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MC、芸人、クリエイター。マルチに活躍する劇団ひとりがエゴサを一切しない理由

集英社オンライン / 2022年12月14日 12時1分

「劇団ひとりがすごいのは、天才的なところというか変態的なところと、お茶の間タレントを両立しているところなんですよ」。そう語ったのは、TVプロデューサー・佐久間宣行氏だ。MC、芸人、クリエイター。いくつもの顔を持つ彼が創作を続ける理由や、作品や自身に寄せられる評判との付き合い方について聞いた。

登場人物の心の機微を描くのが最優先

──ひとりさんの描かれる大正や昭和の浅草は、人権の感覚が現代とはまるで違っていて、今で言うハラスメントも横行していたんじゃないかと思います。ですが、ひとりさんの作品は社会にそういう価値観があったこと自体は描きつつ、登場人物一人ひとりを尊重して表現しているのを感じます。



僕は基本的には、物語を利用して社会問題を伝えるような意識があまりないんですよね。プロパガンダのような作品も世の中にはあるけど、僕はもうちょっとピュアに物語を描くことに向かっていて、もっと言えば登場人物がすべて。物語に登場する人たちの心の機微がすべてです。

小説でも映画でもなんでもそうですが、登場人物の心の動きや葛藤を表現するために物語があるというのが僕の考え。ストーリー先行じゃなくて、人間がまずある。その人間にどんな状況を与えれば見せたい感情や表情を出すことができるのか考える。だからある種、ストーリーは二の次ですね。

例えば、物語の展開的には右に行ったほうがおもしろいけど、主人公が右ではなく左に行くキャラクターなら、左に行かせる。それで展開が弱くなったとしても、主人公の感情を優先したい。だからプロットやアウトラインを最初に一応作るけど、だいたいその通りには行かないですね。

なぜかというと、プロットの段階では感情が乗っていないから。書きながら登場人物にどんどん命が吹き込まれていくと、とてもじゃないけどこの展開にこの主人公がこう動くことはないとわかる。そういう時はプロットを無視して、そっちの展開に従うようにしています。

それは映像でも一緒で、何度となく推敲した脚本でも、いざ現場に行って役者さんが衣装を着て台詞を言った瞬間に「あ、本当はこの人、こんな台詞言わないな」ってやっと気づく。それでそのセリフをカットします。

そういう違和感を無視して撮ったシーンは、大体その後編集でカットすることになる。物語を進めるために無理やり言わせた台詞だってバレるから。まあそこもバランスで、感情も乗って物語も進めるような台詞があるはずで、それを探るんですが。

──何度推敲してもいざ現場に入ると違和感を覚えるということが興味深いです。

脚本を書いている段階だと文字だけだから、けっこう派手な台詞回しになっちゃうんですよ。それを役者さんが声に出すと、「こんな劇的な台詞は言わないだろうな」って違和感が出てくる。今はもう脚本を書く段階から気をつけているけど、どうしても1人でパソコンに向かってると、漫画的な台詞になりがちで。

文字だけだったものを映像にするには、役者さんがいて、光があり、カメラがある。いろんなものが一緒に語ってくれる。小説だと書き過ぎてもいいことでも、映像だと登場人物が自分の思いをやたらに吐露するのは本当に下品なことで、余計なことを語らない方が美しいわけじゃないですか。小説と映像ではそこが全然違いますね。

劇団ひとりがエゴサを一切しない理由

──作品を広く届けると、いろんな人の感想がわーっとネットにあがりますよね。ひとりさんはそういった感想をエゴサして見ることはありますか?

僕、見ないです。

──一切?

うん。怖いんですよね、人の感想って。影響を受けやすいんですよ。何か確固たる自信があるわけじゃなくて、不安定だから。自分でちょっとずつ築いたものが、いきなり知らない第三者の言葉でガラッと変わっちゃう可能性もあって、それが怖い。

そこって僕は昔からなんです。自分のファンしか来ないような単独ライブでさえ、アンケートは読まない。スタッフに「これは間違いなく読んで大丈夫」っていうのを2〜3枚ピックアップしてもらってそれを読むくらいです。そのくらい感想を見るのが苦手ですね。

──そうなんですね。

そう、感想は自分の肌感覚だけで十分だと思ってるんで。自分が実際に見たお客さんの反応だったり、感想を僕に伝えてくれる人の表情だったりを見ればだいたいわかる。半径5メートルの声だけでよくて、それ以外はなるべく目に入れないようにしています。

──ご自身を「不安定」と評されているのが意外です。視聴者として知るひとりさんはいつも安定している印象です。

そう見えるのは、不安定になる要素をずっと除外してきているからでしょうね。そこはもう、自分を過保護にしてる。もし人の感想や意見を全部聞いてたら、僕は頭が変になってると思います。

芸人の若手の時って、月に2回くらい演出家とか作家にネタ見せをやるんですよ。デビューした時から、ネタ見せのたびにいろんなことを言われる。でも言うこと聞いたって、別に大してうまく行かないんです。

やっぱり、実際に舞台に立って緊張感持ってやってる自分の考えの方が、絶対的に正しいわけですよね。それで、そういう意見を聞かないようにしてみて、ちょっとずつ軌道に乗り始めたりするんです。

でも、みんな何かを見たら語りたがりますよね。駄目出しをしたがる。僕もそうだけど、何か映画を観たら、あそこがああだ、ここがこうだ、って言いたい。でも、自分の作品のことは自分が誰よりも考えているし、自分の人生のことも自分がいちばんよく考えている。だから人の言うことはあまり聞き入れないようにしています。

ただ、僕が見ないというだけで、いろんな人の酒の肴になるのは我々テレビに出ている人間の1つの仕事かなと思います。酒の肴にならなくなったら、それはタレントとしてはもうおしまいだし。褒め言葉も悪口も、言われているうちが花ですよね。

小説や映画の賞への興味

──評価と言えば、小説や映画の賞にご興味はありますか?

