【本日最終回】ドラマ『silent』村瀬プロデューサー「最終回直前なので言いますが…」
集英社オンライン / 2022年12月22日 14時1分
フジテレビにて木曜22時に放送中のドラマ『silent』。同作の仕掛け人ともいえるプロデューサー村瀬健氏に『silent』が注目を集める理由や、彼自身のコンテンツ作りの原体験を語ってもらった。
ドラマ『silent』の盛り上がりは、SNSでのトレンド入りや、民放公式テレビ配信サービス「TVer」での累計再生回数を更新し続けていることからも見て取れる。特に印象的だったのは「TVer」でのみ配信された、本編内では描かれていない「4話エピソード0~紬と想と湊斗、8年前のある出来事~」だ。
これについてプロデューサーの村瀬氏に聞くと「実は4話の冒頭シーンだった」と教えてくれた。なぜ、本編に入れず、TVer限定公開という手法を取ったのか。前編では、ドラマ愛溢れる村瀬Pの原体験やキャリアとともに、話を聞いた。
本編の1シーンをTVer限定公開した理由は
――とうとう最終回を迎える『silent』は、TVerとの相性がいいですね。視聴率でヒットを語られることが多かった中で、斬新だなと思いました。
TVerに関しては、放送前から狙っていました。そこには『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(以下、『いつ恋』)のときの経験があります。今でこそ名作だったと語られる『いつ恋』ですが、当時は月9最低視聴率をマークした作品だったんです。
それが、放送終了から6年経った今でもTwitterのフォロワーは11万人が残ってくれていますし、FODの視聴ランキングでも常に上位にランクインしているんです。それを見て「ドラマはリアルタイムで見るだけでなく、何度も再生して見るという文化が根付き始めているな」と学びました。
それにラブストーリーって大人だけでなく、高校生、大学生はもちろん、小学生や中学生も少し背伸びして見たいものじゃないですか? だから、テレビを持っていない中学生・高校生・大学生がスマホで見ることも想定していました。
――「エピソード0」をTVer限定配信としたのも、そういう理由なのですね。
そうです。もちろん地上波でも見てもらいたいと思っています。でも、テレビを持っていない層を置いてけぼりにするのは違うなって思った時に、TVer限定で配信するエピソードがあるというのは、これ以上ない武器になるし、エピソード0をきっかけに再生回数が増えることもあるんじゃないかと淡い期待も持っていました。
――「エピソード0」は、これまでのスピンオフドラマに多かった“おまけ”的な立ち位置というよりも、見ると見ないとでは本編の印象がガラリと変わる内容だなと感じました。
もう最終回直前なので言いますが、実は「エピソード0」というのは第4話の冒頭だったんです。ただ、4話を編集してみたところ、尺が長くてですね…あのシーンを入れてしまうと、湊斗(鈴鹿央士)と想(目黒蓮)のロッカールームのシーンが60分の枠の中に入りきらなくなるという事態が起きてしまい……。それで、冒頭の数シーンをまるまるTVer限定で出したらいいんじゃないか、というアイデアを思いつきまして。
スピンオフのために撮影したシーンではないので当然なのですが、完璧に“本編クオリティ”ですし(笑)、光(板垣李光人)が想より湊斗のことをよく思っている理由を描いているので、本編を見る印象が変わるのだと思います。
――今回『silent』がTVerでの累計再生回数やお気に入り登録者数の記録を更新し続けているのを見て、ヒットの指標が視聴率以外にもあるのだなと実感しました。
そう言っていただけるとありがたいです。
『silent』は、地上波ドラマでありながら視聴率ではなくTVerでの再生回数で「大ヒット」と言われる記事が多く出ました。その意味でもヒットの新しいものさしを作れたんじゃないかなと思っていますし、世の中から新しいヒットの形を認められた気がして、すごくうれしいです。
夢と現実、両方を手に入れるために選んだテレビ局
――ちなみに村瀬さんはフジテレビの新卒採用ではなく、大学卒業後は日本テレビに入社したそうですね。テレビ局に興味を持ったのは、なぜなのでしょう?
