村本大輔が考える”ジョークと差別の境界線”。「世間の言葉に対する免疫力が下がってきている」中、コメディアンのあるべき姿とは
集英社オンライン / 2022年12月30日 13時1分
テレビから消えた芸人――ウーマンラッシュアワーの村本大輔は今、何を考えているのかに迫る連続インタビュー。コンプライアンスに対する意識が高まる中、言葉を生業とする芸人の息苦しさも増している。そんな時代の風を村本はどう感じているのか?
ジョークと差別の境界線
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原発に沖縄県・辺野古の基地移設、さらには在日コリアン差別と、政治色の強いネタを披露するたびにSNSは炎上。結果、2017年に約250本あった村本のテレビ出演は、2020年には1本と激減した。
日本のお笑い界も“人を傷つけない笑い”が全盛となる中、村本はこうした風潮をどう見ているのか?
――たとえジョークでも、言ってはいけないことがあると思います。その一線を越えてしまわないかと不安に駆られることはありますか?
そりゃあるよ。
「これ絶対怒られるな……」って思ったり。お客さんも「大丈夫⁉」って空気になって、自分でも喋りながらハッとする瞬間がある。
例えば南アフリカ出身のトレバー・ノアっていうコメディアンは、「死んだあとでこそジョークが言える」とか言って、ネタの中で亡くなったばかりのエリザベス女王の悪口をずっと言ってて。このタイミングでそれ言ったら、イギリスの人たち怒るやろうなー……って思う。
でも、そんなこと言ってたら人前でマイク持って喋られへんやん。いつの時代にも、保守的なクリスチャンだったり過激なフェミニストだったり、コメディーに干渉して「それはだめだ!」って抑圧したがる人はいっぱいいるわけ。
でもコメディアンってのは、別にどっちの味方でもないと思っていて、自分のモラルに従ってさえいればいい。時代の風に流されまいとすることが俺の中では大事。それはずっと大事にしていたい。
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独演会でワイン片手にネタを披露する村本
――ジョークと差別の境界線はどこにあると思いますか?
イジメとイジリの線引き……難しい。誰がどういうシチュエーションで、どこまで理解して言っているのかも関わってくるしね。
これは本当に難しいけどコメディークラブに行く機会があったら、芸人のネタの持って行き方、落とし込み方、ネタそのものを見て欲しい。
言葉や物事のコンテクストを見ようとしない人っておるやん。例えば「女性専用車両はあるのに男性専用車両がないのは差別だ!」とかって言う人。この人は感情的になって、『痴漢行為がある』という背景が見えなくなってるよね。
俺はネタで『美女と野獣』の話をするんだけど、その中で「ババア」とか「ブス」って言葉を使ったりもすんねん。
あれは王子がとんでもない男だってことを言うために使ってる言葉なのに、「あの言葉遣いは嫌な感じがします」って言われたりなんかすると、それはあなたが話のコンテクストを見ていないからですよ、ってなるわけよ。
俺が馬鹿にしているのは王子なのであって、そういう背景が見えていない。見ないんだよね。
世間の言葉に対する免疫力が下がってきている
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俺が子供の頃にハンバーガー屋さんに行って、ハンバーガー一つしか頼まなかったときに、店員さんに「えっ、以上ですか?」って言われたことがあって。
ハンバーガー一個だけじゃあかんのか…って疑問に思って、俺悪いことしたんかな……って、ちょっとコンプレックスにもなって。
だけど大人になった今、そんなことがあっても、別に何も思わんやん。自分は何者かだっていう自信みたいなものがあるから。
でも例えば、大人になっても自分が何者なのかわからない、ずっと自分がわからない不安の中にいるときって、子供の頃の俺のように、ずっと些細なことで傷つき続けるんじゃないかな。
自分が何者なのか、自信を得ていく過程で初めて脈々と強くなっていくもんなんだと思う。
コメディーにおいての言葉もそう。『傷つきやすい時代』とかって言われているけれど、世の人たちの言葉に対する免疫力も下がってきてんじゃない?
傷つくってなんなのかな……ってたまに思う。難しいけど、向き合っていきたいよね。
――以前、村本さんから聞いた言葉で、「言葉自体に罪は無いのに、使う人が悪意を持って使ったり、禁止用語を増やして過剰に制限をするから、言語自体がとても窮屈なものになっている」と仰っていたのをよく覚えています。
いやほんまそうよ。
例えば俺の知り合いの子供は、まだ五才くらいなんやけど、家族からはブサイクって言われてて。でも俺は可愛いと思ったから「可愛いやん」って言ったら、その知り合いに「馬鹿にしてんの?」って言われてん。
だから『可愛い』って言葉も、その瞬間の誰かにとっては人を馬鹿にする言葉に変わったりするわけよ。
言葉は捉え方や投げ方で変化するもの。だからと言って、言い方さえ変えたらいいというのは安直な考え。表面だけ綺麗にしたつもりで、これもまた、コンテクストを見ていないと意味がないわけで。
例えばこういう、わかりやすい飛沫防止パネルとか、形だけ『やってる感』を見せてるコロナ感染防止対とか。大事なのは『やってる感』じゃなくて、もっと本質的なことでしょう。
言葉にしても、それが表面上の『やってる感』なのかどうか、しっかりと見極めないといけない。
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文/金愛香 撮影/U-YA
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「テレビから消えた芸人」ウーマン村本を追いかけた映画『アイアム ア コメディアン』が突きつける日本人の”生きづらさ”の正体
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