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「自分のためだけに生きることに飽きてきた」ー舞台『宝飾時計』で初タッグ。高畑充希×根本宗子が共鳴した30代特有の感覚とは

集英社オンライン / 2023年1月5日 17時1分

高畑充希と根本宗子が初めてタッグを組む舞台『宝飾時計』が1月9日から開幕する。演劇のみならず映像作品でも活躍する俳優と、独特な視点で話題作を次々と生み出し続ける劇作家。共に30代のふたりに、“オートクチュール”で作り上げた舞台への思いを聞いた。

高畑充希のためにゼロから作られた贅沢な舞台

左から作・演出の根本宗子、主演の高畑充希

──舞台『宝飾時計』は、子役から女優として活躍している30歳のゆりか(高畑充希)を取り巻く物語ですが、作品ができた経緯から教えてください。

根本宗子(以下・根本) 充希ちゃんから「わたしにお芝居を書いてほしい」とお声かけいただいたのが4〜5年前。そのときから、私もものすごくご一緒したかったんですけど、もう少し自分の筆を鍛えてからご一緒したいという気持ちが強くて。



何を書いても成立させてくれる俳優だと思うので、それでは充希ちゃんに助けてもらうだけで終わってしまう。ちゃんとコラボレーションができると思えるタイミングで書きたいと思っていました。

コロナなどいろんなことがあるなか、自分も充希ちゃんも30代になって。そのときに感じていることを話していたら、互いに共鳴する部分があったんです。演劇界を引っ張っていく30代の充希ちゃんと、一緒にやるべきビジョンやテーマが浮かんだタイミングで、書き始めました。

俳優さんから声をかけてもらって戯曲を書く経験は初めてだったので、今の我々がやるならどういう題材がいいのか、いつも以上に考えた作品です。

高畑充希(以下・高畑) 今回は根本さんが書いてくださった戯曲もそうだし、神田恵介(keisuke kanda)さんが手掛けた衣装、椎名林檎さんが作ってくださった楽曲も含めて全部がゼロからできたもの。舞台をやる人間として、ここまで贅沢なことはなかなかないなと思って。日々、恵まれていることを実感しながら稽古をしています。

あて書きをしていただいたので、もっと「お前はこういう人間だ!」と突きつけられる、ザワザワする台本になるのかなと勝手に想像していたんです。でも全然そんなことはなく、エンタメになっていて。

私が演じるゆりかは私でありながら、やっぱり私ではない。根本さんの演出を受けながら色々試したり、崩したりしながら作り上げる作業がすごく楽しいです。

ただ、会話劇だから台詞も多いし、気持ちが通った言葉を投げなければいけないので脳が想像以上に回転しているみたいで。稽古をしている今は、家に帰ってからの寝落ち率がすごいです(笑)。

──主人公のゆりかは30歳で、おふたりも30代です(高畑さん31歳、根本さん33歳)。30代女性ならではの思いを届けたいという考えもあったのでしょうか?

根本 ここ5年くらいの世の中的なブームとして、30代女子の生き様をフィーチャーした作品が増えてきていると思っていて。なんとなく視野を広く持とうというテーマなのに、作品を見ると視野を狭くするものが多い気が個人的にはしていて、ずっとそこが気になってきました。

その中で、個人的にはあまりフェミニズムを訴えかけるタイプの作風ではないですし、30代女性のためだけの物語とは思っていなくて。
モチーフが30代女性なだけで、例えば60歳の男性が見たとしても、その方なりの受け取り方がしてもらえるような、間口の広い芝居を作れたらいいなと思っています。

あと、今回は演劇でしかできない表現をいつも以上にしている戯曲です。俳優陣の演劇偏差値の高さに助けられているので、そういう芝居を生で見るという、シンプルな理由で楽しんでもらってもいいなと思っています。

──高畑さんはいかがですか。30代の今こそ演じられる作品だという感覚はありますか?

高畑 がむしゃらに突っ走ってきた20代を経て、自分のためだけに生きていくことに若干飽きてきたな、という感覚はすごくあって。それは劇中にも描かれていますが、女性だけでなく、年齢の近い男性と話していても同じことを考えている人が結構いて。

だから人は家族を持つのかもしれませんが、その感覚は、台本にも楽曲の歌詞にも入っているし、30代特有の心境なのかなと思っています。今の年齢だからこそ、とても深く腑に落ちる気がしています。

──同世代という強みを感じる部分はありますか?

根本 もともと充希ちゃんはミュージカルが好きでこのお仕事を始められた人。私も小さいときから舞台を見るのが好きだったので、仕事の始まりもちょっと似ているし、感覚的に近いところはあると思います。

もちろん全部がわかるわけじゃないし、全部同じなわけでもない。でも同世代で性別が一緒だと、経験してきたパーツが似ているし、共通言語の多さはあるのかなと思います。

オートクチュールすぎて、誰かに渡したくない

──稽古の雰囲気はいかがですか?

