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AIが難しい日本酒やフレグランス選びをサポート。“香り“を言語化する「KAORIUM」を体験してみた

集英社オンライン / 2022年12月7日 15時1分

世の中にはさまざまな「ニオイ」が存在するが、それを「言葉」にできたら、日本酒やフレグランスを購入するときにきっと役立つはずだ。テクノロジーが発達した今、そんなサービスが実際に存在する。香りの言語化サービス「KAORIUM」の開発・提供を手掛けるSCENTMATIC株式会社に伺い、実際に体験してみた。

「嗅覚×テクノロジー」の注目サービス

視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚。人間の生活を支えるこれらの感覚を「五感」と呼ぶ。視覚や聴覚に関しては古くから研究がなされ、さまざまなプロダクトやサービスが生み出されてきた。

一方、五感の中でもっとも謎めいていたのが嗅覚、すなわち「ニオイを感じる」感覚である。我々にとって極めて重要な機能であるにも関わらず、そのメカニズムは長く解明されなかった。ニオイを感じる器官である嗅覚受容体の存在が発見され、ノーベル賞が授与されたのは21世紀に入ってからというから驚きだ。



そんな嗅覚とテクノロジーを組み合わせ、新しい体験を提供するサービス「KAORIUM」(カオリウム)が注目を集めている。

KAORIUMとは、いったいどんなサービスなのか。開発・提供を手掛けるSCENTMATIC(セントマティック)株式会社の代表取締役・栗栖俊治さんに、詳しい話を聞いた。

香りのAIシステム「KAORIUM」の開発を手掛けるSCENTMATIC株式会社

ポジティブな時間をつくり、生活を豊かにしたい

栗栖さんは、かつてNTTドコモでサービスの企画開発を行っていた人物だ。「しゃべってコンシェル」や「イマドコサーチ」といった同社の大規模なサービス開発に携わった後、シリコンバレーへ赴任。帰国後、仲間とともにセントマティックを起業した。2018年のことである。

栗栖代表は、なぜ「香り」に着目したのか。

「社会課題を解決するのも大事ですが、私はそこから先のポジティブな時間をつくることが、生活を豊かにするうえで重要だと思いました」

生きていくうえで絶対に必要というわけではないが、あると生活がもっと豊かになる––そんなサービスを作りたいと考えた末、栗栖代表が辿り着いたテーマが「香り」だった。

SCENTMATIC株式会社の代表取締役・栗栖俊治さん

ところが、ここで思わぬ壁が立ちはだかった。

「香りをテーマに起業したスタートアップは過去にいくつもありました。しかし、そのほとんどが上手くいかず、事業を継続できていなかったのです」

香りに関するビジネスがことごとく失敗に終わった最大の理由は、「日本国内にマーケットニーズがなかったこと」。ニーズありきで生まれる社会課題解決型サービスと違って、香り系サービスのように「なくても生活自体は困らないもの」を広めるには、ニーズを掘り起こすところから始める必要がある。

この難題に栗栖代表の出した答えが、KAORIUMである。

これまでになかった「香りと言葉の融合体験」

KAORIUMを一言で表すと「香りと言葉の融合体験」となる。新しい概念だけに、少し解説が必要だ。

栗栖代表によると、五感は「言葉」と結びつくことで体験を拡張できるという。たとえば、視覚と言葉を組み合わせたものが「漫画」であり、聴覚と言葉を組み合わせたものが「歌」である。視覚や聴覚は情動的な感覚だが、そこに言葉が加わることでまったく違う感覚や体験が生まれるわけだ。

では、香りはどうだろうか。

香水のように香りそのものを楽しむプロダクトは以前から存在したが、香りと言葉を融合した「体験」はほとんど見られなかった。その理由には、冒頭で説明したように嗅覚のメカニズムがそもそも解明されていなかったこともあるだろう。

