――この時節柄、コロナ禍を背景にした作品もありました。
宮川 読者の方の反応をリアルタイムに感じられたのも、Twitter 連載の面白さでした。例えば、平野啓一郎さんの作品はコロナで地方に移住した家族の物語でしたが、配信後は同時代的な共感や感想を目にしました。いつも以上に、作家もひとりの生活者として様々な変化に直面している中で書いていることが伝わってきて、読者にも響いていたように思います。
金原ひとみさんもご自身がパリで過ごしたコロナ前の思い出と、リモートワークが主となった東京の現在がリンクした小説になっていて。個人的にもすごく共鳴した“本当は他者や物への思いを何一つ断ち切る必要などなく、むしろ全てを体内に沈めながらしか人は生きられないのかもしれない”という一節は、どこか今の時間を肯定されているようで、閉塞感の中でこそ感じるものがありました。
金原さんは後日メールをくださって、書くことで自分の思い出やモノについてだけではなく、今の消費のあり方や社会の構造的な問題にも思いを馳せたと伝えてくださって。この企画をやってよかったと思った瞬間でした。
モノとの出会いと別れは、必然的に人との出会いと別れともリンクするので、そこを書いてくださる作品も多かったです。西川美和さんは打ち合わせから「メルカリで元彼と繋がる可能性もありますよね」というユニークな発想をしてくださり、メルカリ上でのやりとりを描いた物語になりました。取り返しのつかない別れを、取り返しのつかないままに書いてくださっている。
特に緊急事態宣言が出ていた頃は、安易なハッピーエンドには共感しづらかったように思います。「変わらないものは何もない」という不条理な日々を生きていた中で、こういうリアルな別れはいつも以上に沁(し)み入りました。