――約200haのドローンフィールドというのは国内最大なんですか?
稲田悠樹(以下、同) 僕の知る限りでは最大だと思います。直線距離なら他に大きなところがあるのかもしれませんが、あっても海の上とかですよね。陸地で、かつ平地というのがこれまでなかったと思います。
改正航空法の施行を前に国内最大級の「ドローン天国」が熊本に誕生。200haの土地を調達したのは地元思いの青年だった
集英社オンライン / 2022年12月2日 18時1分
12月5日の改正航空法の施行を前に、東京ドームにして約40個分(200ha)を超える日本最大級のドローンフィールド「阿蘇ドローン手形BIZ」が熊本・阿蘇にプレオープン。日本国内の地上ではほぼあり得ない規模感のフィールドをどう調達し、どう維持していくのか? フィールドを運営する「コマンドディー」(熊本市)代表の稲田悠樹さん(38歳)に話を聞いた。
長距離飛行ができる「ドローン天国」
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放牧地を活用して開設したドローンフィールド「阿蘇ドローン手形BIZ」
――どういったニーズを想定しているんですか?
改正航空法で可能になる見込みなのが、ドローンの長距離飛行です。その実証実験の場としての需要ですね。個人使用は想定していません。実際、改正後の利用のご相談は多数いただいています。
「フィールドを探そうとすると森か水上しか選択肢がない」とよくいわれます。確かに森や水上なら人がいないのでリスクが低いのですが、ドローンが墜落したら回収困難だし、緊急着陸も難しくて、実験環境としては厳しいですよね。
さらに地上だと地権者ごとに許可を取ったり、行政が関われば手続きが大変……と煩雑にもなってきます。
ここはそのあたりの問題を全てクリアした、いわば「ドローン天国」なんです。競合もほぼ生まれないのではと考えています。
このフィールドには電源があって充電でき、トイレもある。さらに今後ドローンに搭載されることが増えていく携帯キャリアのネットワークがつながる、というのも重要なポイントですね。
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ドローンに関わる事業者らが集まって行われた講習会
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――航空法の改正によって新たな実験が必要になるほど変わるということですか?
法改正で「レベル4飛行」(住宅地など有人地帯で操縦者が機体を目視せずに上空を飛行できる)が解禁され、長距離も飛ばせるようになるので、「ドローン2.0」といえるくらい日本でのドローンの使い方は大きく変わってくるのではないかと考えています。
今までは、「ドローン=カメラ」という感じで、撮影や測量、点検などのカメラの用途がメインでしたが、今後は、何かを載せて飛ぶというニーズが増えるはずです。
技術的にはもうできるし、やっている国もありますが、日本国内では本番前にテストできる環境が少なく、リスクを軽減しにくい状況です。
なので、業界活性化のためにも、安全な技術テストの場を提供したいと考えました。
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熊本市出身の稲田悠樹さんは、地元を中心にドローン事業を展開
放牧地帯の上空を借りる
――どのような開発が行われている段階なんでしょうか?
どの用途においてどの機体の形を使おうか、という技術開発で競い合っているところです。
ドローンといわれてイメージしやすい4つのプロペラが回っている形は、マルチコプター型と呼ばれるものです。垂直離着陸できて狭いところを飛べて空中で停止というメリットがある一方で、プロペラを回し続ける力技で浮いているので飛行時間が短いなどのデメリットもあります。
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現状で最も普及しているマルチコプター型のドローン
これから増えると考えられるのが固定翼機(飛行機型)。大なり小なり滑走路が必要で、空中では停まれないけれど、墜落しないし長距離飛べる。さらに緊急時には滑空でき、急に墜落しにくいんです。
また、マルチコプターと固定翼機の両方の機能を持ったVTOLと呼ばれる可変型の機体もあります。
現状のドローンの用途に適したマルチコプター型は1社寡占状態でしたが、法改正によって他の機体にも利用可能性が広がります。競い合って技術開発がぐんと広がり、ドローン自体もこれまで以上に普及するのではないかと。
だからこそ実証実験の場を提供したかったんですよ。
――これだけの大きな土地をどうやって調達したんでしょうか?
「阿蘇ドローン手形BIZ」は阿蘇だから開設できたんです。
阿蘇には放牧地である「牧野」が広がっています。この広大な草原は観光資源でもあるんですが、牛馬の放牧の後継者不足や、農業形態の変化に伴って利用されなくなってきて、その維持が問題になっています。
そこで、放牧していない牧野の上空を借りようというのがこのフィールドなんです。ドローンなら上空を飛ばすことがほとんどなので景観も維持できます。
――牧野として使っていた土地だからお手洗いや私道といった環境も整備されているわけですね。
そうなんです。「阿蘇ドローン手形BIZ」で借りた牧野も放牧はしていないですが、草を刈り取って出荷しているので管理されています。こんなにドローン向きの条件って、あとは北海道などで探さないとないんじゃないでしょうか。
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トイレや駐車スペースは牧野の施設を活用している
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年内はプレオープン。2023年から本格始動する
過疎化が進む地元のために
――土地の所有者とどのように話をまとめてオープンしたのでしょうか?
牧野はエリアごとに組合が管理しているので、その組合に話を持ちかけて。今年5月に提案して、7月にはもうプレオープンできました。
ありがたいことに、牧野の方々が好意的で、やってみながら考えましょう、というテンションで始められました。
――スピーディーですね。
現在は月2回くらいイベントやテストでの利用がある程度なんですけどね。
牧野の組合長は、昔ラジコンが好きだったという方で、実際に牧野でドローンを飛ばす様子を見て「1台ほしい」といってくれたので、最近納品しましたよ(笑)。
――稲田さん自身が熊本出身だからこその着眼点だと思いますし、本当に他にないフィールドなんですね。
ちなみにフィールドの名前に使っている「手形」というのは熊本の黒川温泉の「入湯手形」(湯めぐりができる入湯券)が元ネタです。
2017年から南小国町の観光協会と共同で、「南小国ドローン手形」というドローンを飛ばせる場所を回れる観光コンテンツを運営していて。利用者はいろんな風景を撮れて楽しいし、町内を回って地元にお金を落としてもらうという狙いです。
これは500名以上の利用があって運営的に安定してきたので、ドローンの次のニーズに合わせて、企業利用を想定したフィールドを考えたんです。
――今後の展望は?
まだどうなっていくかわかりませんが、牧野側にとっては、プラスオンの収益になる“二毛作”なので、維持はし続けられると思っています。
ドローンの活用についても、地方の省力化に役立ってほしいというのが願いです。少子高齢化で地方でさまざまな環境を維持する労力ってえげつなくて!
これからその負担が減る要素もありませんよね。だから、IoTでもデジタル化でもドローンでも、使えるものは何でも使えるようにしていきたいです。
過疎地域では販売車による移動式スーパーですら撤退していたりするので、ドローンで輸送できれば一気に解決するというものでもないですが、テクノロジーは、進歩し普及していけばコストが下がっていき、多くの方が利便性を受け取れるようになるのが一般的です。ドローンもそうなっていけばいいなと思っています。
もともとガジェット好きでドローンの世界に飛び込んだので、ドローンにも地元にも一助になる事業を続けられればと考えています。
取材・文/宿無の翁
写真提供/稲田悠樹(コマンドディー)
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