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【画像多数・W杯検証】「スタジアムが丸ごと海上に」「外壁全体がモニター」…12年前にカタールがブチ上げた“トンデモ計画”は実際どれだけ実現されたのか?

集英社オンライン / 2022年12月19日 16時1分

アルゼンチンの劇的な優勝で幕を閉じたW杯2022。開催国カタールは近年、急速なスピードで発展し、今大会では近未来的なスタジアムも数多くお披露目されたが、実は12年前の招致段階ではもっと“トンデモナイ”ものができあがる予定だったとか。それらがどこまで実現したのか検証してみた。

12年前は「いくらなんでも無理でしょ」と思ったが……

ここに一冊のパンフレットがある。

表紙に描かれているのは、元アルゼンチン代表のガブリエル・バティストゥータ。さらにページをめくれば、彼の他にも同じ「招致アンバサダー」の肩書きで、ジネディーヌ・ジダン、ジョゼップ・グアルディオラら、元世界的スター選手の顔が並んでいる。

このパンフレットが何かと言えば、2010年12月にスイス・チューリッヒで開かれたFIFAコングレス、すなわち2022年ワールドカップの開催国を決定する会議で配布されたプレス資料。カタールが「我が国でぜひワールドカップを開催させてほしい」とアピールするために作られたものだ。


12年前、これを初めて見たときの率直な感想は、「いくらなんでも無理でしょ」というものだった。すでにカタールには何度も取材で訪れていたが、2010年当時のカタールは徐々に近代的な発展が進んでいたとはいえ、依然としてまだまだ素朴な、悪く言えば何もない国だったからだ。

にもかかわらず、このパンフレットには壮大な“夢の世界”が記されていた。
曰く、「ドーハを中心に地下鉄網を張り巡らせ、すべてのスタジアムに地下鉄でアクセスできるようにする」。また曰く、「試合会場として12のスタジアムを用意し、スタジアム内は冷房完備。大会後、一部のスタジアムは解体、あるいは規模を縮小することで、建設資材は再利用できる」など。

当時のドーハと言えば、地下鉄は存在せず、スタジアムにしても小規模なものがほとんど。そんな現実を無視するかのように、さながら未来都市を思わせるスタジアム完成予想図が多くのページを割いて描かれていたのである。

大会開催はまだ先とはいえ、それでもたかが12年。その間に、こんな設備が本当に整うのだろうか――半信半疑というより、ほぼ疑いだけを持ってこの資料に目を通していたのだが、その後の投票でカタールはワールドカップ開催国に選ばれ、(選考過程での不正疑惑を指摘されながらも)実際に大会の開催に至ったわけだ。

そこで、中東初開催のワールドカップが幕を閉じた今、12年前のアピール資料をあらためて見直し、どこまで夢の世界が実現したのかを確かめてみたい。

巨大な宇宙船が舞い降りたようなスタジアムも

まずは、地下鉄網だ。12年前のパンフレットに載せられた「ドーハメトロ」の計画図を見ると、ドーハ中心部をハブとして広く細かく張り巡らされているのがわかる。

だが、現在の状態はというと、この図に記された路線のうち、主要路線の中心部分が完成したに過ぎない。すべてのスタジアムに地下鉄でアクセスできるというのが、12年前のアピールポイントのひとつでもあったのだが、実際は全8会場のうち3つのスタジアムが地下鉄駅からバスに乗り換えなければならなかった。

12年前は地下鉄の影も形もなかったことを考えれば、ここまで整備されたことは十分驚きに値するが、当初予定していたものにはならなかったというのが現実だ。

また、大会の顔とも言うべきスタジアムに目を移すと、12年前の資料で示された完成予想図がとにかくスゴかった。

スタジアムが丸ごと海上に突き出し、ボートでアクセスできるようになっているものもあれば、巨大な宇宙船が舞い降りたようなSFチックなものもあり、よくも悪くも非日常的。当時は「こんなもの、本当に作れるの?」と思ったものだが、果たして12年後の現実はどうだったのだろうか。

まるで未来都市を思わせる12年前のスタジアム完成予想図

12年前に使用が予定されていたスタジアムの数は12。実際に今大会で使われたスタジアムの数は8。まずは単純に、数の上でも4つ減っている。しかも、スタジアム周辺に殺風景な荒野が広がり、12年前に描かれていた夢の世界とは大違い。そんなスタジアムがいくつかあったことも確かな事実だ。

スタジアムの外観にしても、中東風のランタンやアラブの人たちがかぶる帽子をイメージしたものなど、近未来的というよりはむしろ伝統的なデザインを取り入れたものが多く、デザインコンセプトは大きく方向転換された印象を受ける。

スタジアムの「外壁全体がモニター」に⁉

とはいえ、さすがにすべてが完成予想図通りとはいかないまでも、8つのうち7つがサッカー専用のスタジアムで、急傾斜がつけられたスタンドからはピッチの眺めも抜群。むしろ12年前の計画が突拍子もなかっただけで、サッカー観戦には十分な施設が揃っていたと言っていい(その裏で、外国人労働者の過酷な労働環境が問題にもなったわけだが)。

例えば、ブラジルがクロアチアに敗れた準々決勝が行われた「エデュケーションシティスタジアム」。この会場周囲には、大学やコンベンションセンターなどの施設が作られていたが、それは当初からの計画通り。何よりスタジアムの外観が、12年前の資料に描かれた完成予想図とほぼ合致している、極めて稀なスタジアムである(12年前の資料でも、すでに「Education City Stadium」の名称で計画されている)。

「エデュケーションシティスタジアム」の完成予想図

実際の「エデュケーションシティスタジアム」

あるいは、日本対コスタリカの試合が行われた「アーマド・ビン・アリスタジアム」。このスタジアムは夜になると、外壁全体にその日の試合の対戦国の国旗が映し出されていたのが印象的だったが、実はこれも当初の計画に準じたもの(12年前の資料では、予定名称は「Al-Rayyan Stadium」)。

色鮮やかな「アーマド・ビン・アリスタジアム」の外観

厳密に言えば、外壁全体がモニター画面となって試合映像などを映し出せるようになるはずだったが、さすがにそこまでは至らずとも、十分にインパクトのある外観だった。

12年前の計画では、外壁全体がモニター画面となっていた「アーマド・ビン・アリスタジアム」

さらに言えば、ワールドカップで使用されたスタジアムの解体や縮小は実際に行われるらしく、そのひとつがドーハ湾岸に建てられた「スタジアム974」である。コンテナを活用した外観が独特で、大会中はその姿が人気を博した会場だが、それも今大会で見納めとなる。

あたり一帯が金ピカに光り輝くスタジアム

「スタジアム974」の外観

ちなみに、12年前の資料では海上都市さながらに描かれている「Doha Port Stadium」について、「大会後には完全に解体される予定」と記されている。つまりは、「Doha Port Stadium」がいつしか「スタジアム974」に変わったということだが、そのデザインもずいぶん変わってしまったものである。

計画段階では海上都市さながらのデザインだった「スタジアム974」

12年前のトンデモ計画は、今振り返ってもやはりトンデモ計画だったわけだが、しかし、2010年当時は砂埃舞う荒地だった場所にいくつもの巨大スタジアムが完成したことを思えば、単なる絵空事だったとばかりも言い切れない。

大会のクライマックスを飾る決勝戦が行われたのは、周辺の建物も含めてあたり一帯が金ピカに光り輝く「ルサイル・スタジアム」。贅を尽くして大会を開いた、カタールらしい締めくくりだったのではないだろうか。

決勝戦が行われた「ルサイル・スタジアム」

取材・文/浅田真樹

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