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リスカ・案件・DV・受け子…「親からは自覚のない虐待」「いつかはここを卒業したいけど…」支援者・“大阪のおかあさん“が見たトー横キッズ“しんどい子どもたち”の現実

集英社オンライン / 2022年12月29日 18時1分

トー横キッズ――新宿歌舞伎町の新宿東宝ビルやシネシティ広場にたむろする子どもたちのことだ。学校や家庭に居場所がない子どもたちが、ここなら自分を受け入れてくれる人と出会えるかもしれないと集ってくる。ここではリストカットや市販薬のOD(オーバードーズ:薬物の過剰摂取)といった危険な行為、飲酒や喫煙、万引きなどの違法行為もあるが、子どもたちを心配し「なんとか力になれたら」と支援活動を行う大人たちもいる。

クラミジア、梅毒、バラ疹も増えている

12月10日新宿歌舞伎町のビル内にて、「子どもの支援団体CPAO(しーぱお)」が催した「ごはんとお医者さん〜出張医療相談会」が行われた。炊き出しだけでなく、医師や看護師といった医療関係者が実際に診察や簡易的な治療を現場で行なうアウトリーチ活動だ。支援活動に「集英社オンライン」も同席し、“しんどい子どもたち”の現実に直面した。



「コロナ禍でしんどい子どもが増えました。もともと不安定な雇用下にある親が、仕事を失って家にいると、理不尽に当たられたり、虐待されたりすることもある。それで自宅が居心地のいい居場所ではなくなった子どもは街に出ていく。でも、その街には搾取する大人もいる……。だから、そんな子どもたちに、世の中にはロクでもない大人だけじゃないんだよと思ってもらえたらいいなと活動をしています」(CPAO代表・徳丸さん)

徳丸ゆき子さん

CPAO代表の徳丸ゆき子さん(52)は元々大阪で支援団体を発足し、関西圏の生活困窮世帯の子どもと親に対する生活支援事業を行なってきた。
大阪にも「グリ下」というトー横と同じような場所があり、そこに集まる子どもたちが、新宿のトー横や名古屋のドン横といった“界隈”に夜行バスを使って出かけていくことからトー横を知ったのだという。そして、全国から助けを求める子どもたちのためにそういった“界隈”を2020年頃から巡ってきた。

そんな中で2021年11月に起きたのが、「トー横キッズリンチ殺人事件」である。(【トー横・暴行殺害事件から1年】ホームレスを土下座させ7時間暴行した犯人は「手加減をしていた」。キッズ支援者の“同志”が裁判傍聴で知った“違和感“と“しんどい子どもたち”のリアル参照)。この痛ましい事件を機に、トー横キッズと本格的に関わらなければ、と徳丸さんは決意をした。

以降、徳丸さんは100人の子どもたちから話を聞き、どんな支援を受けられたら嬉しいと思うかをリサーチしてきた。すると、どの子も口にしたのが「暴力がない、安心して寝れる場所が欲しい」だったという。

「『夏は野宿ができるけれど、冬の寒さはつらい』と子どもたちは話していました。本当は東京にもシェルターを用意したかったのですが、予算面で厳しく実現にいたっていません。これから冬になると、インフルエンザもあるし、コロナもまた流行る可能性が高い。子どもたちの間で性感染症も増えています。
これまでにクラミジアや梅毒でバラ疹が出ている子を医療に繋いだケースもあります。暖かい場所で食事の提供もしながら、お医者さんに診てもらえたらと思って、この『ごはんとお医者さん〜出張医療相談会』のアウトリーチを始めました」(徳丸さん)

ごはんの提供を開始したのは17時。その1時間ほど前に「広場」と呼ばれるシネシティ広場に足を運んでみると、すでに10名ほどの子どもたちが集まっていた。
どの子も地雷系ファッションと呼ばれる黒づくめの服に身を包み、厚底の靴を履いている。壁に寄りかかって座り、おしゃべりをするなど穏やかな雰囲気である。しかし、周囲にゴミが散乱し、椅子が持ち込まれているなど普通の公道のような場所では見られない光景もままある。
歌舞伎町が闇に包まれていくに従って、広場に人の数が増えていく。炊き出しが始まる17時すぎになると、キッズは20名近くまでに膨れ上がっていた。

