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【本宮ひろ志×江口寿史】「僕がエロ漫画描くとヤバいんです、エロすぎるから。でも描いたらお見せします、本宮先生に」レジェンドが語る漫画と女とエロ

集英社オンライン / 2023年1月1日 9時0分

同じ千葉県出身、かつ「週刊少年ジャンプ」の大先輩としてリスペクトしてやまない漫画家・本宮ひろ志に江口寿史が自らトークイベントでの対談をオファー。漫画論をぶつけあった前編に続き、後編では両者にとっての女性とエロについてのトークをお届けする。

#1本宮ひろ志×江口寿史が語る漫画との真剣勝負はこちら

本宮先生の漫画は女性がエロいですもんね〜(江口)

本宮ひろ志(以下、本宮) 江口さんはこれだけずっと女を描けて、じゃあ女が好きかっていうことなのよね? それで、好き?(笑)。

江口寿史(以下、江口) 好きです(笑)。

本宮 もう俺の年になるとね、そういうの何も感じなくなって。

江口 早くその境地に到達したいです。

本宮 いやいや、すぐですよ。

江口 煩悩が一つ消えるってことは、一つ楽になれるのかな、みたいなのはありますね。
(脚本家の)山田太一先生もそういうことを書いてましたよ。70過ぎたら女性を性の対象として見ることが一切なくなって、それはそれでとても新鮮だって。
でも、そうなったら僕は絵を描かないかもしれないですけどね(笑)。煩悩があるから描けてるのかもしれないですけど。

本宮 俺なんかは、大事なものにこだわることをみんなやめちゃうんですよ。

俺、顔を描くのは好きなの。でもそれを鉛筆で下絵から描くのはもう面倒くさいし大変だし時間かかるんで、全部人にやってもらうの。顔だけ自分で描いて、あとはうちのスタッフに頼むんです。

例えば俺が女(キャラ)なんて描けるわけがない。そうすると、うちのかみさん(もりたじゅん氏)も漫画家だから、「女の絵の下描きをやってよ」って言ったらさ、やってくれないよね、そりゃ。でもあるときからやってくれるようになって。だから俺、時折、女の絵が巧くなってるの(笑)。

江口 本宮先生の漫画は女性がエロいですもんね〜。

本宮 例えば『サラリーマン金太郎』(1994〜2016年、数度の休載期間をはさみつつ発表)を描いてるときに、こういう女を描こうとイメージして決めてたんだけど、かみさんとケンカしちゃって描いてくれなくなっちゃったの。
それでアシスタントに女の子がいたから「ちょっと、女キャラの下描きしてくれ」って描いてもらった女に、金太郎が全然惹かれないんだよね。なんなんだろうと思って。

それでかみさんに「ごめん、原稿料で割り切ってくれ」と言って、金太郎の奥さんになる美鈴っていうのを描いてもらったの。そうしたら、「え?」っていうぐらい金太郎が“いく”のよ。

何が違うんだろうと思って聞いたら「あんたバカだね。ただ鉛筆で絵を描くだけじゃなくて、この女の脳みそも描くの」って言われたとき、「ああ、そうですか」と。
それで金太郎は美鈴と結婚して話が進んでいくんだけど。

江口 美鈴さんには心が入ってるんですね。下描きするとき、脳も描くってすごいですね。いただき(笑)。

何も描くことがなくて困ったら、エロ、おばけ、暴力(本宮)

本宮 だから俺は楽なことしかしてないんですよ。

江口さんは今、女はどういう描き方してるわけ?

江口 自分自身が“いく女”をイメージして。「こんなんじゃまだいかない」って(笑)。
そこは粘りますけど、「脳を描く」っていう言い方はすごく腑に落ちました。

僕はその人の生活もまるごと描こうとしてます。直接絵には描くわけじゃないけど、その人が営んでいるであろう生活をまるごとイメージして。

本宮 何も描くことがなくて困ったときっていうのは、エロ、おばけ、暴力、この三つが一番手っ取り早い。

「週刊プレイボーイ」という雑誌があって、「そこで連載やれ」って言われたときに、それまで俺ずっと子どもの漫画を描いてたわけだから、エロが解禁されるわけ。そこで頭にボーンと浮かんだのは、やっぱりエロ漫画を描こうっていうことなんですよね。
それまでのエロ漫画には、いわゆる日活のポルノ映画の女優みたいなのばっかり出してるから。そうじゃなくてアイドルを片っ端から脱がしちゃえばいいじゃんと。楽しめたね、あれは。

