「日本で見られる映画の数は“大きな海原を小窓から覗いている”ようなものでして、莫大な作品のなかからセレクトされたものにすぎないんです」
そう語ってくれたのは、東京の新宿に店を構え、レア度の高い映画の輸入ソフトを専門に扱っているDVD&Blu-ray販売店「ビデオマーケット」の店主・涌井次郎さんだ。今回は思わず“ジャケ買いしたくなる日本未公開映画”を5作品リコメンドしてもらった。
エロスホラーや謎解き、幻の怪獣映画まで! マニアックな海外輸入映画専門店が教える「ジャケ買いしたくなる」日本未公開映画ベスト5
集英社オンライン / 2022年12月15日 14時1分
超低クオリティの自主制作映画から、インテリアになるくらいおしゃれなジャケットの映画まで……。海外輸入映画専門店の店主に、思わずジャケ買いしたくなる“日本未公開映画”を5つ厳選してもらった。
【インパクトが凄すぎるジャケの映画】
『Fuck the Devil + Fuck the Devil 2』
まずは、タイトルからして破天荒な香りがプンプンとしている映画『Fuck the Devil + Fuck the Devil 2』(1990年公開)という作品から解説していただこう。
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血というよりも床にペンキをこぼしただけに見えるジャケット……
「本作は、当時10代だったドイツの素人青年が撮った30分ほどの短編が2本セットになった作品です。ストーリーは呪いのビデオを見た殺人鬼が死霊に取り憑かれ、人々を惨殺していくというホラーお決まりのもの。続編のほうも前作で死んだはずの殺人鬼が蘇るという、これまたありきたりなストーリーになっています。
本作の見所はその圧倒的なチープさ。特に犠牲者の首を巨大なハサミで切断するシーンは必見。なにせアマチュア、リアルさを追求するほどの予算も技術もないので当然ダミーの首を切り落とすのですが、マネキンなので笑顔のまんま不気味に床へと落ちたりしています。こんなチープな映像が30年以上の時を経て市場に流通した事実に、ある種の感動を覚えました。
ジャケも強烈ですよね。これは劇中に登場する殺人鬼のもげ落ちてしまった生首を写したものです。それを床に置いて、さしたる工夫もなく撮っている乱暴さが、一周回って猟奇的な雰囲気を醸し出し、作為ではたどり着けない本作ならではの“安っぽい凄み”になっていますね」
【ポスターとして飾ってもOKなジャケの映画】
『The Monster Of Camp Sunshine』
次に紹介してもらったのは、『The Monster Of Camp Sunshine』(1964年公開)という映画。
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殺人モンスターおじさん・ヒューゴのマスクは1.98ドルで購入可能だった模様
「こちらはニューヨークの名もなきアマチュア監督が撮影した作品のようですが、実のところあまり情報が残っておらず、その背景は謎に包まれています。本作が公開された1960年代中期のアメリカでは、ヌーディスト映画といって、トップレスの女性が取りとめもなく登場する、ゆるーいポルノ未満映画が粗製乱造されていました。
本作もそのジャンルの作品……なのですが、なんと後半になって突如殺人モンスターおじさん・ヒューゴが暴れまわるホラー映画へと変貌します。クライマックスには軍隊も登場するのですが、予算がないので資料映像で補っており、それゆえ劇中の昼夜がカットごとに変わったりと衝撃的です。……まぁ、それさえも味になっておりますが。
ジャケットもなかなか衝撃なもので、ヒューゴの顔を模したマスクの広告風デザインになっています。これはさすがにフェイク広告だとは思いますが、裏面にもホラー系の通販商品が掲載されているので、もしかしたら当時の広告をただ貼り付けただけの可能性もありますね。そう考えると別の意味で恐ろしいです」
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あらすじすらなく、当時の広告をただ貼り付けている(?)斬新すぎるデザイン
【インテリアにもなるおしゃれなジャケの映画】
『AWAKEN』
ここからは、部屋に置いておくだけでインテリアになりそうな、センスのいいおしゃれなジャケの映画をリコメンドしてもらおう。まずは『AWAKEN』(2018年公開)という作品から。
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圧倒的映像美で見せる“究極の環境映画”
「本作は、世界30カ国以上で、雄大な自然や街並み、人々の様子を5年以上の歳月をかけて超高画質カメラで撮影した、圧倒的な映像美で見せるセリフなしのドキュメンタリー映画です。本作は熱狂的なファンを生み、カルト映画となった1982年公開の傑作ドキュメンタリー映画『コヤニスカッツィ/平衡を失った世界』の、台詞なし&圧倒的映像美というスタイルを踏襲しているだけでなく、同作の監督が製作総指揮に名を連ねており、まさに“現代のコヤニスカッツィ”とでもいうべき作品。
一見、電気屋の店頭で流れている環境映像のようですが、人為的には作りえない圧倒的なドラマ性すら感じさせるその美しさには、地球や人間ってそれだけで奇跡なんだと、有無を言わさず感動させられます。ジャケットも見る角度によってバレエダンサーが5段階に動く仕様になっており、非常におしゃれです」
【レトロなインテリアとしても使えるジャケの映画】
『Abrakadabra』
次もおしゃれなジャケが映える『Abrakadabra』(2018年公開)という作品。
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70年代のおしゃれで怪しい空気が満ちたジャケット
「70年代にイタリアで流行り、当時日本でも何本か公開されたスリラー映画のジャンルに“ジャーロ”というものがあります。これは簡単に言うと、“謎解き要素に猟奇的な描写とエロスを混ぜた映画”を指すのですが、独特なキッチュさと妖艶さに満ちており、今でも熱狂的なファンが多いジャンルです。
本作は、そんなジャーロ映画の空気を現代に完全再現した異色作。事故死した天才マジシャンを父に持つ男の周りで起きる怪死事件に隠された真相が、徐々に明かされるストーリーとなっているのですが、役者のファッションから身振り、映像の質感にインテリアと70年代の空気を完全再現した演出で彩られています。
ジャケットには、当時の古いポスターを四つ折りにしたようなしわまで付けるこだわりぶりで、非常にシャレていますよ」
【映画通と思われるジャケの映画】
『Space Monster Wangmagwi』
最後に紹介するのは、涌井さんが「持っているだけで映画通と名乗れる!」と太鼓判を押してくれた作品『Space Monster Wangmagwi』(1967年公開)だ。
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純韓国産の超珍しい怪獣映画
「本作は、別名を『宇宙怪獣ワンマグィ』という、日本でも一部の怪獣マニアくらいしか知らない“幻の映画”です。というのも、純韓国産の怪獣映画である本作は、長らくそのフィルムが失われていたと思われていた作品で、近年になってなんと奇跡的にフィルムが発掘されたのです。全世界のごく少数のファンが心待ちにしていた本作は、来年に輸入盤が発売されるので、実のところ私もまだ見ていないのですが(笑)。
話自体は宇宙人が地球侵略のために、巨大ゴリラのような怪獣を使って暴れまわるストーリーのようです。本作が家にあれば、まず間違いなく映画通と思われる……いや、マニアックすぎて反応してもらえないかもしれませんね(笑)」
取材・文/TND幽介/A4studio
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