「私ならMVPは大谷に投票していた」エンゼルス番記者が占う大谷翔平の「WBC」と「移籍」
集英社オンライン / 2022年12月22日 18時1分
今季、MVP獲得とはならなかった大谷翔平だが、エンゼルスの番記者で『SHOーTIME 大谷翔平 メジャー120年の歴史を変えた男』の著者でもあるジェフ・フレッチャー氏は「私なら大谷に投票していた」と断言する。その理由と、来年のWBC出場も含めた大谷の未来を占う。
ジャッジがMVPを獲得できた理由
――今季の大谷選手は、MLBでじつに104年ぶりとなる二桁勝利、二桁本塁打。しかも規定投球回数と規定打席をクリアしての偉業を成し遂げました。
もう本当、言葉がありません。そもそもひとりの選手が1シーズンで、投手として1勝、打者として1本塁打だけで、もはや偉業なんです。あとの数字は全部おまけみたいなものですよ。
――ご自身がジャーナリストとして活動している間、大谷選手のようなプレイヤーに遭遇できると考えていましたか。
いや、そんなわけないですよね(笑)。よくベーブ・ルース以来と取り沙汰されますが、ベーブ・ルース本人は二刀流をやりたかったわけではありませんでしたし、ましてや1シーズン通してやりきったことはないんです。当時とは野球のレベルがまったく違う現代において、私は大谷のほうがベーブ・ルースよりもはるかに偉大だと思っていますよ。
――今シーズンはヤンキースのアーロン・ジャッジとのMVP争いが議論の的になりましたが、フレッチャーさんはどのような見解をもっていますか。
もし私に投票権があったら迷わず大谷に入れていました。今季も誰も成し遂げたことのない数字を残したわけですからね。しかし、ジャッジの62本塁打もロジャー・マリスを超える大記録なわけです。
ひとつ大事なことはジャッジが所属するヤンキースはプレーオフに進出したチームであり、一方でエンゼルスはプレーオフには進めなかったチーム。私個人としてはそこにあまり価値を感じませんが、大部分の人は強いチームに重きを置いている。ゆえにジャッジのMVPだったと思います。
――大谷選手は10月にエンゼルスと1年契約を結びました。本人も「愛着のあるこのチームで勝ちたい」と語っていましたね。
10月に来季の契約を結んだのは、私たちとしては驚きでした。たいがいこの手の契約は年が明けた1月ぐらいにまとまるものです。エンゼルスに残ること自体に関して驚きはありませんが、とにかく決まるのが早かった。
まあ、互いに心配の種を早めに消しておきたいという狙いもあったでしょうし、大谷自身、去就が確定することでオフのトレーニングに集中できますからね。エンゼルスとしても、これで腰を据えて他の選手の獲得に動けるということで、両者にとって利害が一致したということなのでしょう。
――なるほど。実際エンゼルスは今オフ、積極的な補強をしていますね。
いい方向に行っているのは間違いないと思います。エンゼルスの課題は打撃ですが、すでにツインズから内野手のジオ・ウルシェラとブルワーズから外野手のハンター・レンフローをトレードで獲得しています。
また今季ドジャースで15勝を挙げた左腕のタイラー・アンダーソンが加入しますから、来季は期待できると思います。あとは中軸のアンソニー・レンドンがシーズンを通してプレーをしてくれれば、といったところですね。
「どの球団に移籍しても二刀流は継続される」
――そのエンゼルスですが、今年の夏には球団売却を進めているとの報道もありました。その後、なにか情報はありますか。
これはトップシークレットの事案なので、いったい誰が新オーナー候補で、売却金額がいくらなのか私もわかっていません。ひとつ言えることが、多くの人たちが2023年のシーズン開幕までに新オーナーが決まり、球団としての方向性を示してくれることを望んでいるということです。しかし、現時点ではどうなるかまったくわかりません。
――大谷選手は来シーズンオフにFA権を取得しますし、シーズン中のトレードも含め球団の方向性は気になるところですね。
そこはいろいろな可能性があると思います。ただ大谷が将来的にどの球団へ行ってもエンゼルス同様、二刀流は継続されると思います。投打ともにあれだけの成績を残しているわけですし、登板間隔など起用法はエンジェルスと異なるかもしれませんが、投打どちらかに絞るということはありえないと私は思います。
