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「他にお金を稼ぐ術がないから」東出昌大が人の注目を集める “俳優”を手放さない理由

集英社オンライン / 2022年12月23日 13時1分

現在は北関東の山奥で狩猟をして暮らし、撮影があれば山を降りる日々を送る東出昌大。山での暮らしぶりと、主演映画『とべない風船』で改めて感じた、演じることの苦しみと喜びについて聞いた。

今は、生きていると感じる

──東出さんは現在、撮影以外は狩猟をして生活されているとか?

はい。北関東の田舎で生活することで、東京では体験できなかった空の色の美しさや、水の冷たさ、陽の暑さ……、そういうことを感じる日々です。今は、生きてるって感じます。

野生動物をどうやって獲ろうか考えると、彼らと同じ目線で生きようと思うようになるんです。野生動物は、食べること、食べられないようにすること、そして生殖行為。この3つだけ念頭に置いて生きています。それでも10何年の寿命を、身ひとつで自然の中で生きているわけで。



それを思うと、人間はなんて非力なんだろうと思います。

──山での暮らしで戸惑うことは?

元々アウトドアが好きだったので、自然の中に身を置くことに不自由さはあまりなく。その代わり、ご飯を炊くために薪を割ったり、薪を割るためには薪が乾いていなければいけなかったり、生きるためにやらなければいけないことも多い。

薪を割ると、テッポウムシというカミキリムシの幼虫が出てくるんですけど、山に暮らす子供たちは、昔おやつにしていたらしいんです。それをちょっと食べてみて「すげえうまい!」と知ったり。

肉がなくなったら獲りに行くし、今は小屋をとにかく建てたいと思っていて。生きるために必要な作業と、それに付随する知識を、1日ひとつ、身につけられればいいなと思いながら生活しています。

──特に身につけたいことは?

自信を持ってきのこを採れるようになりたいですね。地面から生えているきのこは毒が多いからあまり食べないんですけど、この前、狩猟の師匠のところに持っていって「これ、食べられますかね」と聞いたんです。

そしたら「俺は食わない。でも食ってみろ。でっくん(東出さん)が明日生きていたら、俺も食うから」って(笑)。
怖くなって山にぶちまけました。そんな生活です。

──山での生活と、映画の撮影現場とのギャップに戸惑うことは?

ないですね。昔も公園とかにいってぶつくさ言いながらセリフを覚えていましたけど、その作業が、今では畑仕事や小屋を建てることに変わったくらい。

そばに台本を置いてセリフを覚えるのですが、テレビや雑音がないから、役者の生活にはすごく向いている日常だと思います。

──映画を見る機会はあるんですか?

ありますよ。たまに東京に仕事で来たときも、ちょっと時間を遅らせて映画を見てから帰ることもありますし。あと、住んでいる山の近くのキャンプ場でWi-Fiを拾えるんで、タブレットで見ることもあります。

最近だとぴあフィルムフェスティバルでグランプリを受賞した自主映画『J005311』(2022)を見ました。お芝居がすごくよかったです。面白いので、ぜひ見てみてください。

“わからない”苦しみは減ってきた

──俳優としてのキャリアをスタートさせた当初、東出さんは「お芝居は楽しいものではない」とおっしゃっていたのが印象的でした。今はいかがですか?

昔はわからないことが多すぎて、頭でっかちでしたからね。いつの間にか、世間からの耳目をいっぱい集めていて、「自分はそんなに注目される人物なんだろうか?」と悩むこともありました。

でも今は、純粋に作品に向き合えるようになったし、多分、お芝居というものがちょっとずつわかってきたから、“わからない”苦しみは減ってきた気がします。

監督とすぐに共通認識が取れるようになってきたし、監督が見たいものが、ちょっとずつ表現できるようになってきたかもしれないです。

──主演映画『とべない風船』はもちろん、東出さんはこれまでも、思い悩む役を演じることが多かった気がします。

しんどい芝居をやらせても悪くないぞ、という評価が続いたときに、『草の響き』(2021)『天上の花』(2022)『とべない風船』(2022)という3作が続いたと思うんです。

そういう芝居を求められて呼ばれた現場だったら、最善を尽くすしかない。いただいた仕事を、手を抜かずに臨むだけですね。

例えるならば、フィンをつけて潜る感じ。お芝居を始めた最初の頃は、いろんな準備をしていざ潜るぞって思っても、息が続かず10mくらいしか潜れなくて、苦しくて。

でも最近は、心構えはしつつも、準備はほどほどに。心の平静を保ったまま芝居に臨めるようになった気がします。事前にあたふたしなくなったから楽に潜れるようになったし、1作品ごとに、潜れる深さが増しているというか。

もちろん、今も深く潜ることはしんどいし、息が続かなくなることもあるけれど、限界まで潜りたいなと思っています。

──今のタイミングで『とべない風船』に出会ったこと、そして、そのことで救われたことはありましたか?

