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野口みずきの17年間破られない女子マラソン日本記録を更新するのは誰? 「いざ破られそうになると、変な心情になります」

集英社オンライン / 2023年1月2日 13時1分

アテネ五輪女子マラソン金メダリストの野口みずきさんが、ベルリンマラソンで叩き出した日本記録は、17年経った今も破られていない。本人はその事実をどう考えているのだろうか。記録更新に期待がかかる新谷仁美選手のヒューストン・マラソン(2023年1月15日)出場を前に、野口さんに話を聞いた。

野口みずきさんは、「走った距離は裏切らない」をモットーに、“世界一の練習”と自称するほど走り込んで、2005年9月のベルリンマラソンで2時間19分12秒の女子マラソンの日本記録を打ち立てた。

現在はマラソンや駅伝の解説者としても活躍する野口さんに、17年以上破られない自身の日本記録や、記録を打ち破る可能性を持つ注目選手を聞いていく。


現在は解説者を務める野口みずきさん

「当時は2、3年後には破られるんだろうな、と」

――これほど長い間、自身の記録が破られずにいることについて、どのように思われているのでしょうか?

野口みずき(以下、同) ここまで破られないとは思ってもいなかったですね。当時は、どうせ、あと2、3年後には破られるんだろうなというくらいに思っていましたから。やっぱり、2時間20分を切るっていうのはまあまあ大変だということなのでしょうね。

ただ、シューズが進化したのもあって、世界はどんどん高速化していて、2時間14分台に突入しました。現役の日本女子のトップが一山麻緒選手(資生堂)の2時間20分台(2時間20分29秒)ですから、6分も差をつけられてしまっています。そんなに差が開いたのは、なぜなのかなって思うんですけどね。

――その“なぜ”をお聞きしたかったです。野口さんはマラソンの解説をされていますし、ダイハツ女子陸上部の山中美和子監督のように同学年の指導者もいらっしゃって、現在の選手の練習内容も見聞きされていると思うのですが、どう考えていますか?

少し前までは、故障のリスクを恐れてそんなに練習量をこなさない選手が多かった印象があります。それで、なかなか日本の女子マラソンのレベルが上がらなかったと思っています。

でも最近になって、練習自体は多分、私が現役の頃と大差がないというか、むしろ、けっこうやっているように思うんですよ。マラソン前に選手や指導者に話を聞くと、そんなにやっているのか!って思うこともあるので。

一山選手や新谷仁美選手(積水化学)は、量を走っていると聞きますね。昔、私たちがやっていたような練習を、またやり始めたのかなと感じています。

最有力は新谷仁美「芯の強さを感じる」

――いつくらいから、練習量が多くなっているという変化を感じましたか?

ここ数年じゃないですかね。東京五輪前のMGC(マラソン・グランド・チャンピオンシップ ※日本代表の選考レース)がきっかけとなったのかな。量をやらないと、という流れになってきたのかなと思います。そういう意味でもMGCは成功でしたね。

――たしかに、この2、3年はあわや日本記録というレースがたびたびありました。そんなレースを解説されていましたが、記録保持者としてはどんな心境なのでしょうか?

ついに来るか!っていう感じです。でも、なんだろう……。やっぱり複雑な気持ちでしたね。表向きには「もうそろそろいいと思います」って言っているんですけど、いざ破られそうになると、変な心情になりますよ。

マラソンのテレビ中継では、5㎞ごとに、「野口みずきの日本記録との比較」というテロップが出るじゃないですか。日本記録が更新されたら、このテロップがなくなるのかと思うと、寂しいなと思っちゃいますね(笑)。

――破られたときのことを想像されるんですね。

そうですね。結局、まだ破られずにいますが、タイミングや条件さえ合えば、更新するんじゃないかなって思う選手は何人かいますよ。

――その“何人か”を挙げていただけますか?

やっぱり一番は新谷選手です。オンオフがはっきりしていて、気持ちを切り替えられるし、考え方がしっかりしているというのか、芯の強さを感じます。

彼女の持っているものからしたら、まだマラソンではトラックのようにはうまくいっていませんが、ハマればマラソンでもハイペースで走りきっちゃうんだろうなっていう気がします。

新谷仁美。東京五輪では女子10000mに出場

――新谷選手は、2023年1月15日にアメリカで開催されるヒューストン・マラソンに出場予定です。

彼女がハーフマラソンの日本記録を出したのがヒューストンだったので、いいイメージがあるんだと思います。

――新谷選手の他にはどうですか?

