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〈JR中央線で落下死亡事故〉ホームドア整備進まぬ背景と転落時に生死を分けるポイントは? 人身事故を数度経験した運転手は「ガタガタと激しい音、ものすごく嫌な感触が…」

集英社オンライン / 2022年12月13日 19時4分

東京都杉並区のJ R阿佐ヶ谷駅で12月10日夜、線路に転落した50代の男性が電車にはねられ死亡、助けようと線路に降りた50代の知人男性も足の骨を折る大けがを負った。現場はホームドアが未設置で、これが事故の原因の一つであることに間違いはない。しかし取材を進めると、整備が進まぬ背景や駅ごとに異なる職務権限や人員配置など、複雑な要因が絡み合っていたことも浮かび上がってきた。それらを踏まえて転落時に生死を分けるポイントや心構えを詳細にレポートする。

「パーッ!!」とものすごい警笛音が鳴った

「ちょうどお店を閉める直前にパー!って、ものすごい警笛音が鳴っていたので、もしかして人身事故かなって思いました。それでお店を閉めて、駅を見に行くと阿佐ヶ谷駅の南口に救急車2台くらいと消防車が3台ほど停まっていました…」(近隣店主)


事故があったホーム

事故があったのは2番線ホームで、電車は三鷹発千葉行きの中央・総武線各駅停車(10両)。死亡した男性からはアルコールが検知されたことから、酒に酔って誤って転落したとみられる。
J R中央線では10月12日朝にも武蔵小金井駅で死亡事故が起き、上下線で約1時間半に及ぶ運転見合わせが発生したばかり。今回の阿佐ヶ谷駅にも同駅にもホームドアは設置されていなかった。

鉄道の駅では視覚障がい者や酔客らのホーム転落事故が後を絶たず、近年では転落防止用のホームドア整備が進み、2015年からは政府が利用客の多い駅を優先的に整備する方針を掲げて補助金を出すなど設置を後押ししている。国土交通省のまとめでも、ホームドア設置駅数は07年3月末に全国で318駅だったものが、昨年同には943駅とほぼ3倍に増えており、今後も鉄道各社で整備拡充を計画している。

しかし、J R中央線のように地下鉄が乗り入れたり、特急や複数の快速、普通など、車両が多様で一両ごとのドア数も異なる場合は、一律にホームドアを設置するのは難しい。

既にホームの工事は進んでいたのだが…

職員が証言「警笛を鳴らしても、『うるさい』と真剣に取り合ってくれない」

〈ホームドアは万能か〉
単にホームドアを設置すれば問題が解決するかといえば、そうでもない。J R東日本のあるベテラン職員はこう語る。

「ホームドアを設置したことで職員の配置が変わり、人手が足りないことで安全面が保たれないという側面もあります。例えば山手線の巣鴨駅や大塚駅などホームドアがある駅の運営は、実は委託先の子会社が請け負っていて、できる業務内容が社員より限られているため、人身事故が起きると近くの池袋駅から人を出して管理しなければいけないため、復旧も遅れます。視覚障がい者の方たちによく『J Rは人が来るのが遅い』とお叱りを受けるのも、こうした事情があるのです」

また、ホームドアを過信して油断することに警鐘を鳴らす鉄道マンも多い。

「酔ったお客様によくみられるのが、ホームドアに寄りかかっているパターンで、万が一、走行中の電車に頭や手が触れたら大けがは免れない。実際に手がかすって電車が止まってしまうことは頻繁に起きています。運転士もホームドアに寄りかかっていたり、線路に近づこうとする人に対しては警笛を鳴らしますが、『うるさい』と真剣に取り合ってくれる方が少なく、我々とお客様の認識のズレを痛感します」(30歳の駅員)

