明治大学女子硬式野球クラブを創部したのは、元消防士で現在同大に学生として通う藤﨑匠生監督、25歳。
藤﨑さんは元高校球児。女子野球に関わりを持つきっかけは、2019年に母校の高知中央高校(高知県高知市)に女子野球部ができたことだった。部をつくった西内友広さんは、高校時代の野球部の恩師。西内さんから「外部コーチになってほしい」と声をかけられた藤﨑さんは、消防士として働きながら休日や仕事終わりに手伝いにいくようになった。
「野球は男子のスポーツ」「女子の選択肢が少なすぎる」を変える。東京六大学初の女子硬式野球部をつくった明大生たちの挑戦
集英社オンライン / 2023年1月2日 9時1分
いつか女子の東京六大学野球リーグ創設を――。そんな大きな夢を掲げて、明治大学の女子硬式野球クラブが始動した。六大学では初の女子硬式野球部。監督とメンバーに創部の経緯や思いを聞く。
きっかけは選択肢が少なすぎる女子野球の現状
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明治大学女子硬式野球クラブ監督の藤﨑匠生さん
高知中央の女子野球部は県内外から集まった10人でスタートした。そして1期生にとって最後の夏となる2021年8月に、初めて甲子園で行なわれた全国高校女子野球選手権に出場。決勝戦まで勝ち進んだ。
外部コーチとして就任した当初は「女子野球はあまりレベルが高くないだろう」と思っていたという藤﨑さんだったが、甲子園でプレーする彼女たちの勇姿に胸を打たれた。
「僕も野球をやってきましたが、甲子園にはいけませんでした。甲子園は出たくてもお金では買えないですからね。彼女たちが甲子園という舞台でどんどん成長して強くなっていく姿を見て、まさに『お金では買えない価値』に心が熱くなり、さらに女子野球に貢献したいと思うようになりました」
生徒たちから進路相談も受ける中で、「女子が大学進学後も野球を続けるには選択肢が少なすぎる」(藤﨑さん)現状に直面した。
そこで、学生野球の原点であり、歴史と伝統のある東京六大学に女子野球部をつくることができれば、女子野球界が発展していくはずだと考えた。そこで自ら明大を受験し、消防士をやめて学生として女子野球部の創設に関わろうと決めた。
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明大女子硬式野球クラブのメンバー。左からスタッフの平野太康さん、影山唯花さん、助川仁美さん、高林奈々さん、マネージャーの林穂美さん
藤﨑さんは入学前の2022年3月頃からSNSを駆使して部員の勧誘活動をスタート。志岐有香さん(3年)も、このSNS投稿を目にして明大女子硬式野球クラブに入部を決めたメンバーのひとりだ。
「私は小学2年から6年まで野球をやっていて、中学・高校ではソフトボール部。大学入学後は他の文化系サークルに入っていました。ツイッターで大学に女子野球クラブができるというのを知ったときは『やりたい!ラッキー!』って思いましたね。新しいコミュニティができるのも楽しみでしたし、大学でまた野球ができるうれしさがありました。
高校時代の友達はまさか私が大学で野球をやっているとは思わなかったようで、明治女子野球部のインスタグラムを見つけた友人から『めっちゃ似てる人写ってるけど』って連絡が来ました(笑)」(志岐さん)
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志岐有香さん
藤﨑監督と学科が一緒で、学内で“スカウト”されたという冨田梨紗さん(1年)は中学・高校とソフトボールの経験者。
「大学では運動をする気はなかったんですけど、藤﨑さんとたまたま話す機会があって『ソフトボールやってたんです』って言ったら、『女子野球、興味ない?』って。それで入ってみようかなと思いました」(冨田さん)
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冨田梨紗さん
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いつか東京六大学で女子野球リーグを
現在、明大女子野球クラブのメンバーは12人、スタッフらを合わせると約20人が参加している。野球やソフトボールの経験者は数人で、大半が未経験者だ。細田恵実子さん(1年生)も、大学から野球を始めた初心者だ。
「小学生のときから生粋のジャイアンツファンで、ずっと観戦するほうが好きでした。野球をやりたいと思っても機会がなくて中高はバスケ部。野球部はあっても男子しかいないし、『野球は男子がするスポーツなんだな』と感じていました。
大学に入ってからインスタで、女子野球部をつくるという投稿を見つけて、藤﨑さんにすぐメッセージを送りました。まだまだ創部したてで練習する機会も少ないですけど、楽しいですね」(細田さん)
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細田恵実子さん
経験者だけでなく初心者の入部も大歓迎だという藤﨑さん。
「ずっと野球をやってみたかったけど周りに環境がなかったという細田のような学生が大学から野球を始める。そういうきっかけになりたい思いが強いです。決して勝ち負けだけを求めているわけではないので、野球経験の有無も、上手下手も全く関係ないです」
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マネージャーとしてチームを支える林さん
現在はまだ「非公認サークル」の女子野球部クラブだが、まずは2年間の活動実績をつくることで「公認サークル」への昇格を目指す。体同連(サークルと部活の中間に位置するクラブ)や体育会として認められるには、さらに10年間の活動実績が必要になる。
練習は週3回。明大生田キャンパスのグラウンドで、藤﨑さんも選手として所属している体同連の生田硬式野球部と一緒に行っている。
キャッチボールや生田硬式野球部のバッティング練習に混ざって打つという基本練習が主だが、キャンパスが違うメンバーもいるので、女子部員が全員そろう日は少ない。道具などもそろっているわけではなく、独自では十分な練習ができないのが現状だ。
「『試合に勝つ』よりも前の話になっちゃうんですけど、まずは練習できる場所や環境を確保して、明治女子野球クラブとしての活動をもっとやっていきたいです」(細田さん)
「9人でポジションを決めるというのもまだできていないので、だいぶ先になるかもしれないですが、いつかは試合にも出てみたいです」(冨田さん)
「全国大会である日本大学女子野球選手権に出場することがまず第一歩ですね。20年後、30年後になるかもしれないですが、ゆくゆくは六大学で女子野球部リーグができて神宮球場で試合をするのが夢です」(藤﨑さん)
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高校生から「目標ができました」との連絡
明大に女子野球クラブができたことで、中高校生やその親から「目標ができました」「明治大学を受けたいです」という連絡が寄せられているという。
「高校選択の時点で『勉強か、野球か』となったとき、将来を見据えて高校で野球をやめてしまう女の子が、特に埼玉県などの首都圏で多いそうです。このクラブができたことで、明大を目指して実際に受験してくれた子もいました。ひとりの人生を変えた出来事で、まさに『お金で買えない価値』が生まれたということ。本当にうれしかったです」(藤﨑さん)
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女子野球の経験者が増えていけば、将来母親になったときに子どもに野球を勧めることで野球人口が増えていくことにもつながるはず、と期待を寄せる藤﨑さんは、さらに思いを込めてこう語る。
「読売ジャイアンツ女子チームの初代監督に就任した宮本和知さんが『父親と息子のキャッチボールを、母親と娘のキャッチボールに変えていきたい』とおっしゃっていたように、これから『甲子園に出たお母さん』『明治大学で野球部だったお母さん』を増やしていくことで、少しずつでも野球界に貢献していきたいと思っています」
取材・文/堤 美佳子
撮影/是永日和
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