佳境を迎えているカタールW杯。日本代表は惜しくもベスト16で涙を呑んだが、国の威信をかけ、国民の期待を背負い、文字通り“命懸け”でプレーする選手の熱いプレーに、心を動かされた人も少なくないだろう。
ただ、 “命懸け”でプレーするからこそ、試合のインテンシティ(激しさ)は非常に高くなる。それゆえ「危険なプレー」がより起きやすくなってしまうのも、W杯の特徴の一つである。今大会で見られた、“あわや大事故”となり得た危険なシーンを振り返る。
【カタールW杯】うわっ! 思わず目をそむけたくなる衝撃の接触プレー5選
集英社オンライン / 2022年12月15日 10時1分
いよいよ大詰めとなる“FIFAワールドカップカタール2022”。国の威信をかけた戦いだからこそ、どうしても起きてしまう “激しい接触プレー”。今大会の痛過ぎたプレーを紹介する。サムネイル、トップ画像:イランGKとイランDFの激突シーン(写真:AP/アフロ)
激突シーンの凄惨さを物語る、
14分という異例のアディショナル・タイム
1. イランGK、味方DFとの接触でプレー続行不可能に
11月21日に行われたグループBのイングランド対イラン戦。前半7分、イングランドFWハリー・ケインが右サイドから鋭いクロスを上げると、イランGKアリレザ・ベイランヴァンドは勇気を持って飛び出し、右手1本でそのボールに触れる。その際に味方DFマジド・ホセイニと勢いよく正面衝突してしまい、両者はピッチに倒れこんだ。
比較的すぐに立ち上がったホセイニに対し、ベイランヴァンドはなかなか起き上がれない。彼の鼻は大きく腫れ上がって出血。止血や安全確認も含め、ピッチ上での緊急治療が10分以上続けられた。解説(ABEMA中継)の戸田和幸氏も、プレー続行可能か否か、メディカルスタッフの判断の難しさを指摘した。
ベイランヴァンドはその後立ち上がってプレーを続けるものの、再度ピッチに倒れ込み、自ら交代を要求。GKホセイン・ホセイニと代わって退いた。今大会、「通常の交代枠とは別に、 “脳震盪による交代”が1人のみ可能」というルールが設けられており、それが初めて適用されるケースとなった。
一連の治療による中断の結果、前半終了間際に表示されたアディショナル・タイム(AT)は14分という異例の長さとなった。守護神ベイランヴァンドの途中離脱が響いたのか、6-2のイングランドの圧勝でこの試合は幕を閉じた。
勇敢さが引き起こす“トラウマ”級の衝突シーン
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イランFWとウェールズGKの激突(写真:ロイター/アフロ)
2. ウェールズGKの“飛び膝”が
イランFWの顔に入り一発退場に
その勇敢さが “アジアの雄”と呼ばれる所以なのか。またもやイラン代表の試合から選出。グループBのウェールズ対イラン戦、0-0で迎えた後半39分のシーン。自陣からのロングパスに反応したイランFWメフディ・タレミは、相手ディフェンスラインの裏に抜け、相手GKウェイン・ヘネシーと1対1の状況に。ヘネシーは前に飛び出し、ボールをクリアしようとジャンプして右脚を高く上げたが、そこに飛び込んで来たタレミと激しく衝突し、タレミはその場に倒れ込んだ。
主審がヘネシーに最初に提示したのはイエローカードだったが、VAR判定によりレッドカードに。ウェールズは残り時間を10人で戦うことになり、そこからは防戦一方の展開に突入。
“タフネス”ぶりを見せつけ、その後もプレーを続けたタレミの頑張りもあり、後半ATにイランが待望の先制点。最終的にはイランが2-0で勝ち点3を手にし、決して諦めない勇姿をサポーターに見せつけた。
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アルゼンチンDFに激しいタックルを見舞うメキシコDF(写真:森田直樹/アフロスポーツ)
3. あわや一発退場! メキシコDFの“キラー・タックル”
続いてはグループC、アルゼンチン対メキシコの試合から選出。0-0で迎えた前半22分、アルゼンチンのカウンター攻撃を阻止しようとしたメキシコDFの危険なタックルに、解説(ABEMA中継)の中山雅史氏も思わず「うわ…激しいですね…」と声を漏らした。
アルゼンチンFWリオネル・メッシが、ピッチ中央でメキシコからボール奪取を狙うと、ボールはイーブンな状態に。そこに走り込んだアルゼンチンDFマルコス・アクーニャがボールに触れる瞬間、メキシコDFネストル・アラウホが果敢にスライディングタックルを仕掛け、アクーニャは苦悶に満ちた表情でピッチに倒れ込んだ。