<線路に潜むさまざまな危険>
原因が何であれ、線路に落ちてしまったらどうするか。J R各線などの野外のホームは雨水が溜まらないよう、線路側に緩やかに下っており、酔っていればなおさら転落の可能性は高まる。人身事故でニュースになるのは死亡事故がほとんどで、線路に落ちて電車が止まった程度のインシデントは毎日のように発生している。

通常の電車は地上の電線からパンタグラフで給電しているが、地上、地下に関わらずサードレール(第三軌条)方式という走行レールに並行して給電用レールが取り付けられている路線もある。
東京だと東京メトロの銀座線と丸の内線がこれにあたり、線路に落ちれば当然感電する危険もある。線路に落ちた場合はパニックにならず、電車の進行方向に動いて避難スペースを探しつつ、大声を上げてホームにある非常停止ボタンを押してもらうことが最善の動きになる。無理にホームによじ登ろうとしても、その間に電車が来てしまう危険性がある。

ホームに設置されている非常停止ボタン

駅員は当然、転落時に非常停止ボタンを押して電車を止める訓練を定期的に行なっているが、人員削減の影響でホームの立ち合いはラッシュ時のみという駅も増えており、居合わせた乗客としても非常停止ボタンの存在を普段から気にとめて、いざというときに正しく押せることが事故防止に繋がる重要な行動になる。

運転手が証言「遺体が切断され、パーツがバラバラのことも…」

<要注意の例>
実際に転落しそうな状況を、現場の経験から拾い上げてみると、こんな具合になる。

「自分が直接対応したものだと、千鳥足で柱に寄りかかっていたものの、どんどん前のめりになって柱から体が離れ、勢いよく線路に落ちた酔客がいました。最初から危ないと思って目をつけていたので、迅速な対応ができて幸い事故は免れましたが、お客さまは落ちた際に上手く受け身が取れず、足を引きずって帰られました」(25歳の駅員)

また、酒に酔って転落するパターンの実に6割が、ベンチから立ち上がってそのまま直進して線路に落ちるケースだという。

ベンチで寝る男性 ※写真はイメージです

「なんでそんなことになるのか理解できないのですが、かなり酔っているからなのか、動き出しが早すぎるんです。電車の接近を知らせるアナウンスに反応して立ち上がり、そのまま直進してホームに落ちてしまうんです。その方も予期せぬ落ち方をしたんで、少し怪我もしていました。せめて電車が来てから動き出せば落ちることはなかったんですけどね」(26歳の駅員)

視覚障がい者にとって頼もしい盲導犬がいても防げなかったケースもある。東京メトロ銀座線青山一丁目駅の渋谷方面行きホームで2016年の8月、盲導犬を連れて線路側を歩いていた男性が足を踏み外し転落、死亡した。ホームドアがあり、駅員が複数ホームにいれば防げたのではないかという声が大きく上がり、ホームドア整備の推進に拍車をかけた。
しかし、いずれの対策も決して万能ではない。

盲導犬 ※写真はイメージです

最後に、実際に人身事故を経験したベテラン運転士の証言を聞いてほしい。生々しいが、とても重要な示唆を含んでいる。

「私も過去に複数の人身事故を経験しています。いずれも自殺を企図されたケースでしたが、前の方でぶつかるとドーンと衝撃音ですぐにわかりますし、後ろのほうで轢いてしまっても山道を車でのりあげるような、ガタガタと激しい音がして、ものすごく嫌な感触が残ります。ブレーキをかけても電車はなかなか止まらないから、その間に覚悟を決めて、現場に臨場します。ご遺体が切断されていたり、パーツがバラバラのこともあり、未だに思い出すこともあります。そのような事故を経験して、運転ができなくなる職員も何人も見てきました。

あと、ホームに落ちるのはダントツで酔っ払った乗客が多いのですが、物を落として拾いにいかれる方も相当数いらっしゃいます。これは絶対にやめて、必ず駅員に相談してください。電車は60キロで走っている時に急ブレーキをかけても100メートルは動きます。急に止まることはできないのです」


取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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