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「まだ仕事だろ? 頑張ってな」…会員数5万人「立ち食いそばうどんの会」が教えてくれた人情が沁みる名店

集英社オンライン / 2022年12月28日 10時1分

寒くなってくると、立ち食いそばが恋しくなる。温かくて、早く提供されて、なにより安い。会員数5万人を誇るfacebookの趣味サークル「立食いそばうどんの会」の主宰者・中村総明さん(60)らに、いまおすすめの立ち食いそば店を聞いた。

1か月で50杯を食べ歩く

中村さんがfacebookで同会を立ち上げたのは2019年9月のこと。最初は友人たち10人程度と情報交換する場だったが、いつのまにか人気サークルになり、昨年だけで会員数が2万人も増えたという。

「コロナ禍の影響があると思うんですよね。外食しても、あまり店の中に長くいたくないから、さっと食べて帰れる立ち食いがいい。あと在宅勤務で外食機会が減り、SNSで見て楽しむ人も増えたと思う」



そういう中村さんも、実はいまアメリカのシカゴに駐在していて、なかなか立ち食いそばを食べることができない。

「11月に一時帰国したときは、立ち食いそばを1か月で50食は食べたと思います」
と笑う。

そんな中村さんが、帰国の際に必ず立ち寄る店がある。

「『六文そば 中延店』です。ここは4か月くらい閉店していたんですが、最近また再オープンして、会員の間で話題になっています。麺は立ち食いそば店でポピュラーな埼玉県にある興和物産のもの。つゆは私たちの間で『暗黒系』と呼ばれる、真っ黒いもの。『暗黒系』は東京の東方面に多いんだけれど、ここは珍しいですね。名物はなんといっても『いかげそ天』です」

というわけでさっそく、東急大井町線中延駅のそばにある、「六文そば 中延店」を訪れた。
実はこの店、昔はチェーン店だったが、現在はそれぞれの店がのれん分け、独立していて、他にある「六文そば ○○店」とは関係がない。そして現在の店主である中野栄治さん(75)は立ち食いそば店を経営するのは初めて。それまで店を経営していた先代が店を辞めることになり、すぐ上の階で居酒屋を運営していた中野さんが手を挙げて、11月7日に再オープンにこぎつけた。

「六文そば 中延店」。黄色い看板が目印

常連客にダメだしされて奮闘、やがて名物に

「本業は魚屋なんだよ。だからそばは素人、というかここで働いているの全員、素人だよ(笑)。そりゃ最初は苦労したよ。天ぷらなんて揚げたこともないんだもん。先代の番頭さんみたいな人に一から叩き込まれました」

なかでも苦労したのは、いまや店の名物として「客の80%が注文する」という「いかげそ天そば」(550円)だ。

店主の中野さん

「最初はげそとタマネギを合わせたかき揚げにしてたの。そしたら先代時代からの常連さんから『こんなのげそ天じゃない』って怒られてね。じゃあってんで、げそだけの天ぷらにしたら、怒ってたお客さんが『うんうん、これこれ』って喜んでくれたよ」

努力の甲斐もあって、今では1日にでるそばは300杯、つゆを入れた大きめの寸胴が4、5杯無くなるという。

「立ち食いそば屋がこんなに忙しいもんだと思わなかったよ。私、オープンしてから毎朝4時起きで1日も休んでない。店に朝6時半に入って7時に暖簾を出そうと外に出たら、もうお客さんが並んでるんだもん。びっくりするよね」

取材したのは平日の午後3時、中途半端な時間帯にもかかわらず、客がひっきりなしにやってくる。中野さんが天ぷらを並べてある台を指して、「もうこんだけしかないよ」

たしかに半分以上がなくなっていた。

メニュー。いちばん安いのは「かけ」で400円

立ち食いそば店での人情

そこへ体格のいい30代前後の男性のお客さんか入ってきた。
げそ天を注文すると、中野さんが「ひと玉? ふた玉いっちゃえよ」と、そば玉をふたつ温めだした。
そばを大きめの丼に移し、上から真っ黒いつゆをかけて、げそ天以外にひとつ、ふたつと注文外の天ぷらを載せる。増量分はもちろんサービスだ。男性が恐縮している。
彼が食べ終えると、「これからまだ仕事だろ? 頑張ってな」と声をかけた。

「あの人、毎日来てくれるんだよ。仕事は、なんかご飯を運ぶの(「Uber Eatsですか?」)、ああ、それそれ」

サービスしたのは常連のよしみだけでなく、体を使って働く者へのいたわりかもしれない。注文を受けて丼を出すまで1分半、客が食べ終えて勘定を済ませて店を出るまで10分もしないだろう。
刹那的な食事でも、客が店を育て、店が客を大事にする人情が育まれている。

「立ち食いそば屋は大変だけど、先代からの常連さんが今も来てくれているのにはホッとしたね。それはよかった」

私もげそ天を注文した。
居酒屋などで出るげそ天は足をまるまる一本天ぷらにしたものが多いが、この店のものはひとくちサイズに切ってかき揚げにしてある。噛みしめるといかの旨みが口の中に広がる。衣もつゆが染みて美味しい。
それにしてもこの真っ黒い暗黒系のつゆ。関西から東京に出てきたばかりのころは、この黒さに驚いたなあ……などと思い出にひたっていると、中野さんが私の丼にも春菊の天ぷらを載せてきた。
「私にまでサービスされなくても」と慌てると、中野さんが小声で「天ぷらがなくなったら、店を早めに閉められるから……」
いっぺんでこの店が好きになった。

職人芸を感じる店

ところで、立ち食いそばの定義はなんだろうか。「立食いそばうどんの会」の主宰者・中村さんでも、これは難問らしい。

「よく訊ねられるんです。『立ち食い』といいつつも、イスが置いてある店は珍しくないし、券売機のないお店もある。麺やつゆにこだわりを見せて、差別化を図っている店も出てきました。まあ、パッと入ってパっと食べられて、500円前後という感じでいいんじゃないですかね」

そこで同会の女性会員である佐藤さんに、「新進気鋭系のお店」と「女性がひとりでも入りやすいお店」を推薦してもらった。

まずは「新進気鋭系」。

「小伝馬町にある『田そば』。そばの『もり』が500円、『天ぷらそば』が750円と立ち食いにしては高いのですが、それだけの価値はあります。とくにつゆは本枯節を使って変態的といえるほどこだわっていて、スモーキーで燻されている感じがあります。天ぷらの揚げの技術も高く、職人的な魅力を感じます」

次は「女性がひとりでも入れるお店」。

「築地にある『天花そば』。店内は立ち席のみなんですが、パーテーションが木製でひとりひとりのスペースが広く、カウンターの下に荷物を置くスペースがあるのが嬉しい。あと、清掃が行き届いていて、とても清潔です。
そばは自家製麺で、つなぎに山芋を使っていて、細めで白く、のどごしもいいです。私が好きなのは春菊天で、ここのはジュリアナ東京のお立ち台で振られていた扇のように広げた、通称『ジュリ扇』タイプではなく、春菊をざく切りにしてかき揚げにしたもの。ふわふわした食感で珍しいと思います」

仕事の合間にさっと食べるもよし、あちこち食べ比べするのもよし。気軽に楽しめるのが立ち食いそばのなによりの魅力だ。

写真・文/神田憲行

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