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【恩師が証言】川崎フロンターレの育成哲学「ボールを扱う技術」「誠実な指導」が板倉、三笘、田中、久保を生んだ!<W杯日本代表に“川崎”出身が5人もいるのはなぜか?>

集英社オンライン / 2022年12月5日 18時7分

カタールW杯日本代表メンバー26人のうち、実に5人(権田修一、板倉滉、三笘薫、田中碧、久保建英)が“川崎”にルーツを持つ選手だった――。日本サッカー史においても特異なこの現象はなぜ起きたのか?(サムネイル、トップ画像:左から三笘薫、田中碧、板倉滉)

「早熟型」にはあえて指導しすぎない

カタールW杯日本代表メンバー26人のうち5人。“川崎”の選手の多さは際立っていた。

権田修一(33歳)と板倉滉(25歳)はともに川崎市宮前区にあるサッカー少年団さぎぬまSCの出身。権田はそこからFC東京のU-15に進むことになったが、板倉はあざみ野FCを経由して、川崎フロンターレのジュニア1期生に。三笘薫(25歳)、田中碧(24歳)、久保建英(21歳)もフロンターレの育成組織出身だ。



今回のW杯で、プロサッカー選手としてのルーツを川崎市に持つ選手が5人も選ばれたのには2つの理由がある。川崎市としての魅力と、川崎市に拠点を置くフロンターレの貢献だ。本記事ではフロンターレがどのような役割を果たしてきたのかを見ていく。


彼らに代表されるように、プロになる選手には大きく分けると以下のような2パターンがある。「早熟型」と「晩成型」だ。

例えば、「早熟型」である三笘と久保は、育成年代の指導者の誰が見ても「将来はプロになるだろう」と感じるほどの輝きを見せていた。それに対して、「晩成型」である板倉と田中は、「光るものはあったが、あとはどこまで成長してくれるのか」と見られていた。

フロンターレがすぐれていたのは、アカデミーのコーチ陣の柔軟な指導方針だった。2006年にU-12のコーチ、翌年にU-10の初代監督を務め、現在はU-15の監督を務める玉置晴一という育成指導のエキスパートに話を聞いた。

「薫などは、『順調に進めばプロになるな』と思えるほどのものを当時から備えていました。そういう選手の場合、例えば、『この場面ではこうしよう』と判断基準を決めつけてしまうと、彼らの持っているポテンシャルを小さくしてしまうこともありえます。

上の年代にいけば、守備や戦術など補うべき部分が出てきて、必然的にそれを鍛えることになります。だからこそ、下の年代では、彼らの持っている特長をどれだけ伸ばしてあげられるのかを常に心がけていました」

つまり、彼らのような選手には、あえて指導しすぎずに見守ってあげることが大きな意味を持つ。もちろん大前提となるのは、負けず嫌いな性格や「努力を努力と思わない」(三笘)というような向上心を彼らが備えていたところにある。

「晩成型」には個別指導塾のような細かい対応

対照的なのが、板倉や田中のような「晩成型」だ。彼らは小学生年代から抜きん出ていたわけではない。例えば、田中の場合は、同学年には高宇洋(現アルビレックス新潟)という中心選手が同じポジションにいて、当時は明らかな差があった。だからこそ、選手に応じた細かな対応の必要性を玉置は説く。

「『彼らがトップチームで活躍するためには、今後こうなっていくだろう』という未来像を描きながら指導しないといけない部分があります」

そう語る玉置は板倉のケースを例に挙げる。

「当時の彼は前線のポジションもやっていたので、シュート練習によく付き合っていましたが、同時によくやっていたのがヘディングの練習です。この先も身長が伸びると期待できるような体の成長を見せていたからです。背が伸びれば、彼のストロングポイントになるだろうとも考えていました。

当時のトップチームの方針としても、大型のボランチやセンターバックの選手を必要としていたので、そういうポジションで活躍する選手になるにはどうすればよいのかを念頭に置きながら彼と向き合っていました」

当時は体幹が弱い選手だった田中にも、それに合わせた指導をした。

「碧は『プロになれるかどうか』と思わせる部分はありながらも、当時からサッカーが本当に大好きで努力を惜しまない選手でした。また、試しにサイドバックをやらせると、自然と的確なカバーリングを見せ、危険を察知する能力も高かったのです。

彼とはサッカーの映像を一緒に見たり、いろいろな話をしたりするなかで、『勝負にこだわる大切さ』を何度も伝えました。というのも、当時から彼は適切なタイミングで相手からボールを奪いにいけていたのですが、線が細くて逆に倒されたりしていて。だから、『そこで勝てるようになるまでこだわろう』という話をしました」

小学生にしてすでに能力が高い子には、あえてのびのびとサッカーに取り組んでもらう。心技体のどれかが発展途上の子には、その子の可能性を見出だして後押しする。個別指導塾のような細かい対応が彼らの成長を支える礎となった。その上で大切にしたのが、異なる学年の子とボールを蹴る機会を提供することだった。