この映画の組の方たちはみんな優しくて、その優しさに包まれる日々に幸せを感じました。

最終日に、ものすごい雨降らしのシーンがあったんです。撮影が終わった頃に、衣装部さんとメイク部さんに「大丈夫?」と聞かれて、「大丈夫、大丈夫」って返したんです。そしたら「今後、大丈夫じゃないのに大丈夫と言うのはやめなさい。大変なときは人に頼るの!」と怒られて。

久々に説教食らったなって思いました(笑)。でも、すごく人間らしくて、温かい説教。うれしかったです。

「メンズノンノ」モデル時代から変わっていない

──ずっとお芝居を続けたいと思いますか?

わからんです。というのは、人生は何が起こるか、本当にわからないから。あまり先のことを期待しないし、設計もしない。ちょっと今は、川の流れに身を任せる数年間になるんじゃないかなと思います。

──ここ数年で東出さんを取り巻く環境は大きく変わったと思います。それでも、注目を集める俳優というお仕事を手放さなかったのはなぜでしょう?

他にお金を稼ぐ術がないから。うん、そうですね。「芸能界引退か?」とか言われることもあったけど、芸能界っていう世界に、いつ入ったかもわからんのです。

高校生のときにモデルになったけど、白黒ページばかり出ていたあのころが芸能界デビューだったのか。映画に初めて出演した『桐島、部活やめるってよ』(2012)の公開日が芸能界デビューなのか。

仕事がこなくなったら自然と消滅する世界だし、引退宣言をするつもりもない。それだけですかね。

──「メンズノンノ」モデル時代のことは、覚えていますか?

思い出しますよ。専属モデルになったとき、当時の編集長から「とにかく大学は行きなさい。芸能界で成功するなんて、天文学的数字なんだから」って言われたことを覚えています。

「天文学的数字」という語感の重厚さに、高校生の僕はあわあわしました(笑)。

でも、そのころから僕は多分、あまり変わっていない。ずっとどこか抜けているし、夢中になると突っ走ってしまうから。

──今、夢中なものとは?

やっぱりお芝居になるのかな。次に撮影する作品に関しても、「どうやったら面白い芝居ができるだろう?」と考える時間は没頭できますから。

楽しいかって言われると……少し違いますけどね(笑)。


取材・文/松山梢 撮影/nae. スタイリスト/檜垣健太郎 (tsujimanagement)

東出昌大
1988年埼玉県出身。2012年に『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビューし、第36回日本アカデミー賞新人俳優賞等受賞。主な出演映画は、第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品『寝ても覚めても』(2018)、『コンフィデンスマンJP』シリーズ(2019~2022)第77回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞受賞作『スパイの妻』(2020)『Blue』(2021)『草の響き』(2021)『天上の花』(2022)など。片嶋一貴監督)、2023年3月公開『Winny』(2023)、2023年公開『福田村事件(仮)』(2023)など。

とべない風船』(2022)上映時間:1時間40分/日本

陽光あふれる瀬戸内海の小さな島。数年前の豪雨災害で妻子を失って以来、自ら孤立している漁師の憲二(東出昌大)は、疎遠の父(小林薫)に会うために来島した凛子(三浦透子)に出会う。凛子もまた、夢だった教師の仕事で挫折を味わい、進むべき道を見失っていた。凛子は島の生活に心身を癒されていくが、憲二の過去を知って胸を痛める。最初は互いに心を閉ざしていた2人は、あたたかくてお節介な島の人々に見守られ、少しずつ打ち解けていく……。

2022年12月1日(木)広島先行公開
2023年1月6日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
©buzzCrow Inc.
公式サイト:https://tobenaifusen.com

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