還暦のアーチェリー五輪メダリスト・山本博「若い子たちとハンディなしで戦う場所を持っていることが刺激になっている」
集英社オンライン / 2022年12月25日 13時1分
「中年の星」こと、アーチェリーの2004年アテネオリンピック銀メダリスト、山本博が60歳になった。今なお第一線で競技生活を送り、日本体育大学教授や東京体育協会会長も務める還暦のトップアスリートは、自らが挑戦を続けると同時に、世の還暦世代にも伝えたいメッセージがあるという。
「招致よりも、まずはちゃんとした組織委員会をつくるのが先」
東京オリンピック・パラリンピックをめぐる汚職事件は、合わせて約2億円が賄賂と検察に認定され、大会組織委員会の元理事で電通出身の高橋治之被告と、大勢の企業経営者らが、東京地検特捜部に起訴され、捜査は一段落した。
しかし、今度はまた、東京オリンピック・パラリンピックのテスト大会をめぐる入札談合疑惑で、複数の広告代理店や企業の捜査が進み、全容解明が進められている。その中で動いていた2030年冬季オリンピック・パラリンピックの札幌市への招致活動に、山本は「反対」の意思を示していた。
「税金を使って開催するイベントを利用して、一部の人間が私腹を肥やしていたわけだから、そういうことが二度とできない仕組みづくりをした上でなきゃ、札幌市民や国民は招致を受け入れないでしょ。なのに招致の手助けをJOC(日本オリンピック委員会)がしているのはおかしいよ。
招致が決まったら、すぐに組織委員会が立ちあがっちゃうでしょ。東京オリンピック・パラリンピックで起きたことをまず清算して、日本がちゃんとした組織委員会をつくれることを示すのが先でしょう」
この言葉を追認するように、12月20日、札幌市とJOCは招致活動の当面休止を発表。大会組織委員会のガバナンス体制を検討し、広告代理店への委託業務のあり方を見直す方針も示した。
山本は商業主義がスタートした1984年ロサンゼルスオリンピックで初出場し、大金が注ぎ込まれるようになったオリンピックを間近で見てきた。
「1992年のバルセロナオリンピックの頃には、僕みたいな一選手にも、『IOC(国際オリンピック委員会)のサマランチ会長が大会期間中は高級ホテルの最上階を貸し切っている』とか、お金が一部の人のところに集まっているという話が耳に入ってきていた。
だけどみんな、ずっと見て見ぬふりをしてきたんでしょう。そういうことを指摘したら、自分たちの懐にも入ってこなくなりますから。
マスコミだってこれを叩かなかった。そもそもマスコミがスポンサーになるのはおかしいよね。今になって高橋被告の問題だとしてたたいているけど、本当はIOCやJOC、組織委員会の問題でしょう。なのに誰も責任取らない。組織委なんて解散しちゃっているし。本当に一過性のイベントは恐ろしいよね」
老化を遅らせる秘訣
色々な思いはあるが、オリンピックがアーチェリー選手にとって最高の舞台であることは、もちろん変わらない。還暦を迎え、パリ大会出場が絶望的になったが、次の2028年ロサンゼルス大会を語る。
「仮にパリに出て、ロサンゼルスを諦められるかといったら、きっと諦められない。最初に出たオリンピックの地ですから。今回、60代のスタートとしてナショナルチームに入れたらよかったけど、落選したから大幅にフォームや道具に手を加えられています。
選考会を通過していたら守りに入っちゃっていたでしょうね。ロサンゼルスのころ、第一線のどの辺にいるのか分かんないけど、体と心を整えていきたい」と退く気配はまったくない。
競技結果と同時に「社会にメッセージを伝えたい」という気持ちがモチベーションになっているという。
「アテネの時に『中年』を使ったのは、疲れている中間管理職のサラリーマンのみなさんに、40代って輝いて充実した年代なんだよ、と伝えたかったからなんです。その後、僕自身がうまくいかなくて、自分を立て直すことで必死だったんですけど、還暦を迎えてもう一度、発信していきたい。
還暦というのは日本人にとって大きな節目で、定年退職になる人もいて、老後資金を心配して、ややネガティブなイメージもある。そんな思い込みに僕は押し負けないようにしたい」
そう熱っぽく話す山本。
「現実的に、競技者としてオリンピックのメダルは遠のいちゃっているかもしれないんですけど、とにかく立ち止まらずに前に進むということをしたい。それは競技を続けること。苦しくて惨めな思いをしても試合に臨むことを僕ならできる。
これまで高校や大学の教員として二足のわらじで競技を続けてきた。今思えばそれがよかったんだけど、もしかしたら65歳の定年退職後に僕を選手として応援してくれる企業が現れたら、人生で初めてフルタイムで競技に専念できるかもしれない…とかって夢を膨らませています。
そうすると、ネガティブな気持ちがどんどん排除されて、自分の中でいいイメージが湧いてくる。同世代の皆さんと同じように老化はしていますよ。
ただ、僕が多くの皆さんと何か違っているとしたら、若い子たちとハンディなしで戦う場所を持っていることでしょうね。それは年寄りには辛い環境なんだけど、逆に強い刺激となって老化を遅らせてくれているのかもしれない」
「僕はアーチェリーの愛好家ではなく、競技者」
中学生の部活動でアーチェリーに出会ってから競技生活は半世紀に近くなってきた。
「マイナー競技で、教師という職業で飯を食いながら、自分でやりくりして自由気ままにやってきたから、肩書きとかに左右されずに好きなことが言える。
山本は子供だ、もう少し大人の振る舞いができないのかと思う人もいるかもしれないけど、それでも正直にオリンピックでもJOCにも、いいことはいい、悪ことは悪いと言いたい。それに、マイナー競技だから現役を辞めたら発信力がどんどん弱まっちゃう。そのためにも現役を続けたい。
ただ、全日本選手権に出場できなくなったら、引退を考えるかもしれません。僕はアーチェリーの愛好家ではなく、競技者なんです。なので全日本出場は僕自身の中で最低のハードル。来年の出場権は獲得済みなので、61歳になるシーズンの44回目は、生きてりゃ確実に出られる。
こんなことを昔は考えなかったけど、いつ病気になるかわからないから、身体の検査は最低限はやっています。
67歳まで出られれば50回。ここまではひと区切りなので、頑張ってみたいと思う」
取材・文/松本行弘
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