大学時代にバンドを組んでいて、わりと本気でプロになりたいと思っていたんです。その傍ら、映画サークルではシナリオを書いたり、劇団で音楽を作っていたり……。将来はそういうものでプロになれたらなと思っていました。
でも、大学3年生になったあたりで「俺、そこまでの才能ないんじゃないか」と気づいてしまったんですね。その上、高校の頃に父親が借金を残して死んでしまったので、もしも僕が大学卒業後に夢を目指して成功できなかったら、僕の人生はともかく母親はどうなってしまうんだろうと考えてしまいました。でも、夢は捨てられなかった。そこで安定と夢、どちらも叶いそうな道はないかを探した時に、テレビ局が思い浮かんだんです。
――テレビ局の総合職の場合、ドラマの制作以外に、バラエティや報道、音楽などいろいろな選択肢があると思います。その中で、一番やりたかったことは?
当時からドラマに携わりたかったですね。僕が入社した頃の日本テレビはだいたい40名くらい採用されて、そのうち10人くらいしか制作には進めなかったのですが「絶対に制作に行く!」と意気込んでいました。
もちろん僕以外にも制作に行きたい同期は多かったですね。だから、研修期間中に出されたキャッチコピーを作る課題とか、企画を考えてみる課題を研修としてとらえず、本気で挑んでいました。今でも同期とは仲がいいのですが、当時の僕は「絶対負けない!」と1人だけバチバチに燃えていたので、周りから見たらうっとうしい存在だったと思います(笑)。
――課題としてではなく、自分をアピールする場として捉えていたのですね。結果、どうなったのでしょう?
ありがたいことに制作へと進みました。当時の日テレでは、1年目からはドラマの制作に行けないシステムになっていたこともあり、まずはバラエティ番組につきました。1秒でも早く現場に行って経験を積みたかったので、ありがたかったですね。
ただ、今思うとそんなに焦らなくてもよかったなとも思います。ドラマ志望でありながら、営業や他の部署に回った同期もいたのですが、何年後かにドラマにやってきた人もたくさんいましたし。
ドラマ好きになった原体験は「北の国から」
――入社当時からドラマに携わりたいと思っていたとのことですが、なぜドラマがよかったんでしょうか?
高校生の時に『北の国から』のスペシャルドラマを見て衝撃を受けて、そこからレンタルビデオ屋に行って、スペシャルドラマシリーズになる前の連続ドラマの初回から全部見たんですよ。ものすごい衝撃を受けました。五郎さんや純くん、螢ちゃんが本当にこの世界にいるんじゃないかと思わせるような、あのリアリティがすごく好きで。
現在放送中の『silent』では世田谷代田 、(2016年に放送した)『いつ恋』では雪が谷大塚に思いを馳せてくださるファンの方が多いのですが、それは僕が『北の国から』を見た時に感じた「富良野に行ったら、純くんと螢ちゃんがいるかもしれない」と想像した経験が元になっている気がします。
――なるほど。『北の国から』はフジテレビのドラマですが、就職活動中、フジテレビは受けなかったのでしょうか?
もちろん受けました。でも、落ちました。当時全盛期だったトレンディドラマよりも、『北の国から』に熱を持っていた僕はズレていたのかなと。「『北の国から』みたいなドラマを作りたいんです!」と語れば語るほど、面接官との間に溝が生まれていたのかもしれません(笑)。
――そうだったんですね(笑)。日本テレビではドラマ『14才の母』(06年)で社会現象を起こした村瀬さんですが、フジテレビに転職したのはなぜだったのでしょうか?
会社に不満があったとか、そういうわけでは全くないんです。日テレでドラマを何本かプロデュースさせてもらって、違う場所で自分の力を試してみたくなったんですよね。当時のフジテレビドラマは圧倒的に強かったですから。キャスティング力もあり、お金と時間をたっぷり使って豪華な作品を作るフジテレビという場所で、日テレで鍛えられた企画で勝負する力を発揮してみたいなと思ったんです。
きっと、僕のようなドラマの作り方をする人がフジテレビにはいないだろうから、もしも活躍できたらおもしろいんじゃないか。そして僕自身もフジテレビでドラマ作りを学びながら、誰も作ったことのないドラマ作りにチャレンジしたいと思ったんです。
取材・文/於ありさ 写真/石田壮一
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