「年上の子は少し余裕を持つことができ、プレーの幅が広がって普段は気づかないことまで気づきますし、それが刺激となります。逆に、年下の子は同学年に通用するプレーが年上には通用しないと気づいて、『プレーのレベルをもっと上げないといけない』と感じてもらえます」

フロンターレの幹は“ボールを扱う技術”

これほどまでに意図を持った指導方針のあるフロンターレだが、コーチ陣には“ある共通の特質”がある。フロンターレのU-10からU-18 まで、すべてのカテゴリーにまたがる「地域担当コーチ兼スクールアドバイザー」を務める藤原隆詞に話を聞いた。

「板倉たちが(U-12の)1期生として入ってきたときに、私も指導者(スクール・普及コーチ)としてフロンターレに入った経緯もあり、当時から彼らのことを知る機会がありました。クラブが育成に一生懸命に取り組んでいるのは間違いないのですが、後付けで『自分たちが指導したからだ』という主張はいくらでもできますし、『彼らがうちのクラブにいたからプロになって活躍した』というような考えではいけないと思っています」

小学生年代の子どもたちと接するサッカー指導者の存在は、子どもたちの人間形成に大きな影響を与える。その尊い仕事に恥じぬよう、藤原は指導者としての研さんを積んできたという自負がある。“川崎”出身の選手たちの成長を自分たちだけの手柄にするようなことはしたくないと考えているからこそ、強調することがある。

「当時から、彼らの努力する能力は本当にすさまじいものがありました」

藤原だけが謙虚なのではない。前出の玉置も、板倉、三笘、田中という卒業生たちの成長について語るとき、必ず髙崎康嗣の名前を挙げるのだ。髙崎は2006年に設立したU-12 の初代監督であり、2022年シーズンにはJ3のテゲバジャーロ宮崎で指揮を執った人物だ。玉置はこう語る。

「下の年代ではボールをいかに扱うかというところから始めて、そこから一対一で負けないためにはどうしたらいいか、数的不利でも負けないためにはどうしたらいいか、というようなアプローチをしていきますが、クラブのベースや幹の部分は“ボールを扱う技術”です。そこはずっとブレません。髙崎さんはすごく細かいところまでこだわる方でしたが、その指導の成果は大きかったと思います」

魂と情熱を誠実に吹き込むコーチ陣

プロサッカー選手としてフロンターレと契約しながら、プロのピッチには1試合も立てないまま現役生活を終えた自身の経験を引き合いに出し、玉置は言う。

「プロとして何も残せず終わってしまった自分の経験から、いちばん強く感じたのがやはり“ボールを扱う技術”でした。選手の能力には、高さやスピードなどいろいろな要素がありますし、自分も少しは自信を持っていました。しかし、プロになってみて思い知らされたのです。それだけでは通用しないのだと。

だから、U-10の監督をやるにあたって、(小学生年代で体が大きかったり、足が速かったりして)『今がいいからOK』という考えではダメで、その先の年代でも困らないように指導しないといけないと誓いました。そして、もっとも伸びるこの年代で何をすべきかと考えました。

その答えが、ボールを扱う感覚やフィーリングを含めて、技術的な部分を伸ばすことでした。やはり、ボールの扱いにつまずいてしまうと、その先で学ばないといけない“判断”(相手の戦術や立ち位置を踏まえたうえで、最適な戦いをするための能力)を学ぶ領域に入っていけないですから」

田中を筆頭にフロンターレ出身の選手たちが評価されているのは、相手の戦い方を見て、自分たちがどうすれば相手にとって嫌なのかを考え、それを実行できる力だ。
例えば、田中はこれを「後出しじゃんけん」と表現する。

その力はフロンターレのトップチームで磨かれたものだが、育成組織では、その資質を磨くために欠かせない“ボールを扱う技術”を向上させるメニューに重点的に取り組んできた。それが今につながっているのだろう。これだけ多くの日本代表選手を輩出している事実は、フロンターレの育成組織にかかわってきた者たちの指導の正しさを証明している。

ただ、忘れてはいけないのは、彼らがピュアな子どもたちに信頼されるパーソナリティの持ち主だということ。もしも、子どもたちの成長を自分の手柄にするような人間であれば、子どもたちは離れていく。正しい指導方針という教科書があるとすれば、そこに魂と情熱を誠実に吹き込むのが彼ら指導者なのだ。

そういえば、板倉、三笘、田中、久保にいつもメディアが群れをなして取材している。その理由もまたそこにあるのだろう。彼らは日本代表の中核を担っているというだけでなく、人間性もまた評価されているのだ。
その人間性がどこからきたのか、それは言うまでもない。

取材&文/ミムラユウスケ 写真/Getty Images

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