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2022年の経済政策に点数をつけるとしたら…「30点ですね」。荻原博子氏が岸田政権をメッタ斬り

集英社オンライン / 2022年12月31日 14時1分

ウクライナ危機、安倍元首相銃撃事件、収束の気配のないコロナ禍…後世にも語り継がれるであろう波乱の年となった2022年。「新しい資本主義」を掲げた岸田政権の経済政策は、果たしてどれだけの成果を残した?

物価高騰の一年。1世帯4万5000円の支援では足りない!

ウクライナ危機、安倍元首相銃撃事件、収束の気配のないコロナ禍…後世にも語り継がれるであろう波乱の年となった2022年。「悪い円安」が流行語となり、物価高騰が急速に進むなど、経済への不安が高まった年でもあった。

「新しい資本主義」を掲げて船出した岸田政権の経済政策は、果たしてどれだけの成果を残したのか。経済ジャーナリストの荻原博子氏とともに振り返った。



――2022年は「悪い円安」や物価高騰など、経済の話題が尽きない年でした。まず、今年の岸田政権の経済政策に点数をつけるとしたら何点でしょうか?

経済政策の点数ですか? 30点です。

――厳しい点数ですね……。

人によっては100点をつけるかもしれません。「デジタル田園都市国家構想」で儲けている広告代理店とか、コンサル会社とかは。でも、ごく普通に暮らしている市井の人々の生活が潤うことは、この1年ほとんどなかったじゃないですか。

――今年は物価高による家計負担増が相次ぎました。

思い出していただきたいのですが、物価高が始まったのは2021年です。ウクライナ危機の前ですよ。世界中で新型コロナの流行が沈静化して、モノの需要が高まり、食料やエネルギーの価格がじわじわと上がっていました。

それにも関わらず、これという手を打たず、今年2月にウクライナ危機が起こっても目立った動きが見えない。その間に物価はどんどん上がっていって、結果的に政府が総合経済対策を閣議決定したのは、今年4月ですよ? どれだけ遅いのかと驚きましたね。

――今年は4月、10月と2度の総合経済対策が閣議決定されました。2度目の総合経済対策には29兆円の補正予算を計上し、電気代引き下げなどの家計支援も盛り込まれていますが……。

まったく足りません! 政府は電気、ガス、ガソリンなどの費用に1世帯あたり4万5000円(※1~9月、標準世帯)を支援すると言っていますが、日本全国に一体どれだけの世帯があるかご存じですか? 約5500万世帯ですよ。

ということは、29兆円を5500万世帯で割ると約52万円。私たちは1世帯あたり52万円払っているのに、4万5000円しか恩恵を受けられないんです。あまりにも国民が蔑ろにされています。これじゃあ、まるで「ぼったくりバー」じゃないですか。

そもそも、2度目の総合経済対策のタイトルは「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」です。「物価高克服」と銘打つなら、今まさに苦しんでいる家計をいかに楽にするかに集中しないといけない。

なのに、リスキリング(新しい職業に就くため、あるいは今の職業での変化に適応するために、必要なスキルを獲得すること)や、GX(グリーン・トランスフォーメーション)などにも多大な予算がついていますよね。それは今やることなのでしょうか? やるべきは家計の底上げだと思います。

「増税」「金利上昇」のダブルパンチ

――リスキリングやGXの予算は、看板政策である「新しい資本主義」の実現が目的とされています。

そもそも「新しい資本主義」とは何のことでしょうか? 私は具体的に答えられる人に会ったことがありません。政権の発足当初は「成長と分配の好循環」や「令和版所得倍増」を掲げていましたが、実質賃金は伸びず、分配は進んでいません。
その一方で持ち上がるのは、増税や社会保険料増額の議論ばかり。これじゃあ「所得倍増」どころか「所得倍減」ですよ!

――12月20日には、日銀が長期金利の振れ幅を0.25%から0.5%に変更し、衝撃が走りました。これは「金融緩和の縮小」と捉えてよいのでしょうか。日銀は「緩和ではない」としていますが。

たしかに今回は、長期金利の振れ幅を今までの0.25%から0.5%に広げただけなので、金融緩和を目指したわけではないでしょう。しかし、債券市場や海外勢から追い込まれて、やむなくやらざるを得なかったという点では、市場が「日銀が方向転換して緩和の縮小に動いた=日銀の敗北」と受け止めたのは、当然の結果だと思います。

ただこれは、2023年の景気にとっては、決して良いことではありません。「金利が上がる」というメッセージで、実際に住宅ローンの変動金利が上がったり、コロナ禍で借りたゼロゼロ融資(コロナ禍で売り上げが減った企業に実質無利子・無担保で行った融資)の返済で、中小零細企業が追い込まれていったりする可能性があるからです。

また、実は儲かっている企業でも春闘を前に「金利が上がるなら賃金引き上げは難しい」と経営者が思えば、賃上げが実現しないという状況も続きそうです。

その一方で、岸田政権は「増税」を前面に打ち出しています。「増税」と「金利高」は、経営者にとっても家計にとってもダブルパンチです。よって2023年の家計を一段と冷え込ませることになるでしょう。

高校生に投資を呼びかける金融教育、ここがおかしい!

――岸田政権は「資産所得倍増」を打ち出し、NISAの制度拡充や高校での金融教育必修化などを行っています。国民に投資を呼びかける政策については、どのようにお考えですか?