松田瑞生選手(ダイハツ)もいけそうな気がするんですよね。一山選手は、最近は移籍があったりしたので、環境が変わったのがどう出るか。

あとは、新谷選手や廣中璃梨佳選手(JP日本郵政グループ)のように、トラックで実績があり、スピードのある選手が、マラソンにチャレンジしたら一気にいくんじゃないかなと思っています。

まだハーフマラソンも走っていないので、10㎞よりも長い距離のレースになったときに不透明な部分はありますし、やっぱり走り方がトラック仕様なので、あのままいくと後半に潰れてしまいそうな感じはしますが……。

でも、リオデジャネイロ五輪はトラックで、東京五輪にはマラソンで出場した鈴木亜由子選手を育てた髙橋昌彦さんが指導しているので、トラックからマラソンにうまく持ってくるでしょうね。マラソンの距離に合わせられたら面白いだろうなって思います。

不破聖衣来の走りは「アフリカ勢に近いものがある」

――野口さんが日本記録を樹立した当時は、2001年に高橋尚子さん、2004年に渋井陽子さんと、2時間19分台が立て続けに出ています。そういう意味でも、心理的に2時間20分の壁を感じていなかったのでしょうか?

いえ、壁は高いだろうけど、「やれるだろう」「やるぞ」と思っていました。

――当時と同じように、誰かが2時間20分を切ったら、立て続けにタイムが出そうな気もします。

そうですよね。私のときは、10000mもハーフマラソンも好記録を持っている選手が多く、力が拮抗していました。周りが強い選手ばっかりだったので、いい影響を与え合っていたのかなと。

渋井さんが2時間20分を切ったら、今度は私が塗り替えてやる、みたいにいいライバル意識を持っていました。そんなふうに思えるかどうかですよね。

例えば、もしもですよ。新谷選手がタイムを出したとして、他の選手が「あの人は別格だから」と思ってしまったら、後に続く選手は出てこないでしょうから。

――確かに、新谷選手が東京五輪出場を決めた2020年12月の日本選手権は、ひとりだけ異次元の走りでした。あんな走りを見せられては「別格だから」と思ってしまいかねません。とはいえ、新谷選手や廣中選手をはじめ、トラックでは好選手が続々と出てきている印象はあります。

田中希実選手(豊田自動織機)と不破聖衣来選手(拓殖大)も、マラソンで日本記録を破る選手の候補に入れたいですね。

田中選手は、お母さんがマラソン経験者ですし、お父さんもノウハウを持っています。本人も「中距離からマラソンまで制覇したい」と話しているのを記事で読んだので、マラソンに対しても前向きなんだと思います。

彼女が磨いている「スピード」はマラソンでも武器になりますし、トラックでも誰もやったことがないようなアプローチをしているのでスタミナもあると思うんです。そういうところを見ていても、絶対に面白いと思います。

不破選手のしなやかな走りは、ストライドが広いのに、私の走りのように跳ねていないので、省エネです。ストロークが大きくて、一歩で距離を稼げる。アフリカ勢の走り方に近いものがある。もう少し筋力とスタミナをつけたら、マラソンもいけそうですね。

――カーボンプレートを搭載した厚底レーシングシューズが登場して、男子と同じように女子も高速化が進んでいます。やはりスピードが必要なんですね。

でも、女性は男性よりも筋力的に劣る部分は絶対にあるじゃないですか。だから、ケガをしやすいですし、軸がブレてしまう感じがするので体幹がしっかりしていないといけません。推進力を得られる一方で、ある程度筋力がないと、厚底シューズの機能を活かせられないんじゃないかなと思います。

――そういう意味でも、野口さんは筋力トレーニングにも積極的に取り組んでいましたから、当時、厚底レーシングシューズがあったら、面白かったんじゃないかと想像してしまいます。

そうですね。フィジカルトレーニングをバンバンやっていましたから。厚底があったら「あと2分は速かったんじゃないか」って言われたこともあります。でも、自分ではイメージができないんです。こればかりはわからないですね(笑)。

取材・文/和田悟志
撮影/坂本 陽

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