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「誰よりも速く滑りたい」三度の前十字靭帯断裂を乗り越え、ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪へ。スキークロス選手、新井真季子の挑戦

集英社オンライン / 2023年1月12日 10時1分

2021年にアルペンスキーからスキークロスへ転向した、スキーヤーの新井真季子。度重なる怪我を負ってきた苦難の道と、これからの展望について聞いた。

「スキークロス」というスポーツをご存知だろうか。4人の選手が同時にスタートし、ウェーブやジャンプ台、バンクなどのセクションをダイナミックにクリアしながらハイスピードでゴールをめざすフリースタイル・スキーの種目のひとつで、2010年のバンクーバー大会以来、冬季オリンピックの正式種目にもなっている。

アクションスポーツ的要素も備えたスリリングな競技性から、スノーボードクロスとともに近年ヨーロッパを中心に飛躍的に人気を高めている。そのスキークロスにさらなる可能性を見出し、一念発起、今年アルペンスキーから転向したのが新井真季子選手。



三度の前十字靭帯断裂など紆余曲折あったアルペンスキー時代の経験を力に変え、新しい競技でいまだ果たせていないオリンピック出場をめざしている。そんな彼女が苦難の道のりとなったこれまでのキャリアも振り返りながら、スキークロス挑戦に賭ける思いを語ってくれた。

根っからの「負けず嫌い」。誰よりも速く滑りたくて、
勢いでヨーロッパ留学も決めた

――岐阜県の高山市出身の新井選手にとって、スキーは幼い頃から最も身近なスポーツだったそうですね。

父が地元のスキー場関係の仕事をしていたこともあって、2〜3歳の頃からスキーをやっていました。小学生になってアルペンスキーを本格的に始め、学校が終わったらすぐに宿題を終えてナイターを滑りに行くという生活でしたね。

――当時はどんな思いでスキーと向き合っていましたか?

常に4歳上の姉より上手になりたいという気持ちで滑っていました。とにかく負けず嫌いだったので、大会に出始めてからはよりいっそうその気持ちが強くなり、試合で優勝することがスキーを滑る上での何よりの楽しみでした。

――中学3年生で、単身ヨーロッパへ。

小学5年の頃に海外の大会で入賞できたことをきっかけに、将来は世界の舞台で活躍できるスキーヤーになりたいと思うようになりましたね。中学2年の頃、高校はどこへ行こうかと考えていたときにコーチからオーストリアにスキーの育成専門学校があると教えられたんです。

――中学生だった新井選手からすると、渡欧してからはいろんな苦労があったのでは?

勢いに任せて留学を決めたのですが、実際に向こうに行くといろんな壁にぶち当たりました。とくに言葉の壁は大きく、「あれ、私やばいかもしれない」って、入学式からすでに泣いていました(笑)。

オーストリアの人々が話すドイツ語は、アクセントが独特で授業を受けていても先生が何を話しているのか本当に理解できなくて。今のようにオンラインで簡単に日本にいる友人や家族と話せる環境でもなかったので寂しさもありましたね。

――その苦悩や寂しさをスキーに打ち込むことで打ち消していったわけですね。

学校の成績が良くないと当然進級ができず、トレーニングも満足にさせてもらえなくなってしまうので「このまま日本に帰ったらすごく怒られるだろうから、まずは勉強を頑張ろう」というくらいのスタンスで開き直るようにしました。
そこからはオーストリアで完全な寮生活に身を置きながらスキーに没頭。今思えばあっという間の4年間でした。

3度の前十字靭帯断裂。それでも
スキーをやめようと思ったことは一度もなかった

――帰国して法政大学に入学し、日本を拠点に活動をスタート。大学2年時に日本代表入りを果たしてFISワールドカップに初出場されて以来、新井選手はアルペンスキー選手として国内外の大会で活躍されてきましたが、これまで三度、前十字靭帯断裂の大怪我に見舞われています。度重なる逆境をどう乗り越えてきたのでしょうか?

一度目は留学中の2012年に右膝、次は帰国後の2015年、最後に2017年にそれぞれ左膝を負傷しました。そのたびに「やってしまったことは仕方がない」と割り切って、同じ怪我をした選手から話を聞いたり、いい刺激をもらいながら乗り切ってきました。

さすがに3回目は「またか…」と思いましたし、出場をめざしていた平昌オリンピック前だったのでショックはありましたが、それでも怪我を理由に競技をやめようと思ったことは一度もないですね。

――これまでの経験から、最も学んだ教訓とは。

何より「苦しくても続けていれば何かしら得るものがある」ということを学ぶことができました。私の場合は「怪我の怖さ」というものが常に頭に残る中でのトレーニングなので、そこをクリアするための反復練習によって滑り込む大切さも実感できました。