アラウホにはイエローカードが提示されたが、リプレイ映像を確認すると、アラウホの足裏は完全にアクーニャの右足に直撃。 “足裏を見せるプレー”はルール上でも危険なプレーだと定義されており、このアラウホのシーンも、審判によってはレッドカードが提示されていても不思議ではなかった。
アルゼンチンとメキシコの両国は、サッカーが実質的な国技であり、国民の関心が非常に高い。だからこその激しさであり、鎬を削る死闘がその後も繰り広げられたが、英雄メッシの活躍もあり、アルゼンチンが2-0でメキシコを下した。
一歩間違えば失明(?)の危険なプレー
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オーストラリアFWのスパイクがチュニジアDFの顔を直撃(写真:ロイター/アフロ)
4. プロレス技?オーストラリアDF の
“ローリング・ソバット”的なクリア
グループDの第2戦目、チュニジア対オーストラリア戦で起きたシーンを紹介。オーストラリアが1-0でリードして迎えた前半38分、オーストラリアFWクレイグ・グッドウィンとチュニジアDFモハメド・ドレーゲルがハイボールを競り合った際に、危険なプレーが発生した。
ピッチ中央で両選手が競り合った後、ドレーゲルが倒れ、なかなか立ち上がれない。リプレイ映像を観ると、“ローリングソバット”のような体勢で飛び込んだグッドウィンのスパイク裏が、ドレーゲルの顔面に直撃していたことが判明。
サッカーのスパイクの裏には、主に鉄製かプラスチック製が用いられるが、いずれにせよ“尖った形状”をしており、当り所が悪ければ大怪我につながっていた可能性も少なくない。今回は大事には至らなかったようで、アイシングなどの処置をした後にドレーゲルはピッチへと復帰した。決して傷付ける意図はなかっただろうが、グッドウィンも肝を冷やしたことだろう。
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ネックレスをスタッフに外してもらうフランスDF(写真:新華社/アフロ)
5. ルールを知らなかった? ファッショニスタなフランスDF
最後に、決勝トーナメント1回戦のフランス対ポーランド戦から話題を呼んだシーンをご紹介。互いに譲らず0-0で迎えた前半41分、スローインを投げようとしたフランスDFジュール・クンデが、ライン側の副審から注意を受ける。その注意は、クンデが首につけていた「金のネックレス」に対してだった。
副審にその場で外すように促されるクンデ。素直に応じるも、上手く外すことが出来ず、最終的にチームスタッフの手を借りることに。解説(ABEMA中継)の福田正博氏も「大体試合前にチェックするんですけどね…」と発言した。
一昔前のサッカー界では、元イタリア代表ロベルト・バッジョなど、ピアスやネックレスを付けたまま華麗にプレーする選手も数多く存在した。ところが、2006年のドイツW杯を機に、接触時の危険を低減するため、金属製の装飾品の着用が厳しく制限されるようになったのである。
自らのファッションセンスをW杯という大舞台でアピールしたかったのか。もしくは、いつも身に付けたい大切な物なのか。クンデの本心は図りかねるが、再度試合に集中したフランスは、本来の実力を発揮し、ベスト8へと駒を進めた。
カタールW杯で注目を集めた、危険な接触プレーを振り返ってきた。国の威信をかけた真剣勝負の大舞台だからこそ、選手たちは果敢にチャレンジし、それゆえ時に悲惨な事故が発生してしまう。
脳震盪に対するルールが各国リーグで厳格化されるなど、様々な工夫がサッカー界で取り入れられつつある。例えばスコットランド・サッカー協会では、プロのクラブでのヘディング練習を週1度に制限し、試合前日と翌日も禁止する、という声明を先日発表した(プロよりも先にアマチュアで導入済み)。これは、「元プロサッカー選手は、ヘディングの衝撃により神経変性疾患になるリスクが高い」とする、英グラスゴー大の研究を受けた上での決定である。
サッカーは危険を伴うスポーツだ。しかし、選手は怪我を恐れてプレーするのではなく、体を張って、勝利のために全力を注ぐ。そしてその懸命な姿に、ファンやサポーターは興奮し、感動するのである。今後のサッカー界で、大事故となるような危険なプレーが、できる限り起きないことを願うばかりである。
取材・文/佐藤麻水
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