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「子供が最優先」をやめたら親ではないが、すべて「子供が最優先」にしても親にはあらず…比叡山大阿闍梨の育児アドバイス

集英社オンライン / 2022年12月9日 12時1分

約1000日間、比叡山の山中などを祈りながら歩き続け、9日間断食・断水・不眠・不臥で不動真言10万回を唱える「堂入り」など、過酷さで知られる千日回峰行を達成した光永圓道さん。幾多の苦行を達成した僧侶に、一般市民が抱える悩みをぶつけてみた。

「仕事と5歳と3歳の子供のお迎えで疲れ切ってます……」

36歳女性(東京)百貨店勤務・Aさんの悩み
夫と共働きで5歳と3歳の子供を育てています。お互いフルタイムで働いているため、平日は9割、保育園の送り迎えを私がしています。子供たちに大きな病気はないものの、発熱で保育園から仕事中に電話がかかってくることも多く、ごはんも好き嫌いが多くてなかなか思うように食べてくれません。下の子は3歳になった今でも夜泣きするので、私も睡眠不足です。


夫の会社は「育休」制度はあるものの、なかなか取れるような雰囲気ではないそうで、平日はほぼ毎日23~24時の帰宅です。お互いに地方出身ということで、すぐに親に来てもらうわけにもいかず、近所で頼れる人もおらず、思うようにいかない毎日を送っています。どうすればいいでしょうか?

問題を分解して考える

仏教はお釈迦さまに発しましたが、長い歴史の蓄積によって諸仏(しょぶつ/たくさんの如来や菩薩、明王や天部といった存在)という考え方が錬り上げられました。たとえば、千日回峰行の行者を護って下さるのは不動明王ですが、根本をたどればお不動さんの正体は、大日如来です。お不動さんだけでなく、諸仏はすべて大日如来が姿を変えて現れたものだと考えられています。

すべての正体が大日如来なのであれば、なぜ諸仏という存在が必要とされるのでしょうか。大日如来が宇宙の中心なのであれば、大日如来だけを崇敬すれば「どんな問題も一挙に解決する」と考えるかたもいらっしゃるかもしれません。

けれど、現実はそれほど単純ではありません。大日如来に人智や万物を超越したお力があったとしても、私たち人間には、そのお力をひとりで一挙に受け止め切るほどの器はないからです。

「どんな問題も一挙に解決すること」ができないからこそ、私たち人間は数千年にわたって「大きな問題」を細かく切り分け、それぞれ順番に対処することで、歴史を紡いできました。あなたのお悩みについても、同じように考えてみては如何でしょうか。

寄せていただいた文面では、あなたが「担当している作業」と「ストレスを感じている事柄」が、ごちゃまぜの状態で、大きなひとつの塊になってしまっているように思われます。
どんな偉大な人物であっても、スイカを丸呑みすることはできません。まずは問題を切り分けることから始めましょう。

自分がしている作業を明確化する

【あなたが担当している作業】
① 平日、保育園の送り迎えの9割を担当している。

【あなたがストレスを感じている事柄】
① 子供がしばしば発熱し、保育園から電話がかかってくる。
② 食事の好き嫌いが多く、なかなか思うように食べてくれない。
③ 夜泣きが酷くて、睡眠不足。
④ 旦那さんが育休を取得しようとしない。
⑤ 旦那さんの平日の帰宅時刻が遅い。
⑥ 互いの両親がともに地方在住のため、呼ぶわけにいかない。
⑦ 近所で頼れる人がいない。

こうして切り分けてみると、あなたは「自分が担当なさっている作業」を、ひとつしか記しておりません。
ですから、この先は私の想像になってしまいますが、さしあたって「ストレスを感じている事柄」を、「あなたが担当している作業」に変換してみましょう。

④(旦那さんが育休を取得しようとしない)、⑥(互いの両親が地方在住)、⑦(近所で頼れる人がいない)は作業ではありませんので、いったん外します。

【ストレスを感じている事柄 → ストレスを生じさせている作業】
① 保育園からの電話で、仕事が中断される(あなたが電話を担当)。
② あなたが料理を作り、食べさせているが、子供たちの好き嫌いが多い。
③ あなたが子供たちと一緒に寝ている。あるいは、夜泣きするたびに、あなたが世話をしている。
④ 旦那さんの平日の帰宅時刻が遅い(保育園から引き取り、寝かしつけまで、あなたが担当)

この変換によって、あなたが担当なさっている作業が明確化されました。

① 平日、保育園へ子供を送る。
② 平日、保育園から子供を引き取る。
③ 日中に保育園からの電話を受ける。
④ 平日、子供に料理を作る(推定)。
⑤ 平日、子供に料理を食べさせる。
⑥ 子供をお風呂に入れる(推定)。
⑦ 子供と一緒に寝る(推定)。
⑧ 子供の夜泣きに対応する。

夫婦の話し合いに必要な「覚悟」

こうして整理すると、毎日、たくさんの作業を担当なさっていらっしゃいますね。大変なことと思います。トイレやお風呂などの掃除、洗濯については言及がありませんが、これらもあなたがなさっているのでしょうか。もし、そうであるなら――平日の保育園への送りは旦那さんにお願いするなど――ご夫婦の間で作業分担のバランスを調整したほうがよいでしょう。

そのお話し合いをなさる際、ひとつだけ「注意」していただきたいことがあります。
これは「注意」というよりも、「覚悟」と申し上げるべきでしょうか。

たとえば、「平日の料理」を旦那さんにお願いするとしましょう。旦那さんは「食事時に帰宅できない」ことを理由に、担当を拒むかもしれません。そのときには「ならば、冷凍食品の幼児食で構わないので、毎日のメニューを決めて、あらかじめ自分で買って、日付を書いて冷凍庫に入れておいてほしい」と求めてみて下さい。

毎晩の夕食が冷凍食品ではお金もかかりますし、ひょっとすると栄養も偏ってしまうかもしれません。けれど、旦那さんとの関係(パワーバランス)を修正するには、どこかの点で家庭や我が子に負担がかかってしまうことは避けられないのです。

旦那さんに子供の夜泣き対応をさせるのであれば、あなたは居間に布団を敷くなどして、別室で寝るという方法もあります。あるいは夜ではなく、朝に(旦那さんに)子供をお風呂に入れてもらうようにする。

いつでも「子供が最優先」をやめられるか

保育園に登録する電話番号も、旦那さんのものに変えてしまえば、あなたの仕事は中断させられません。代わりに、旦那さんの仕事が中断されますが、それもやむなしです。もし、旦那さんが電話を取らない場合は、保育園から苦情がきたり、最悪の場合は退園となってしまいますが、あなたにとって「日中の保育園からの電話」が本当に耐えがたいストレスの元であるなら、この点については「子供が最優先」をやめてしまうことを考えても間違いではありません。

どこまでの項目で、「子供が最優先」をやめられるか。

すべての項目で「子供が最優先」をやめてしまうなら、おふたりは、もはや親御さんではございません。同時に、すべての点で「子供が最優先」でも、親御さんとは申し上げられないでしょう。子供に「ままならない現実」を教えるのもまた、親御さんの務めであるはずだからです。

ままならない現実に即して、何を諦めるのか。その諦める水準が一致したとき、ご夫婦、ご家庭の円満は、すぐそこまできています。

取材・文/山田傘 写真/黒石あみ

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