江口 『俺の空』(1976〜1978年)、これも一世を風靡した漫画でしたね。

本宮 比喩としてのポルノ女優を使ったような描写じゃ、それまでのエロと同じだからっていうんで、アイドル系のかわいい女のコを登場させた。

かみさんには、少女マンガに出てくるようなかわいい女のコの下絵を描いてもらったんですよ。それがまぁ、大学生以上の男子にはちょっとは読んでもらえるかなと思って描いたんだけど、蓋を開けたら高校生の女の子が回し読みしてたんだよ。これは勝ったと思ったね(笑)。

ギャグはカミソリだよ(本宮)

江口 素晴らしい。
ところで先生はしょっちゅう、漫画はもう嫌だとかやめるとか発言されていますけど、いまだにしっかり描いてらっしゃるじゃないですか。そのモチベーションはどこから来るんですか? 
いまだにヤンジャン(「週刊ヤングジャンプ」)とか、そうした場で描いてらっしゃるっていうのはすごいことですよね。

『やぶれかぶれ』の頃しかり、本宮先生の漫画以外のアンテナというか発想力というか、そういうセンスも含めてすごいスリリングに見てましたけどね。漫画界にそんな人、あんまりいないじゃないですか。

本宮 体質的に漫画家じゃないよね。

江口 いつももっと先を見てらっしゃるというか。最初にお会いしたときに僕のギャグ漫画のことを褒めてくれたんですよね。

「ストーリー漫画はナタでぶっ叩くようなもんだけど、ギャグはカミソリだからね。大変だと思うよ。だから俺はギャグ漫画家は尊敬してんだ」って言われて。わあ、すごいな、この人わかってらっしゃるなと(笑)。

それが次にお会いしたときに、「ちょっとカミソリ鈍ったんじゃねえか?」って(笑)。

本宮 カミソリは切れなくなるの、あっという間だからね。

江口 そうなんですよ。それ言われました(笑)。

本宮 鳥山明さんにはね、「あんた、日本刀だよ」って言って。「でもな、日本刀はすぐ押入にしまっちゃうから気を付けたほうがいいぞ」って。それで、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の秋本治さんが「俺は何ですか?」って言うから、「おまえは生活必需品だから、ナタだな。だから長持ちするよ。切れ味は鈍いけど長く使えるんじゃないか」って。

じゃあ、本宮さんは何ですか?って聞かれたから、「俺なんか刃、付いてねぇ丸太だ。殴り飛ばすだけ」って(笑)。

江口さん、思い切ってエロ漫画描いてみれば?(本宮)

本宮 60代ぐらいの頃はまだいろんな愚痴を言うわけですよ。ところが70代半ばになってくると、その愚痴が全部本物になってくるわけ。これ80いっちゃったら、あとは死ぬまでの時間になってくるわけでしょ。そうすると、例えばあと5年しかないんだよなっていうことになるんだから、楽しいことを探すっていうのは一番重要ですよ。
それは例えば女のコの顔描くことが楽しいんだったら、そこをどんどんやりなさいって。

江口 時間がなくなってくるのは実感しますね。

本宮 江口さん、大事なことはみんな捨ててさ、もう一回漫画描いてみるとか?

江口 それもいいですね。多分エッセイで読んだと思うんですけど、60近くなってから漫画を描くのが楽しくなったとおっしゃってましたよね?

本宮 それは漫画を遊び道具にして、身に付き始めた頃だと思う。

江口 今はないんですか。

本宮 それも消えてきてるから、いよいよ終わりかな、とか思いますけど。漫画っていうのも考えようによっては遊び道具のときは楽しいんですけど、それを「描かなきゃ」とか追い詰められると……。

江口 漫画はきついしかない。多分、楽しいと感じた瞬間はないかもしれないな。イラストもそんなに好きじゃない(笑)。
僕、決して絵を描くのが好きというわけではないんですよ。じゃあ何が好きかっていうと……ラブですかね(笑)。絵を描くのが一番の遊びになったら幸せでしょうね……。

本宮 俺の年になって感じるんだけど、もうね、女性とそういう行為してる最中、心の中では天井見て鼻くそほじってるから。そこもきちんと真剣な恋愛にいかない限りダメなんだよなっていうのは感じるけど、最近、正直言って女性を見なくなった。

江口 僕、まだすごい目で見ますからね(笑)。

本宮 なら、そこにどっぷり浸った方がいいですよ。

江口 異常なのかな。

本宮 思い切ってエロ漫画描いてみれば?