根本 今回は完全にオリジナルの新作ですし、全員にあて書きをしているので、出演者の8人に台詞を喋ってもらえることが日々楽しいです。稽古をしながら台本を書いたり、書き換えたりできるので、とてもやりやすいですね。

高畑 私はこれまで、もともとある戯曲を演じることが多かったので、稽古をしながらちょっとずつ台本をもらえる現場って、あまり経験がなくて。毎日、稽古場に行くたびに新しい台本が配給される感じは、漫画の連載を読むみたいですごく楽しいです。

1幕に張りめぐらされていた伏線が2幕で回収されていくので、「なるほど、そういうことか!」という爽快感がすごくて。根本さんは天才だなって、毎日楽しく読んでいます。根本さんワールドを提示してくださるので、不安にならずについていけていますね。

──根本さんが描くものが恋愛から愛にシフトしているようにも感じました。

根本 「今回は愛を描こう」みたいな、あまり大きな力みがあると失敗しそうなので、全然そこは意識的ではないんですけど(笑)。なるべくフラットに、今自分がどういうことを感じているのかを書くようにしています。実感が持てて、躍動している台詞や人物を描こうということだけ心がけています。

もちろん、充希ちゃんが演じる俳優のゆりかと、成田凌さん演じるマネージャーで恋人の大小路との恋愛模様も描かれますが、ラブストーリーかと言われるとそういう物語じゃない。広い意味で、いろんな愛の形を描いているということは、紛れもない事実ですけどね。

あと、「この10年があったからこの考えに行き着いたな」とか、人によって過ごしてきた時間や思い出ってあるじゃないですか。自分自身、20代と30代では考えていることが違う。そういう時間や思いの差を登場人物によって書き分けることで、ゆりかと大小路の人生が浮かび上がればいいなと思っています。

この前、ご本人にも伝えましたが、何歳になっても充希ちゃんに演じてほしい作品だと思っていて。演劇の新作を生むことって、作家も俳優陣もスタッフも、全員がものすごい大変なんです。なのに日本は1回で終わることがすごく多いので、何度も再演できて、なおかつ主人公を演じる人がずっと変わらない舞台があってもいいのかなって。

10年後、40代になった充希ちゃんや私がこの作品を再演したら、「ここはもっとサラッと描いていいシーンだったね」となるかもしれない。普段は普遍的なものを書こうとしますが、今回は今思っていることを割と強めに描きました。

──再演を想定しているのに、普遍的なものにしなかったのはなぜですか?

根本 普遍的なものは、何度再演しても演出が変わらないと思うんです。でも、まだ自分の中で答えが出ていないぼんやりしたものを書くことで、演出する年齢によって、戯曲に対する捉え方が変わるのが面白いだろうなと思って。

──根本さんの思いを聞いて、高畑さんはどう思われましたか?

高畑 私がこれまで演じてきた役は、『ピーター・パン』だったり『奇跡の人』だったり、誰かから受け継ぐことが多くて。演目が素晴らしければ素晴らしいほど、後輩にしっかり渡していきたいという気持ちが強かったんです。

でも今回はあまりにも“オートクチュール”すぎて、誰かに渡したくないなという思いがありますね。それくらい、いろんな方が全力で作ってくださったことを目の当たりにしていますから。「いろんな人の念が乗ってるよ」と言われますが(笑)、あまり重圧として感じすぎず、楽しみたいです。

──演出してみて感じる、高畑さんの俳優としての魅力は?


根本 すごく稀有な存在だなと思っていて。歌も歌えてお芝居もできて、映像でも舞台でも主役が張れる。我々の世代であまりいないし、すごく貴重な存在だと思います。ミュージカルとストレートプレイの架け橋になれる人って本当に素敵だし、演劇作家から引っ張りだこなのもすごく納得。

あと、持っている言葉の多さにも驚かされます。私は演出するときに、「今はどういう思考回路でその台詞を言っているんですか?」と質問することが多くて。それは別に意地悪な意味じゃなく、演じる人の思いを知った上で、自分なりの導き方を決めたいから。

充希ちゃんは明確に言葉で説明してくれるので、役を一緒に立体化していく作業がとてもやりやすいです。

──高畑さんは、念願の根本さんの演出を受けてみての感想は?

高畑 根本さんも、ものすごく的確に言葉で伝えてくださる人。演じていて自分なりの感情が芽生えたとしても、それが見ている人に伝わりやすいかは、またちょっと違うときもあるなと思っていて。舞台上にいる私たちよりも、見てくれる人がどれだけ楽しめるかが一番大切。そこにちゃんと導いてもらえるから、本当にありがたくて。

普段は「これはどういうことかな?」と思っても、私の中で一個ハードルがあって、相談を躊躇することもあるんです。根本さんは前から知っている人だし、年齢的にも近い。面白いものにしたいというパワーがすごくあるから、困ったときも信頼して相談できるし、安心してお稽古に臨めています。

自分の欲望を言葉にするのが苦手

──劇中では一番好きなものを「好き」と言えないゆりかの複雑な心情も描かれています。お互いの才能に惹かれあったおふたりは、どんな人に惹かれますか? また、「好き」をストレートに伝えることはできるタイプですか?

