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Z世代との関係性に悩む30~50代会社員へ―「すべての会社員の最大の目的は『上司を満足させること』ではありません」

集英社オンライン / 2022年12月22日 10時1分

約1000日間、比叡山の山中などを祈りながら歩き続け、9日間断食・断水・不眠・不臥で不動真言10万回を唱える「堂入り」など、過酷さで知られる千日回峰行を達成した光永圓道さん。幾多の苦行を達成した僧侶に、一般市民が抱える悩みをぶつけてみた。

若手社員がなかなか成長しなくて、物足りない

40歳男性(埼玉)テレビ局勤務・Eさんの悩み

部下との距離感で悩んでいます。いわゆるZ世代の若い社員と仕事をすると、インターネットの普及で様々な情報を持っているからか優秀でソツなく仕事をしてくれるのですが、一方で意外性のある仕事やびっくりするような仕事が出てくることはありません。



コロナ禍ということもあり、なかなか飲みに行ったりなどのコミュニケーションもとりづらく、会議や打合せで少し発破をかけると委縮してしまい、個別でのメールなどはパワハラ防止のため抑制されています。

私が入社した頃は上司からは“可愛がり”のような仕事を振られることも多く、鉄拳制裁もよくあることでした。部下のことを物足りないと思ってしまうのは、もはや私の時代錯誤なのでしょうか

お坊さんの世界でも世代間ギャップが…!?

まったく他人事とは思えません。若い皆さまとの距離感の難しさについては、47歳になった私自身も考え込んでしまうときがあります。1990年中盤から2010年代の生まれを「Z世代」と呼ぶのだと、編集者の方から伺いました。ということは、20代前半の社員の方を指すのでしょう。40歳のあなたとは、ひと回り以上離れていますね。

私は、東京の中学校を卒業した直後に、無動寺谷・明王堂の小僧になりました。15歳のときです。世間では誤解されることも多いですが、「お寺の小僧さん」は、必ずしも「お坊さんの卵」ではありません。小僧さんは、お坊さんの前段階ではなく、厳密には「別の職域」なのです。

天台宗の場合でいえば、比叡山の行院(修行道場)で決まったカリキュラムを履修することが、僧侶になるための条件になっています。つまり形式の上では、お寺で小僧生活を送らなくても、行院でカリキュラムさえ履修すれば、お坊さんになれるわけです。他方、どれだけ一所懸命に小僧生活に取り組んでも、行院に通わないかぎり、その方は5年経っても、10年経ってもお坊さんにはなれません。

ただし、その方がそもそもお坊さんになりたいと望んでいらっしゃらない場合には「なれません」という言い方は、本質からズレてしまってます。実際、すべての小僧さんがお坊さんに「なりたい」と願っているわけではありません。お坊さんを目指すのではなく、きわめて立派で、誠実な「一流の小僧さん」として30年以上にもわたって、さるお寺に勤める小僧さんもいらっしゃいます。

アラフォーとZ世代で「最大の目的」を共有すること

こうした点から考えると、自分が「年の離れた小僧さん」との距離感に戸惑ってしまう原因は、私が住持するお寺に住み込んでくれた幾人もの小僧さんたちもまた、必ずしも「千日回峰行の行者を目指しているわけではない」という、そもそもの前提の食い違いが原因のひとつとして考えられると思い当たりました。

もちろん当初、15歳で比叡山にお世話になった私自身の目的も「行者」ではありませんでした。私が小僧生活を始めた明王堂は、千日回峰行の拠点です。師僧の覚道阿闍梨は千日回峰行を行じていらっしゃる只中でしたが、私は数年ほどお世話になったら、お坊さんにはならずに山を下りて、世間に戻ろうかとさえ考えていたのです。

それでも、お寺の場合、僧侶であれ、小僧さんであれ、「仏さまにお仕えする」ということ、つまり「最大の目的」は一致しますので、その点についての「食い違い」は許されません。ですから、師僧や先輩の小僧さんから叱られる際にも、その理由が「仏さまに対する無作法」であれば、自然と叱責も受け止められました。

さて、会社(会社員同士の上下関係)の場合はこの点、つまり「最大の目的」が問題をややこしくしているように思います。あなたと「Z世代の若い社員」がしっくりいかない原因は、おふたりが「最大の目的」を共有できていないからではないでしょうか。

すべての会社員の目的はひとつ、それは…

最初に強調して申し上げますが、目的を共有できていないのは「若い社員」ではなく、おそらく、あなたの方です。少なくとも、寄せて下さった文面から、私はそう受け取りました。あなたは「物足りない」という言葉をお使いになっておられますが、同時に「優秀でソツなく仕事をしてくれる」ともおっしゃっています。

優秀でソツなく仕事をしてくれるなら、人物評価としてはまったく何の問題もないはずですが、物足りない。その理由は「意外性のある仕事やびっくりするような仕事」が出てこないから――もう、この時点で「主格」が変わってしまっていることに、お気づきになられましたか?

「優秀でソツがない仕事」の主格(評価する立場/主体)は、「会社」です。ところが「意外性があり、びっくりさせられる仕事」の主格は、会社ではありません。「あなた」です。優秀、ソツがないというのは業績に対する評価ですが、意外に思ったり、ビックリするのは「あなたの気持ち」に過ぎません。

しかし、すべての会社員の方々は「(同じく会社員である)あなた」のために存在するのではなく、「勤務する会社」のために存在しています。その最大の目的は「あなたを驚かせることや、満足させること」ではなく、「会社に利益をもたらすこと」でしょう。

ひょっとすると、あなたが抱えるストレス(物足りなさ)は、若い時分に「あなたが(上司に)されたこと」を、「今度は、自分が(部下に)してみたい」という願望が叶えられなくなってしまった現状に発している可能性があります。

あなたが「物足りない」と感じている相手は「若いZ世代の社員」ではなく、実のところ、かつて目標とした「年上の理想像」をまだ体現できていない、あなた自身なのでは?

あなたが寄せてくださった文章からは、自覚も垣間見えます。本当は、どうすべきなのかも分かっていらっしゃるのではありませんか。

取材・文/山田傘 写真/黒石あみ

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