江口 エロ漫画は描くとやばいんですよ。多分エロすぎるから。自分で引くと思う。だから人に見せたくない。

本宮 エロすぎるエロっていうのは是非やってくださいよ。
江口さん、死ぬまでにもう一回漫画一本描いてみてよ。

漫画っていうのはスーパーマンばっかり描くのから始まってるんだけど、今のこういう状況だと、普通の生活者っていうのかな。もうスーパーマンを描く必要がないんだから。

最近、『グッドジョブ』(2018年〜)っていう、例えば消防署の職員だとかいろんな業種の人にスポットライトを当てて3回ぐらいずつで完結するのを描いたんだけど、こんなものダメだって言われてたのが、(電子版)配信のやつも結構売れたのよ。

江口 読者が若いんじゃないですか? 行き場がない感じの彼らにとって何か惹かれるものがあったんじゃないですかね。

本宮 是非、江口さんのエロ漫画見たいね。

江口 描いたらお見せします、本宮先生に。元気になっちゃったりして(笑)。

漫画家になって楽しかったのは最初の1年ぐらい(江口)

本宮 江口さん、40年以上前から女のコ描いてるじゃない? それが未だに描いてる女のコのかわいさは変わってないじゃん。すごいなと思ったのは江口さんが何十年も前に描いた絵と今の絵に妙なギャップがないっていうこと。大昔から感覚的にそういうことが目に入ってたんだと思って。

これだけイラストとして成立してるものが漫画で動き出したらすごいね。イラストレーターは漫画家になれないってさっき言ったけど、漫画家で唯一イラストを描けてる江口さんは、逆にイラストに近い躍動感のある漫画、これを描けたらすごいんじゃない?

江口 すごいと思います。自分でも見てみたいです。ただ、さっきも言ったように全部をこの絵で描いた漫画が本当に描けるかどうか。
漫画の描き方も変えなきゃいけないですよね。台詞減らしたりとか。なかなか難しいと思いますね。決めコマだけ描くとかね。

『すすめ!!パイレーツ』(1977〜1980年)の時は本当に絵のことは何も考えて描いてなかったから、一日で描き飛ばしてたなぁ。でもあのときは楽しかったのかもしれない。

漫画家になって楽しかったのは最初の1年ぐらいですかね。集英社の執筆者室にこもって描いてたときが一番楽しかったかな。ただ他に何もできないからな。他の仕事って考えたこともないし……後ろ向きなことばっかり考えちゃう。下描きを誰かがしてくれたらいいなと思いますね。

本宮 楽よ(笑)。下描きが出てくると「違うだろ、これ」とか思いながら、ペンを入れていって。そのときは楽しいですよ。

江口 それはいいな。

本宮 うまく女っぽい絵を描くコいっぱいいるじゃん。江口さんの下描きをそういう連中にやってもらって。

江口 僕の場合、そっくりな絵を描くイラストレーターもいっぱいいるので、やってもらおうかな。

本宮 やってみてダメだったりつまらなかったら、やめちゃえばいいだけのことで。

江口 そうですね(笑)。やりたいようにやるのが一番ですね。

#1本宮ひろ志×江口寿史が語る漫画との真剣勝負はこちら

企画展 江口寿史イラストレーション展 
「彼女 -世界の誰にも描けない君の絵を描いている-」

流山市を拠点とする「千葉パイレーツ」の活躍を描いた漫画『すすめ‼パイレーツ』や、『ストップ‼ひばりくん!』などで知られる漫画家・江口寿史(1956~)は、同時代の若者の音楽やファッションを取り込んだ作風などによって、その後の漫画のスタイルを変革し、多様なジャンルのアーティストに影響を及ぼした。
早い時期より作画への関心を深め、やがて音楽アルバムのジャケットや化粧品とのコラボなどによって、今や日本を代表するイラストレーターとして活躍中。
本展覧会では、江口の45年の軌跡を約500点の魅力溢れる作品で紹介する。

撮影/尾形正茂(sherpa➕)  取材・文/米澤和幸(lotusRecords)

©本宮ひろ志/サード・ライン
©本宮ひろ志/集英社
©江口寿史

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