今起きているのは、事実上の第三次世界大戦であると思います。

これでウクライナが負けようが、ロシアが負けようが、どうなろうとも、今回の戦争の後で世界の秩序が大きく変わることはまず間違いありません。今それでなくても、その影響が直接、間接、世界中に波及しているわけです。

エネルギーを通じてであれ、あるいは思想的な対立であれ、国内の政治、アメリカも日本もそうです、ヨーロッパもそうです、世界中の国内政治に大きな影響を与えています。戦争の結果がどうであれ、恐らくこの影響は、秩序が安定するまではかなり長きにわたって続くだろうと思います。

そういう意味で、現在の戦争というのは、これまで我々が冷戦時代にいろいろと経験してきたような、そういう戦争ではない。地域紛争でも何でもなくて、ある種の代理戦争でもありません。完全に秩序が変化していっているという、そういう戦争だというふうに見るべきだと思います。

何でこんな戦争が起きたのかという話ですけれども、実は国際政治学を学んできている、研究している世界中の学者も明確な答えを出せていません。あのキッシンジャーさえもいろいろと批判される。

国際政治学で非常に有名だったジョン・ミアシャイマーというアメリカの研究者もいますけども、今もうこてんぱんに叩かれています。

彼らの言ったことが正しいかどうかは別にしても、その言説そのものの正当性というのか、イデオロギー的な正当性というものが許されるのかといった、まさしくそうしたイデオロギー的な問題も含めて、この戦争が大きな影響を、少なくとも政治だけではなくて、我々の学問、あるいは経済においても、あらゆる面でこの戦争はこれまでの世界を根底から覆そうとしているという、そういう事態だろうと思います。

キッシンジャー、冷戦直後の予見

ウクライナ戦争が始まった当初、実はキッシンジャーが来年百歳になるので、それに合わせて論文を書こうと思って、キッシンジャーの本をいろいろ読んでいました。

冷戦が終わった後に彼は『外交』という本を書いたのですが、その中にロシアについて書いた節があって、それを読んでみて、ああそうなのかなと思った一節があります。それをまとめとして御紹介したいと思います。

「共産主義崩壊後のロシアは、過去の歴史の先例を全く反映していない国境の中に自らを見いだしている。ヨーロッパと同じように、ロシアは多大のエネルギーを自らのアイデンティティー再確立のために使わねばならないであろう。

ロシアはその歴史に立ち戻り、失われた帝国復活を求めるのであろうか。ロシアは重心を東に移し、アジア外交により積極的に参加するのであろうか。ロシアはどんな原則と手段によって、その国境周辺の動乱、特に不安定な中東の動乱に反応するのであろうか。

ロシアは世界秩序にとって常に不可欠な要素であるが、他方、右の疑問に答えようとすることによって、必然的に起きる動乱の中では、世界秩序にとって潜在的な脅威となるであろう」
キッシンジャー著『外交』(岡崎久彦監訳、上下巻、日本経済新聞社、一九九六年)より

潜在的な脅威どころか、まさしく顕在的な脅威となってしまいました。

撮影:等々力菜里

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