しかし、現在では嗅覚の研究も進み、さまざまな香り成分も明らかになってきた。たとえば、昔から「ラベンダーの香りにはリラックス効果がある」といわれてきたが、ラベンダーに含まれるリナロールという成分がその効果をもたらしていたと判明したのは2018年頃のこと。人間の感覚に、ようやくサイエンスが追いついてきたのである。

香りと言葉を結びつける、香りの言語化AI「KAORIUM」のコンセプトイメージ(写真提供/SCENTMATIC株式会社)

加えて、日本のフレグランス市場の拡大も追い風となった。世界に比べると日本における香りのマーケットはまだまだ小規模だが、その成長率は毎年5%増とかなりのもの。特に2008年に発売された香りのする柔軟剤「Downy(ダウニー)」がゲームチェンジャーになったと、栗栖さんは分析する。

香りの研究が進み、日本にもマーケットニーズが少しずつ生まれ始めたことが、KAORIUM誕生の背景となったのである。

香りがビジネスにもたらす可能性とは?

実際にKAORIUMを体験した。

KAORIUMは、ユーザーが好む香りを言語化したうえで、その人の好みに合いそうな別の香りを提案してくれるプロダクトである。

まず、ユーザーは用意された香りを嗅ぎ、その中から気に入ったものを3種類選ぶ。すると、選んだ香りに付随するイメージを表した言葉――「さわやか」「リラックス」「華やかな」など――がいくつも表示されるので、そこからしっくりくる言葉を選択する。すると、選んだ言葉をもとにKAORIUMが別の香りをいくつか提案してくれるので、再び好きなものを選ぶ。

KAORIUMのコンセプトモデルでサービスを体験。香りを嗅ぎ、自分のイメージに沿う言葉をチョイスしていく

この流れを何度か繰り返すことで、無数にある香りの中から自分の好みにぴったり合うものを探し出せたり、自分の好きな香りがどんな言葉で表現できるのかを知れたりするわけだ。

ポイントとなるのは、香りに付随する言葉をどうやって決めているのかということ。香りに対するイメージは人それぞれ異なるだけに、誰もがしっくりくる表現を選ぶのは難しい。

KAORIUMは、この部分にAIを活用している。AIがインターネット上に存在する膨大な量の言語表現を学習し、香りのイメージを的確に言語化するのだ。

KAORIUMが生み出した「香りの言語化」と「言語をもとに香りを選ぶ」という体験は、今後さまざまなビジネスやサービスを変革するポテンシャルを秘めている。

たとえば、商品企画やマーケティングへの活用だ。KAORIUMがあれば多くの人が自分自身の好む香りについて言語化できるようになる。それにより、香水や洗剤など香りを活用した商品の開発やマーケティングの質は飛躍的に高まるだろう。

現在KAORIUMは、日本酒やチョコレートなど、香りが重要な飲食物をユーザーが選ぶフォローにも活用されている。たとえばレストランや居酒屋、小売店におけるお酒選びをサポートするツール「KAORIUM for Sake」は、利酒師やソムリエがいるような接客体験を可能にしている。

「日本酒ソムリエ」としての活用が進む「KAORIUM for Sake」。日本酒を提供する居酒屋への導入だけでなく、スーパーマーケットチェーン・紀ノ国屋での実証実験も行われた(写真提供/SCENTMATIC株式会社)

ルミネ新宿 ルミネ1にある香水のセレクトショップ「NOSE SHOP」のブランドショップ「KO-GU(コーグ)」では、KAORIUMを使ったフレグランス選びが体験できる(写真提供/SCENTMATIC株式会社)

また教育分野では、「生活科」向けの新しいプログラムとして「カオリウム実験室」を開発中だ。香りを言語化することで、子どもたちの嗅覚の解像度を高め、五感の活性化につながるという。

この他にも、KAORIUMを活用したいくつものプロジェクトが進行中だ。KAORIUMによる“香りの言語化”が世の中にどんな影響を与えるのか。今後の展開に期待したい。

五感力を高める感性教育プログラムとして、小学校低学年「生活科」向けに開催された「カオリウム実験教室」(写真提供/SCENTMATIC株式会社)

取材・文/山田井ユウキ

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