賞そのものというよりは、賞を取ることで手に取ってくれる人が増えるので、そういう意味で欲しいなとは思います。簡単に言うと宣伝効果ですよね。

──『浅草キッド』はNetflixの作品だから、日本アカデミー賞では審査の対象外ですよね。ひとりさんがゲスト出演された『爆笑問題カーボーイ』で太田さんが問題提起されていましたが。

でもそれは企画段階で言われていたことだから。「賞レースには絡めないけどいいですか?」って。その時は撮れるだけでも御の字だったので、何も思わなかったですけどね。

──『浅草キッド』の企画は何社にも持ち込んで、最後にNetflixに決まったという話ですが、途中で挫折しそうになりませんでしたか?

これは偶然の要素が大きくて。辛抱強く耐えたと言うよりは、たまたまそうなったというか。ちょうどよくたらい回しになって、最終的には日活にいたプロデューサーがNetflixにヘッドハンティングされて、そういう流れで決まったので。

でも本当に、最初に自分の中でぽっと湧き出た「『浅草キッド』を映画にしたい」という思いがすべてで、そこから脚本を書き始めて。覚えてるんです。事務所の人間に「『浅草キッド』を映画にしたい」って相談した日のこと。あれを言わなかったら、こういう流れにはならなかったなって。その時点で脚本も上がってたから、それで動いてもらったんですけど。

結局、自分からやらないと何も始まらないということですね。だから、誰に頼まれたわけじゃないけど脚本を書き始めた時のことは、自分を自分で褒めたい瞬間だったかもしれない。よくやったなって思います。

──テレビの仕事や家庭のことで既に十分忙しい中で。

それが例の勝手な使命感ってやつですよね。そこにつながるけど、忙しくてもなんとかやらなきゃって思いがあった。そこまで思い込めるかどうかですよね。でももし『浅草キッド』をやってなかったら、逆にもっといい作品と出会えていたかもしれない。そういう可能性だってありますからね。だからよかったのかよくなかったのか、結果はわからないけど、自分は間違いなくやりたかったわけだから。

自分の得意ジャンルに固執しない

──『浅草キッド』を自分発で実現したことで、逆に今度は向こうからお仕事を頼まれることも増えていますよね。

ありがたいことに、演出や脚本の話は色々いただくようになりましたね。そこは、もし『浅草キッド』を撮ってなかったら随分違う状況になってたかなと思います。

──『無言館』(2022年の『24時間テレビ』で放映されたスペシャルドラマ)は、日本テレビからのオファーを受けて作った作品ですね。自分発ではない場合の創作はいかがでしたか?

最初は無言館に関する知識が全くのゼロだったけど、『浅草ルンタッタ』を書く時に、資料をひたすら集めて、世界観を頭の中で構築することに没入した経験があるので、知らないことでも物語を作ることができる自信がついて。それで無言館について調べてみたら、やっぱり自分発の企画となんら変わらずに没入できた。

今日もオファーされた作品の打ち合わせがあって、今度はこれまでとは随分毛色の違う、ちょっとコメディータッチのもので。今までは人情噺が多かったので、そうじゃない、例えばもっとライトなものなんかにも挑戦したい。

とりあえず、やらせてもらえるうちにはやっておきたい。自分の得意ジャンルしかやってこなかったので、それ以外が本当に不得意なのかどうか確かめるためにも、いろんなものをやっていきたいと思ってます。

──やっぱり、どんどん挑戦をしていきたい、と。

得意なことだけやってても偏ってきますから。ずっと同じ引き出し開けてるような感覚になってくるんでね。そういう意味で言うと、ストレッチみたいなものです。無理してちょっとずつ伸ばさないと柔軟性って上がっていかないじゃないですか。

かといっていきなり思いっきり曲げちゃうと筋切っちゃう。だからちょっとずつがいい。自分の可能性をちょっとずつでも広げていかないと、飽きちゃいますよね。それは何事も掘り下げられないとも言えて、ビュッフェスタイルみたいな人生だなってよく思う。1個のことを極める人はかっこいいけど、自分は駄目で。絵本書いた後に漫画やって、小説書いて、って色々やりたくなっちゃう。

──でもその時に何をやってもうまくできるのがひとりさんの才能です。

いや、それはおもしろいと言ってもらえて、世の中で話題になってるものだけを見てくれているからだと思いますよ。世に出ていないものもいっぱいあるんで。当たり外れはあるんですよ。でも、ありがたいことに世の中は外れたものに注目しないので、外れたことさえバレていないんですけどね。

この前秋元康さんがゲストの番組で、過去に秋元さんが手がけた作詞の一覧を見たら、僕らが知ってる曲って意外と30曲中1曲くらいで。

──それは意外です!

そう、全部ヒットさせてるイメージあるでしょう? でも実際には僕らが知らない曲もいっぱいあるんですよ。で、前に秋元さんとご飯を食べた時に「天才は多作なんだ」ってことをすごく言ってた。あれは自分のことを言ってたんだろうな(笑)。でも、百発百中が誰にもむずかしいのは本当のことで。失敗から学ぶことも多々あるし。

──では今後も、作品をたくさん作り続けるということですね。

うん、やらせてもらえるうちは作り続けたいです。時間が経って駄目になったら、誰もオファーしてくれないから、この現状をありがたいと思わないと。世の中は世知辛いですからね。テレビの仕事もそうだけど、オファーをいただいているうちはなんでもありがたくやらせてもらうつもりです。

構成・文/碇雪恵 撮影/野﨑慧嗣

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