――なるほど。さて来年3月に開催予定のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に大谷選手が参加表明をしましたが、アメリカではどのように捉えられていますか。
誰もが喜び、興奮していますよ。まず大谷を大舞台で見られるというのがひとつ。もうひとつはチームメイトであるトラウトとの直接対決が見られるかもしれないのです。こんなエキサイティングな話はありません。私も今からすごく楽しみにしています。
――今回のWBCのUSA代表はトラウト選手、カー・ショー選手をはじめオールスター級の選手たちが顔をそろえています。
これまでアメリカはWBCに大物選手を派遣していませんでしたが、今回はまずトラウトが『出る』と宣言したことで、他の選手からも参戦の声がつづきました。メジャー最高の選手は誰かと言えば、トラウトだという人は多い。それぐらいトラウトの影響力はメジャーにあって大きいんです。
――実現すれば熱い同僚対決になりますね。まだ大谷選手の起用方法は決まっていませんが、DH限定での出場ではないかと言われています。
私も同意見ですね。もし先発をやるのであれば準備期間を前倒しにする必要があります。私が思うに、確かにWBCも大事ですが、彼のキャリアを考えたら、エンゼルスを勝たせることが最優先課題となるべきです。
そしてシーズンが終わったときにはFAになりますし、万全のシーズンを過ごし自分の価値を高めなければいけない。そういった要因からもDH中心になると考えています。
日本ハムファイターズの功績を忘れてはならない
――あと最近、アメリカの若い選手が二刀流を目指すことを公言したり、また球団もドラフトで二刀流の選手を獲得するなどしていますが、やはり大谷選手の影響力は感じますか。
もちろんです。大谷の存在によりメジャーの各球団の二刀流に対する評価は確実に変化しました。ただ、大谷と同じレベルで二刀流ができる選手が出現するのかといったら、そこは疑わしいですよね。過去100年間出現しなかった選手ですし、おそらく今後100年は出てこないと思います。
また選手育成のシステムというか、もし彼が高校卒業後に当時本人が希望していたようにアメリカに渡っていたら、絶対に二刀流にはならなかったはずです。
――マイナーで投打どちらか選択させられてしまった可能性が高いと。
そうですね。そういう意味で日本ハムファイターズの功績は大きいと思います。ファイターズが二刀流でプレーすることを容認したからこそ、現在の大谷がいるし、偉業を達成することができたと思います。これは断言できます。
――メジャー120年の歴史を塗り替えた大谷選手ですが、フレッチャーさんは、彼の未来をどのように見ていますか。
大谷が一番、希望していることはエンゼルスで勝つこと。彼ひとりの力では実現することは難しいのですが、チーム一丸となりぜひ悲願であるワールドシリーズ制覇をしてもらいたい。個人的な成績としては、もうすでに2年連続して偉業を成し遂げています。
ほとんどの人が来年も同様の結果を出すと当たり前のように捉えてしまっている哀しさはあるのですが、3度実現したらさらなる偉業、4度目ならば言葉に表すことのできないとんでもないことだということを皆さんには忘れてもらいたくないですね。
――まずはワールドシリーズ制覇ですね。
ええ。30球団ありますから至難の業だと思いますが、大谷のキャリアをより華やかなものにしてもらいたい。私自身、エンゼルスのシャンパンファイトを取材したいですからね。あれは見ているだけでも、本当に楽しいし幸せな気分になれるんですよ(笑)
取材・構成/石塚隆 撮影/村上庄吾 写真/AFLO
SHOーTIME 大谷翔平 メジャー120年の歴史を変えた男
ジェフ・フレッチャー (著), タカ大丸 (翻訳)
2022年7月12日
1980円(税込)
384ページ
978-4198654979
二刀流の「史上最高のメジャーリーガー」は、どのようにして生まれたのか?
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