広場に集まってた“キッズ”と支援者

「お腹すいた〜。今日、1食も食べてない」「お腹グーグーなってる」と嘆く子どもたち。「今、ごはんの無料提供をやっているんだけど、食べに来ない?」というスタッフの声かけに一瞬、戸惑いを見せるものの人懐っこい笑顔で「行く行く」と返事をし、4人が連れ立って炊き出し会場に向かうことになった。
炊き出し会場へと足を運ぶ間、グループ内の最年少、14歳のA子ちゃんに話を聞いた

カッターで手を切られた少女A子ちゃんが医療相談へ

「広場に来たのは6月頃から。TikTokやツイッターを見ていたら、自分と同じようなファッションが好きだったり、似ている子がいたから、友達になりたいなって思って、遊びに来るようになった。
学校にも友達はいるけど、表面的というか……。私、うつ病とかパニック障害があって児童精神科に通ってる。そういうことは学校の友達には話せない。話すと、その子のお母さんから『あの子とあまり付き合わない方がいい』みたいに言われちゃうだろうし。カウンセリングにも通わされているけれど、そこでは話して終わり。わかってくれる人とかは家の近くにはいない……。お互いに素性がわからないからこそ話せることもあると思う。ここで出会った子たちとはニコイチでなんでも話せます」

炊き出しに準備されたお菓子

ニコイチとはいつも一緒にいる親友のこと。その親友のB子ちゃんとは、トー横で数か月前に出会ったそうだ。B子ちゃんの家には両親がいないため、誰でも泊まれる状況で、今夜A子ちゃんはB子ちゃんの家に泊まるのだという。
そのB子ちゃんは、トー横から帰った後は、仕事から帰ってくる兄のためにご飯を作らなければならないと話していた。父子家庭なのだが、父親はいつもどこかに出かけているからいない、とのことだ。広場に集う子どもたちには子どもたちの理由があるようだった。

19時近くなった時だった。声かけスタッフの1人が怪我をしているC子ちゃん(15歳)を見つけた。手の甲に生々しい赤い傷がいくつもついている。「元カレに切られた」とC子ちゃんは呟く。


「カッターで切られた。元カレDVなんですよ。殴ったり蹴ったりするから別れたのに今でもお金欲しさにつきまとってきて……。慣れてるから見た目ほどではないんだけど、痛いですね(笑)」

C子ちゃんの手にはリストカットの痕もいくつもあった。慣れているというのは、体に傷が付くことに対してである。スタッフがC子につきそい医療会場へと向かった。

リストカットの痕が残る少女

「リストカットはパニック起こしたときにやっちゃいますね、あとは暇潰しで切っちゃうときも。私はもう半年くらいココに来ています。親は『自覚のない虐待』って感じでした。母親は門限すぎたら閉め出したり叩いたり、父親は物を投げたり正座させて延々と説教してきたり。一度、中2の時に精神的に不安定で入院して、退院後も学校で倒れちゃったんです。そこで初めて、言われすぎると倒れちゃう体質ってわかって……。親もそこで教育の間違いに気づいたみたいで、そこからはおとなしいです。

小学校は明るくしてないと嫌われるから陽キャを演じて何とか“1軍”にいたんですけど、どんどんつらくなっちゃって……。小4の時ですかね、つらさがピークになって気持ち悪くなってトイレに行ったら、そこで仲の良い子が自分の悪口を言ってるのを聞いちゃったんです。それからイジメがはじまって、足を掛けられたり、転ばされたり、階段で押されることもありました。中学に上がっても、同じメンバーがいるから、ドンドン学校に馴染めなくなっていきました」

「トー横をいつかは卒業」と話すC子ちゃん

C子ちゃんは、13歳の頃からライブ配信をして投げ銭を得たり、ファンと話をして、月に20万円以上稼ぐこともあったという。トー横に通うようになってからは案件(お金をもらって男性とデートをしたり、時に体の関係を持つこと。ただし彼女は性行為を伴う“案件”は行っていない)もおこなうようになり、「お金には困らない」とC子ちゃんは話す。

女の子は稼ぐ方法があるのに対し、男の子は稼ぐ手段がさほどない。そのため、自分のことを好いてくれる女の子に貢がせるケースがトー横界隈では少なからずあるという。C子ちゃんの元カレもまた、お金欲しさに別れた後でもつきまとってくるのだという。

