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【箱根駅伝】「やべっ、無理だ」からの立教の急成長。“日本一速い監督”上野裕一郎が明かす「最近は選手とあまり走ってない」理由

集英社オンライン / 2023年1月1日 10時1分

第99回箱根駅伝(2023年1月2、3日)で55年ぶり28回目の出場となる立教大学の上野裕一郎監督にインタビュー。後編では、箱根出場までの道のりや指導方法、さらに本番の意気込みを語ってもらった。

◆ ◆ ◆

「日本一速い監督」の指導法の変化

――上野監督は指導者になってからも、試合に出場したり、ペースメーカーを務めたりしています。2022年11月26日の日本体育大学長距離競技会では、実業団勢をも破って5000mで13分39秒95の好記録をマークし、日本人トップとなっています。

上野裕一郎(以下、同) 14分を切れたらいいなと思ってスタートしたので、なんであんないいタイムが出たのか、自分でもわからないです。練習はほとんどやっていないので。


立教大学陸上競技部男子駅伝チームの上野裕一郎監督

――前日にはMARCH対抗戦でペースメーカーをやっていたので、信じられません。

MARCH対抗戦で筋肉がけっこう張っていたんですけどね。状態は悪くはなかったです。でも、MARCH対抗戦に向けても、何か特別なことをやってきたわけではありません。学生に聞いてもらったらわかりますが、全然練習していないですから。選手と一緒にもあまり走っていません。

――「日本一足が速い監督」などとメディアに紹介されることも多いと思うのですが……。

今は市民ランナーで好きに走っているだけです。選手兼監督って記事に書かれることもありますが、それは間違いで、正しくは監督兼市民ランナーなんです。

――選手と一緒に走りながら、指導されることもあるとのことですが。

気が向いたときに、選手と一緒にラダートレーニングとか、ミニハードル走をやったりすることはありますけど、最近は選手のレベルが高くなってきて、自分たちでやれているから、本練習では僕が引っ張ったり、ついたりはしなくなりましたね。

夏合宿などで、淡々と長い距離を走る練習では、状況を把握するためだったり、大事な練習のペースが乱れないように、一緒に走ることもありましたけどね。

あと、今はスタイルチェンジしていて、部分的に一緒に走ることはあります。変な癖を見つけたときとか、動きが乱れそうなときとか、選手の近くを走ってアドバイスをしています。

走りを指摘しつつ、「そこを修正したら、次の1本が楽になるよ」などと、走りながら声をかけています。1箇所に立ったままだと選手に声を掛けられるのは、せいぜい1、2秒ですよね。でも僕は200m・33秒くらいだったら並走できるので。

監督が珍しく怒った日

――スタイルチェンジはいつ頃からですか?

2022年に入ってからじゃないですかね。

――ということは、今年度は明らかに昨年度までとは変わったっていうことですか?

変わったのは、6月の全日本予選会(全日本大学駅伝関東地区選考会)の後からです。

――全日本選考会は11位という結果で、出場権が与えられる7位には届きませんでした。

本大会に出るつもりで計画していたので、あそこは通っておきたかった。あまり人前で怒らないんですけど、珍しくその場で長めのミーティングをして、だいぶ言いましたね。

ずば抜けて速い選手はいませんでしたけど、3組、4組にしっかり走れる選手がいたので、普通にレースをしてくれれば、いけると思っていました。

――その後にまたチームは変わったわけですね。夏合宿を通して、今回の箱根予選会はいけるだろうという手応えがあった?

