ビスブラが明かすキングオブコント2022優勝の核心「キーワードはスピードでした。スピードはキモさを笑いに変えるんです」
集英社オンライン / 2022年12月10日 11時1分
キングオブコント2022で大会史上最高得点(481点)をたたき出した、ビスケットブラザーズの『野犬』。実はこのネタ、おろした当時は観客から悲鳴が上がるなど、さほどウケはよくなかったという。彼らはこのネタをいかにブラッシュアップしていったのか。
「ツッコミの子、演技下手やからな」ってよく言われてました
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ツッコミのきん(左)とボケの原田泰雅(右)
――決勝2本目の『ぴったり』というネタも、1本目の『野犬』に勝るとも劣らない大爆笑を起こしていました。ファーストラウンドは1位通過だったので、ファイナルステージでは最後の登場となりましたが、まさにウイニングランのようでした。
原田 あれは今年作った新ネタだったんですけど、さらば青春の光の森田(哲也)さんにも「どえらいネタを作ったもんやな」と褒めていただきました。「見たことないネタや」って。
――ある男が好きな女性と付き合うために女装して、まずは女友達として近づくんですよね。狂気じみていながらも、男性の必死さがひしひしと伝わってきて、おかしいような、心温まるような感じになる。
きん そこの塩梅が難しいんですよね。単なる嫌がらせみたいに見られたら、笑いは起きないんで。
原田 男の方に愛がないとダメなんです。
――真っすぐな純愛物語を見ているような気持ちになりました。『野犬』も『ぴったり』も、ある意味、これだけ荒唐無稽なネタで客の心をつかむということは、構成もそうですが、やっぱり二人の演技力の賜物だという気がします。
原田 ただ、僕らの演技はリアル演技ではないんです。かなりデフォルメしているというか、アニメキャラ系の演技ですね。
――審査員長の松本(人志)さんも番組の最後に「これからは演技力も必要な時代になってきた」と総括していましたもんね。
きん でも、あの言葉自体は、僕らに向けては言ってないと思いますね。むしろ、コットンとかに対して言ってたんちゃいますか。
原田 僕らに演技力があるなんて、誰も思ってないと思います。
――確かに一見、うまそうには見えないんですけど、よくよく見ると、うまいよなって思わせる。
きん 僕は昔、「ツッコミの子、演技下手やからな」ってよく言われてました。
原田 ちょっと緩いというか、ヘタウマな感じもあって。僕は悪いとは思ってなかったんですけどね。僕がもともと役者志望だったというのもあって、ブリブリに演技するものだから、きんが余計に目立っちゃったんですよね。
きん でも、9年ぐらい前かな、僕ら二人で吉本のお芝居に出たんですよ。若手で、本気になってお芝居をやってみようみたいなプロジェクトがあって。『天使は瞳を閉じて』という鴻上尚史先生の2時間半ぐらいの作品でした。二ヶ月くらいほぼ毎日、プロの演出家の人に演技指導してもらったんです。あれで変わりましたね。
原田 僕も変わったと思いますね。ほぼゼロの状態だったんで、そっから60とか70ぐらいのレベルには結構、すぐ到達できるじゃないですか。そこから上となると、また大変だと思うんですけど。
今大会のキーワードは「スピード」だった
――『ぴったり』もネタ下ろししたときからずっと手応えはよかったのですか。
きん あのネタは最初、単独ライブで下したんですけど、悲鳴というか、「うわ〜」ってホラー映画を観ているときのようなリアクションが返ってきて。
原田 単独のときは、女物の衣装を脱ぐとき、ゆっくり脱いだんですよね。それで中から男が出てきたら、ヒャ〜ってなった。だから、ヒャ〜って言わせへんスピードに変えたんです。パパパパパパッと着替えた。そうしたら、「エッ? エッ?」っていう感じで、めっちゃウケだしたんですよね。
——確かにゆっくり脱がれたら、ちょっと怖い気がします。
原田 結局、今大会のビスケットブラザーズのキーワードはスピードでしたね。『野犬』も『ぴったり』も。スピードを上げたことで笑いになった。コントにおいてスピード感って大事なんやと思いましたね。キモいもの、怖いものが中和されるというか。
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「『野犬』の肝はスピードやぞと。それで舞台のそでから最速で登場するようにしたら、またウケるようになった」と原田は語る。
——2本目の点が出る前の心境はいかがでしたか?
原田 僕らのネタって、絶対好き嫌いが分かれるんですよ。1本目はそれがいい方に出た。ただ、1本目と2本目はまた種類の全然違うネタなんで、そこはどうなんやろ? という感じでしたね
――おふたりは昔、「何がおもしろいかわからん」とよく言われたそうですね。
原田 今も言われますよ。
きん バトル形式のイベントで審査員を務める作家さんから「設定から変過ぎる。普通から変になるならええけど、変から変はわからん」って、めちゃめちゃ言われましたね。だから、僕らなりに試行錯誤したんですけど、やっぱりウケないんですよ。
原田 学生とか、サラリーマンとか、野球部のバッテリーとか、普通の設定のものもやったんですけど、マジでウケない。二人とも太ってて、見た目がちょっとアニメキャラみたいじゃないですか。こんなバッテリーおらんわって思われちゃう。お客さんが感情移入できないんだと思います。
きん 緊張と緩和やと思って、まずは緊張させるシーンをつくろうとしても緊張が生まれない。
原田 僕らが普通の恰好をして、いくら真剣にしゃべってても誰も緊張してくれないんですよ。むしろ、余計にコミカルになる。見た目の緊張感がなさ過ぎて。
きん おそらくちょっと変な設定の方が、僕らは収まりがいいんですよ。お客さんのウケる方、ウケる方を探っていったら、自然とそっちに伸びていった感じはしますね。
優勝した瞬間、ビンタが飛んできて
――最終的に2本目は1本目を1点上回る482点で、トータルでは2位に19点差を付けての完勝でした。優勝が決まった瞬間、どんな思いが過りましたか。
原田 審査員の方々の点数が出るたびに「山内(健司)さん、ありがとうございます」「秋山(竜次)さん、ありがとうございます」「小峠(英二)さん、ありがとうございます」「飯塚(悟志)さん、ありがとうございます」「松本さん、ありがとうございます」と。
お笑い始めたときからキングオブコントは獲れると思い続けてやってきたので、やっとやという思いがこみ上げてきて。ここで泣いたらあかんな、なんか言わなあかんなと思っていたら、いきなりビンタが飛んできました。
――事務所の先輩でもある司会の浜田(雅功)さんのビンタですよね。おそらく優勝が決まって、10秒も間がなかったと思います。
きん 僕は感慨にひたりながら、ああ、そんな人生なんや、って。自分の人生で優勝するなんてことあんねや、って。そう思ってたら、原田の方から水しぶきが飛んできて「なんで水?」と。そしたら原田の汗でした。ビンタで、汗が飛び散ったんです。
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「浜田さんのビンタの感慨は、吉本の芸人じゃないとわからない」と語るきん
――それにしても、強烈なビンタでしたよね。あれは、何なのでしょう?
きん 副賞です。
原田 ご祝儀ですね。すごい音したなと思って。え、自分から出た音? みたいな。それぐらい唐突でしたけど。
――痛くはなかったのですか。
原田 痛くはなかったですね。むしろ、嬉しいぐらいで。あれで初めて「ああ、優勝したんやな……」と込み上げてきましたから。
きん この感覚、吉本の芸人じゃないとわからないかもしれないですね。
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取材・文/中村計 撮影/村上庄吾
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