集まった“キッズたち

「もともと最低限の勉強は何とかできたから、最近、ファッションとデザイン専門の高校に受かりました。来年から高校に行って違う生活も始まるけど、ここでできた友達もいるし、それなりには来たいです。ただ“トー横”は好きだけど、いつか卒業しないといけないなって気持ちもあります。ここで色んな人を見てきたから、それを活かして、皆が驚くデザインをしたいと思っています」(C子ちゃん)

医療スタッフの指示で傷を洗い、ワセリンを塗った後、大きめの絆創膏を渡されてC子ちゃんは医療会場を後にした。

一方、「1週間学校へ通った自分へのご褒美」として、トー横に顔をだす少年もいた。16歳のDくんは川崎市在住、父親は一般企業につとめ、母はパートで働いている。

「7月からたまに来るようになりました。ネットで知り合った元カノから会おうよと誘われた場所がトー横だったんですよね。ここだと何をしてもいいし、友達もできるから楽しいんですよ。
学校ですか? 起立性の障害持ってるから、朝起きられないんですよ。起きられたら行ってますけど、友達もいないから……。友達できないの、キツいっすね。中学に上がって新しい環境になって、みんな構ってくれなくなっちゃいました。小学校はちゃんと行ってたし、優等生だったんですけどね。その頃は親も優しかったですよ。でも今は、会話も全然ない」

Dくんとスタッフ

Dくんの隣には20代半ばと見られる年上の男性がいて、仲よさそうに肩を組んでいた。以前から知り合いなのかと聞くと、今日知り合ったばかりだという。年上の男性はDくんにタバコを進め、Dくんは嬉しそうにそれを受け取っていた。
そして、やはりもらいものだという缶チューハイにストローをさしてそれを飲んだ。顔はまっ赤に火照っている。周りに誰もいなくなると、「気持ち悪い」と呟いた。
人と繋がれる嬉しさで、年長者からの悪い誘いを断れない……。ここにひとつの大きな問題があった。

Dくんは60代のおじさんに誘われて…

子どもだけでなく、大人も出入りするのがトー横だ。
「これまで恐い体験はなかったか?」と問いかけると、笑顔で「いっぱいある」と応えた。

「この間、60代くらいのおじさんに話しかけられて、最初は楽しく話していたけど、『交番の裏ならバレないから行こう』って誘われました。……エッチなことされそうになったんですよね。僕、まだ童貞で『初めてがおじさんはヤダ』って逃げました。まわりの人たちも守ってくれました。

(特殊詐欺の)受け子で知り合いが捕まったこともありましたね。ここにいると、そういう誘いがよく来るんですよ。でも、たとえ受け子とかやってもお金を貰えないこともあるみたいで。だから僕は何もやってなくて、金欠ですね。
トー横に来るのに交通費と飲食で毎回2千円くらいかかります。これまで親戚とかからもらって貯めてきた小遣いを切り崩してでも来るのは、トー横が1番楽しいから」

広場に集まる“キッズ”と支援者

飲酒、薬の過剰摂取で酩酊する子どもたち

22時も過ぎた頃になると、広場にはさらに多くの人が集まってきていた。子どもだけでなく、ホームレス風の中年女性や、ナイトワークの雰囲気を持つ男性もいる。
夕方の穏やかな雰囲気とは打って変わって、混沌としたムードが漂い始めている。
飲酒以外にも、風邪薬を大量に飲んだりする少年少女たちがやってきた。中にはリストカットをして服を血まみれにしたり、風邪薬の過剰摂取により吐き気を催してもどす子も……。
誤ってカミソリで手をざっくりと切ってしまい、大量に出血していた少女もいた。

手を切ってしまった少女

22時半になり、スタッフたちが食事提供の場所へ戻ろうとした時だった。3人の少年少女たちが声をかけてきた。

「あの、まだご飯やってますか?」

炊き出し会場に来るのはこの日3回目だと話すEくんとFちゃん。そして、その友達のGくんだった。

「どこか泊まる場所ないかなあ」と独り言のようにつぶやくEくんは壮絶な日々を生きていた……。

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