それに、一年を通して滑れる環境でスキーの練習に集中し、時々の流行りのテクニックや最新の用具などの情報を常にダイレクトに得ることができたのも、オーストリア留学やその後のヨーロッパ転戦のおかげだと思っています。

――2022年の7月、アルペンスキーからスキークロスへの転向を表明されました。転向を決意した裏にはどんな思いがあったのでしょうか。

スキークロスそのものは昔から知っていましたし、留学したオーストリアの専門学校にもアルペンからクロスに転向した選手が多かったので、常にその可能性を頭の中に描いてはいました。北京オリンピック出場が叶わなったことで、2022年2月の国体を滑り切ってアルペン競技に一区切りをつけようと。

その段階ではまだ決断していなかったのですが、代表コーチの方から「全日本選手権が4月にあるから来てみたらどうだ」と誘われたので「じゃあ行きます」と軽いノリで出てみたんです。そうしたら本当に楽しくて!
対戦相手と横並びで滑るのもすごく新鮮でしたし、姉の背中を追ってスキーをしていた子供の頃を思い出しつつ「自分にはこうして競う方が向いているのかもしれない」と思ったんです。

――4人が同時にレースを行なうため駆け引きやフィジカルの接触も多いと思います。負けず嫌いを自認されている新井選手の性に合っている?

そう思います。むしろワクワクしますね。今まで長くアルペンスキーをやってきましたが、それはスキーというスポーツのほんの一部分だったんだなと実感しています。こうして縁があってスキークロスと出会えたので、どんどん楽しみながらやっていきたいなと思います。

――競技として日本ではまだまだ知名度が低く、本当にこれからのスポーツ。その点にもやりがいを感じるのではないでしょうか。


ヨーロッパでの試合数も昨年の倍くらいに増えてきました。日本でもそういう感じで少しずつ知名度が上がっていけばいいなと思います。今回スキークロスに転向した私たちがそういう新しい流れを作っていければとも考えています。

目標は2026年ミラノ・コルティナダンペッツォオリンピック。
ゼロからの挑戦を楽しみたい

――さっそくヨーロッパ転戦がスタートしているそうですね。

まずはワールドカップのひとつ下のカテゴリーであるヨーロッパカップを中心に転戦する予定ですので、23年の3月頃まではおそらく行きっぱなしになると思います。最初はスイス・ザースフェーのスキー場を拠点にしながら、その後にオーストリアに拠点を移す予定です。

――長期間の遠征になるとその間のオン・オフの切り替えがとても大事になると思います。ヨーロッパ生活に慣れている新井選手だからこその、現地でのスキー以外の楽しみとは?

現地に住んでいた頃から馴染みのカフェでお茶をしたり、週末に友人の家に遊びに行ったり、時間に余裕があればイタリアまで足を伸ばして買い物をしたり、というのが自分なりのリラックス方法になっていたので、またそういうふうに過ごしたいですね。

――新しい挑戦に、これまでアルペン競技で培ってきた経験やスキルをどのように活かせると思いますか?

スキークロス独自の動きであるジャンプやスタート、レース戦略の部分を詰めていけば通用する自信はあります。特に女子選手は世界的にまだそれほど多くなく、選手間のレベルも拮抗しているのでここからスキルアップしていけば十分に上をめざせると思っています。

――となると、当面の目標は……

もちろん4年後の「ミラノ・コルティナ」です。

――やはり、「オリンピックに出てメダルを獲りたい」という思いがスキークロス転向のいちばんの決め手になったわけですね。

そう言えると思います。オーストリアに留学した頃からオリンピックが最も大きな目標で、そこに出られなかったことがアルペン選手としていちばんの心残りでしたから、こうして心機一転、違う種目でもう一度オリンピックをめざしてスタートを切れることに喜びを感じています。

――スキークロス選手としてのデビューイヤーを、どんなシーズンにしたいですか?

今季の目標は、ヨーロッパカップ転戦で経験を積みながらとにかく怪我をせずにシーズンを戦い抜くこと。その中でスキークロスという種目がどういうものかをしっかりと体感し、その後のワールドカップやオリンピックへのステップアップに繋げていきたいです。

――最後に、今回のスキークロス転向はこれまでのキャリアの延長線上にあるという考えですか? それとも全く新しいチャレンジという感覚ですか?

最初は同じスキーの中でただ種目が変わるというマインドでしたけれど、今ではアルペンから完全に頭が切り離されて新しい人生のスタートという感覚になっています。一から、というよりゼロから自分のスキーというものを作り上げていきたいですね。

取材・文/徳原海 撮影/猪原悠 スタイリング/伊藤あかり ヘア&メイク/榎田茉希

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