故障者も少なかったし、夏合宿も、去年の主力がやっていたメニューを、ほぼほぼメンバー全員がこなしていたんです。去年より絶対に強くなっているって本人たちも思っていたと思いますよ。

――箱根駅伝予選会に関しては、指導者として初めて挑んだ2019年が23位で、その翌年は28位と順位を落としました。

あのときは焦りましたね。コロナ禍で、陸上自衛隊立川駐屯地内だけの平坦なコースになって、高速化したときでした。完全に戦力の差が出ましたね。

速いペースのトレーニングをしていませんでしたから。「やべっ、5年じゃ無理だ」って思いましたよ。甘かったなって考え始めて……。

まずは力をつけないとダメだから、トラックの5000m、10000mのタイムを向上させることが必要だと思いました。当たり前のことなんですけどね。

――そして、2021年は一気に16位まで順位を上げました。しかも、5㎞通過タイムはトップで、10㎞までは通過圏内にいました。

あんなの「痩せ馬の先走り」じゃないですか。でも、あれがよかったんです。このレベルで10㎞までは通過圏内に残れるのがわかったので。あれがなければ、今回の通過はなかったかな。

――そして、ついに55年ぶりの予選突破を果たすわけです。

でも、全然下馬評が高くはなかったんですよね。逆に、目立たなくてよかったとも思っていますが。

2020年に完成した「紫聖寮」

目標は「シード権獲得」

――箱根駅伝ではどんな目標を立てていますか?

予選会の日のミーティングで、「目標はシード権獲得でいく」と話をしました。たぶん学生たちの間で、「監督はシード権って言っているけど、どうする?」という話し合いがあったんじゃないかなと思うんですけど、「シード権は厳しい」とか「こういう目標を立てたい」とかいう意見はその後になかったので、シード権を目指すことはもう確定しています。

――箱根になると、特殊区間の山上り(5区)、山下り(6区)もありますが、予選会を終えてから準備をしたのでしょうか?

前から備えてはいたんですけど、山は苦戦すると思いますね。

――山対策はどんなことをしていますか?

むしろ教えてください!(笑)。初めてだから、わからないですよ。でも、失敗したら監督の責任だし、絶対に糧になるから、失敗を恐れずに思い切っていってほしいなと思います。走る選手には、自信を持って頑張りなさいと言って送り出すだけですね。

――新しいタスキを手にしてみて、監督として感慨はありましたか?

中央大のときは、そんなに気にしなかったんですけど(笑)。手にしてみて、箱根を頑張らなきゃなっていう気持ちになりました。

でも、まだ重みは詰まっていないタスキです。誰もかけて走っていませんから。ここから、重みがついていくんですよね。

――学生時代とは、箱根駅伝の捉え方もだいぶ違うのではないでしょうか?

学生の頃は、個人でもっと上を狙うための練習のひとつだと思っていました。もちろん自分が走らなかったら、チームが終わっちゃうと思って、一生懸命やっていましたけど。

今は、彼らが必死に頑張っているのを見てきましたから、この子たちが頑張ってきたものがやっと形になったんだっていううれしさが大きいですね。

彼ら一人ひとり、選手47人、16人のマネジャーを含めると、60人以上の学生を見ていますので、現役のときよりも格段にうれしいですよ。

箱根駅伝での意外な心配事

――運営管理車(選手に並走する監督車)からは、どんな声がけを考えていますか?

あれって考えて言うものなんですか? 「1㎞は気をつけて入って」とか「5㎞14分●秒だから、そのままいこう」とか、ですかね。特には考えていないです。それよりも、トイレには行けるのだろうか……そっちのほうが心配です(笑)。

――1年早く、箱根駅伝出場の目標を達成したことで、2023年以降、また新たなチャレンジができるのではないかと思うのですが、今後の展望はどのように考えていますか?

シード権を獲ることができれば、2023年は学生三大駅伝(出雲、全日本、箱根)出場が目標になってくると思います。

今回の箱根でシード権を獲れれば、出雲も箱根の第100回大会の出場権も得られますし、あとは春先の全日本選考会を狙っていきたい。

シード権があるのとないのとでは1年の流れが全然違います。一番いい流れを組めるように、シード権を獲りたい。可能性がゼロだったら目標にしません。1%でも20%でもチャンスがあるんだったら、最大限狙っていきます。

あとは一つひとつのトラックレースも大切にし、彼らが個々の目標に向かって楽しく陸上競技をやっていけるような環境づくりを継続してやっていきたいです。

一人ひとりが結果を残して、自分を満足させる――それがチームの満足にもつながると思いますから。

◆ ◆ ◆

終わり

取材・文/和田悟志
撮影/岡庭璃子

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