貯蓄に回っている個人金融資産を株式市場に誘導して、景気を活性化させる狙いなのでしょうが、似たような政策は過去に失敗しています。

例えば、20年ほど前に小泉政権で実施された住宅ローン政策ですね。住宅ローン減税を延長して、国民に家を買わせ、住宅市場の活性化を狙いました。しかし、結果は失敗。日本は長期不況から抜けられなかったし、当時、家を買ったためにローンの返済に苦しんでいる人は、今も少なくありません。

岸田政権がやろうとしていることは、この政策と極めて似ています。「住宅」が「株・投資信託」にすげ替えられただけです。

それに、高校での金融教育の強化といっても、その授業の講師をしているのは銀行や証券会社の担当者だそうじゃないですか?

――金融機関の職員が外部講師として授業を行うケースはしばしば報じられています。

そんなの、体のいい営業にしか思えませんよ。第一、金融教育はそもそも「借金はしてはいけない」とか「借りたお金は返そう」などの基本から始めるべきです。

それなのに、高校生に対して「株で資産形成しましょう」「NISAを利用しましょう」というのは違いますよね。株や投資信託はリスク商品なのだから、投資のリスクを徹底的に教え込まないと。それこそが正しい金融教育ですよ。

――最近では「米国株インデックスファンドは過去30年間、右肩上がりで伸びているから、長期保有すれば安定して利益が得られる」などの、低リスクを強調する売り文句をよく見かけます。

過去30年間って……。30数年前、日本はバブル最盛期で株価は3万8000円でしたが、今の株価は2万7000円そこそこです。2008年のリーマンショック後には1万円以下に落ち込んでいました。

30年後に社会や経済がどうなっているかなんて誰も予想できないし、たまたまアメリカの株価が過去30年間で成長していたからといって、今後もそれが続くとは限らないですよね。

ましてや、今は数年先すら見通せない時代です。数年前に新型コロナの流行やウクライナ危機を予測できた人なんてほとんどいないでしょう。長期投資は、そうした先の見えないリスクと付き合う必要があるので、決して「長期投資だから安心」とは言えないはずです。

むしろ、長期投資で都合がいいのは金融機関です。株が大暴落して顧客が怒鳴り込んできても「お客様、長期投資ですから。いつか上がるはずです!」と言い逃れできるんですから。

インボイス制度は「増税」の始まり?

――今年は、2023年10月から導入が予定される「インボイス制度」についても議論が過熱しました。インボイス制度が導入されれば、従来、免税事業者だった売上1000万円以下の個人事業主やフリーランスが消費税の納税を迫られ「実質的な増税」になるとの見方があります。

たしかに、当面困るのは個人事業主やフリーランスの方々だと思います。収入は10%も減少するし、インボイス制度は請求に関する事務処理も煩雑になりますから。もちろん廃業する人も出てくるでしょう。
しかしさらに重要なのは、その先なんです。

――「その先」ですか?

インボイス制度の先に何があるのか。私は消費増税だと見ています。インボイス制度は登録番号を付与して、国が事業者ごとの消費税の納付額を把握する仕組みです。

例えば、フランスのように消費税率(付加価値税率)が20%、10%、5.5%、2.1%と細かく分かれている国は、インボイス制度が必要なんですよ。業種によって納付額が大きく異なるから、国がしっかり把握しなければいけません。

一方、日本の消費税率は10%と8%の2種類だけで、業種ごとの納付額もそれほど差はありません。でももしかしたら、インボイス制度導入後にフランスと同じように「3つ目の税率」が出てくるかもしれない。その結果、国民の負担する税額がさらに増える可能性は十分にあると思います。

実際に現在、防衛費増額をめぐって増税が検討されていますよね。そういうときに上げやすいのは、法人税でも所得税でもなく、消費税です。だから、私はインボイス制度の導入後に防衛費の増額が決まり、その先に消費増税が強行されるのではないかと睨んでいます。

防衛費の増額で消費増税は不可避か

――しかし、人口減少による税収減が見通されるなか、安定的な財源として消費増税を必要とする立場もあります。

そんなことありませんよ。だって、今年の税収は68兆円と過去最高だったじゃないですか。人口減少はもう10年以上続いているのに、税収はバブル期以上なんですよ?

だからもっと税収が増えるように、儲かっていない人からでも徴収できる消費税をどんどん上げていくというのでしょうが、経済が停滞しているなかで、税金だけをガバガバ取っていくから、日本から稼ぐ力が失われて泥沼に陥っているのです。

事実、財務省が発表している税金と社会保障費の国民負担率は46.8%の見通しです(令和4年度)。国民所得の約5割が税金と社会保障費に吸い上げられているんです。これは、つまり「五公五民」ってことじゃないですか。

――まるで江戸時代のようだと。

そうです。江戸時代の8代将軍・徳川吉宗は収穫米の5割を年貢として徴収する「五公五民」を行いました。すると農民の一揆が多発して、大変なことになったんです。
今、この国はそれと変わらない状況にあることを、多くの人が知るべきだと思いますね。

取材・構成/島袋龍太

2023年も賃上げは絶望的、増税は不可避。「ならばミニマリストで生きていくのです」 経済ジャーナリストが提唱(1月5日9時公開予定)

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