根本 私はすごく無邪気な人に対する憧れが強いんです。昔から無邪気じゃないので(笑)。洋服でも「私もそれ欲しい」とか、「それかわいいね、どこで買ったの?」みたいなことを、すっごい無邪気に言える人っているじゃないですか。

言ったほうが絶対にいいのはわかっているんです。言われて嫌な気はしないだろうし、私も作品が面白かったと言われるとうれしいわけですから。

でも、「今これを言ったらこう捉えられちゃうんじゃないかな」とか、自分の中のエクスキューズがありすぎて言葉にできなくて。だから無邪気な人に出会うと、すごくいいな、素敵だなって思います。それは年齢とか性別問わず思うかもしれないですね。

高畑 私の場合は、人のいい部分に関しては結構口に出せるんです。根本さんに「めっちゃ好きでした」とか、「芝居を書いてください」とかは言えましたしね。でも(今回の舞台の衣装を担当しているデザイナーの)神田さんの服が欲しいとか、自分の欲望になると、ちょっと言葉にできなくなるというか……。

根本 すごくわかります。私も、舞台を作る上で「一緒にやりたいです」とか、クリエイティブな部分の意見や欲望は言えるんです。でも一個人としては……。

高畑 わかる(笑)。

根本 そこが充希ちゃんと少し似ているのかなって、しゃべっている中で思ったりもして。似たところがある俳優さんが好きなんです。多分。

──ゆりかが持つ個性は根本さんの一部であり、高畑さんとも共通しているんですね。

根本 もちろん、自分の要素もたくさん入っていますし、充希ちゃんの声で聞きたい台詞もあります。私はいつも群像劇を書くので、ここまで主人公がはっきりしているものって、意外とないんです。ゆりか以外の役にももちろん同じくらい愛情がありますが、今回はゆりかが真ん中にいて、それを充希ちゃんが演じる。

自分の新しい演劇の扉が、この作品で開いたらいいなと思っています。



取材・文/松山梢 撮影/MISUMI ヘア&メイク/根本亜沙美(高畑さん) 堀田ゆう(根本さん)

『宝飾時計』


作・演出:根本宗子
テーマ曲:『青春の続き』/高畑充希 作詞 作編曲/椎名林檎
出演:高畑充希、成田凌、小池栄子、伊藤万理華、池津祥子、後藤剛範、小日向星一、八十田勇一

主人公のゆりか(高畑充希)は子役から女優として活躍しているが、驚くほど業界に染まっていない。30歳を迎え、同級生たちが次々と結婚し子供を産んでいく中、「私は何のためにこんなことをやっているのだろう」と自分の存在の意味を見つけられずにいた。
そんな彼女の心を日々支えているのはマネージャーの大小路(成田凌)。ある日ゆりかのもとに「21年前にやったミュージカルの記念公演のカーテンコールで、テーマ曲を歌ってくれないか?」という依頼が飛び込んでくる。それは彼女の原点となった舞台だった。仕事を引き受けたゆりか。現場で、当時一緒にトリプルキャストとして主演を務めていた真理恵(小池栄子)と杏香(伊藤万理華)と再会する。その中で、過去と現在を行き来しながら、ゆりかは自分の人生を振り返り、孤独に押しつぶされそうになる。日々増える無力感の中、ゆりかは自分の人生の肯定の仕方を考え始め……。

●2023年1月9日〜1月29日 東京芸術劇場プレイハウス(地方公演あり)

公式サイト:https://horipro-stage.jp/stage/houshokudokei2023/

高畑充希
1991年12月14日生まれ、大阪府出身。2005年にデビュー。2007年~2012年『ピーター・パン』で8代目ピーターパンを務めるなど舞台で活躍する一方、2013年にNHK連続テレビ小説『ごちそうさん』、2016年にNHK朝の連続テレビ小説『とと姉ちゃん』をへて、ドラマ『にじいろカルテ』(2021)『いりびと-異邦人-』(2021)『ムチャブリ! わたしが社長になるなんて』(2022)、映画『明日の食卓』(2021)『キャラクター』(2021)『浜の朝日の嘘つきどもと』(2021)など映像でも活躍。2022年は4度目の出演となる『奇跡の人』や、2年越しの公演となった『ミス・サイゴン』など、自身の原点となる舞台出演が続いた。

根本宗子
1989年10月16日生まれ、東京都出身。19歳で月刊「根本宗子」を旗揚げ。以降、劇団公演全ての作・演出を担当する。主な作品は『夏果て幸せの果て』(2016)『皆、シンデレラがやりたい』(2018)『愛犬ポリーの死、そして家族の話』(2019)『クラッシャー女中』(2020)『もっとも大いなる愛へ』(2021)など。2022年には『もっと超越した所へ。』が映画化され話題を呼んだ。

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