“何か”が足りないと思い続けて15年。無冠の40歳トリオ「や団」にキングオブコント決勝の重い扉が開いた理由
集英社オンライン / 2022年12月29日 17時1分
ここ数年で「大会のレベルが飛躍的に上がった」と言われるキングオブコント。2022年のファイナリストたちの貴重な証言から、その舞台裏を浮き彫りにしていくシリーズ連載。今回は15回目の挑戦で初めて決勝に進出し、3位と爪痕を残した無冠の40歳トリオ・や団の躍進に迫る。
15年目で初の決勝進出
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や団。SMA NEET Project所属。ネタ作り担当&ツッコミの本間キッド(中央)、ボケの中嶋亨(右)、ロングサイズ伊藤(左)
――2021年にお話を伺った時、「何かが足りないまま14年。その何かが見つからないから決勝に行けない」と話していました。2008年の第1回大会からキングオブコントに出続けて今年で15年目。準決勝進出は今年が6度目で、初めて決勝に進出できたのは、足りなかった「何か」がようやく見つかったということなのでしょうか。
本間 少しずつですが、自分たちを魅力的に見せる方法がわかってきた感じですかね。
伊藤 これだ、という何か大きなものが見つかったというより、本当に小さなことの積み重ねだと思います。それがようやく目に見える形で現れたというか。
本間 僕がいつもネタを書いているんですけど、ボケの中嶋(享)と、(ロングサイズ)伊藤は狂気的なキャラクターが似合うことがわかってきたのは大きいと思います。
――決勝で披露した1本目の『バーベキュー』も、2本目の『雨』も、いずれも中嶋さんと伊藤さんはそういうキャラクター設定でした。
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本間 決勝が終わったあと、ある人に「や団は“愉快な狂気”だ」って言われたんです。伊藤は明らかに狂気じみていて、中嶋は一見、普通のやつなんですけど他人の狂気に触れることで自分の中に眠っていた狂気が表面化してしまう。
伊藤 中嶋の方がやばいヤツなんですけどね。
本間 二人の描き方はわかったんですが、足りないのは僕だったんです。僕は作家のせきしろさんにすごくかわいがってもらっていて、せきしろさんが書くユニットコントにときどき出させてもらうんですけど、そこではすごくウケるんです。なので、せきしろさんに「いつも僕をどう使おうと考えてますか?」って聞いたら、「おまえは、ただ驚かせときゃおもしろいんだよ」って言われて。
――せきしろさんは、作家としての又吉直樹さんを発掘された方ですよね。
本間 そうです。それで、これもよく言われていたんですけど「驚いたり、怒ったりするときは、目を開くといいんだよ」って。そうすると怖さが軽減されて、ファニーに映るんだそうです。確かにハリセンボンの(近藤)春菜さんとか、そうですですよね。「◯◯じゃねえよ!」って怒るとき、めっちゃ目を見開いているじゃないですか。
中嶋 本間は普通の顔をしていると眉間にシワがよりがちで、イライラしているように見えちゃうんですよ。
本間 驚いていりゃいいといっても、僕がリアルに驚いちゃうと、どんどん話が怖くなっていってしまう。なので、顔が強張っているときは、中嶋に注意してもらうようにして。表情を柔らかく柔らかくしていました。
「本気で優勝するつもりなら、2本目が弱い」
――事務所の先輩であり、現在、キングオブコントの審査員も務めるバイきんぐの小峠(英二)さんにネタを何度か見てもらったことがあると話していましたが、今回のネタも見てもらったのですか。
中嶋 当時は小峠さんがまだ審査員をやっていなかったんです。さすがに審査員になっちゃうと、見てもらえないですよね。
本間 でも、他の先輩には、めちゃめちゃ見てもらいました。キャプテン渡辺さんとか。うちの事務所は、先輩方がとにかく優しいんですよ。踏みつけられてきた人たちが多いんで。そこはソニー・ミュージック・アーティスツのいい伝統でもある。みんなでネタを見せ合って、ああした方がいいとか、こうした方がいいとか言い合う。
事務所以外でも、三福エンターテイメントさんとか、パッファロー吾郎A先生とかにも何度もダメ出しをしてもらいました。
――決勝進出が決まってから本番までの約一ヶ月間でも、ネタのブラッシュアップはかなりしたのですか。
本間 だいぶ変わったと思います。決勝が決まったときは、チーフマネージャーが「本気で優勝するつもりなら、2本目(『雨』)が弱いから」って、事務所の仲間を集めてくれて。それで、どんどん案を出してもらいました。
決勝で『雨』をやったとき、僕はカツラを被っていたじゃないですか。あれも補強した点です。気象予報士の役だったので、年配の人の方がそれっぽく見えていいだろう、と。
あと、本番の一週間前ぐらいのライブで、たまたまかもめんたるさんと一緒になったんです。せっかくなんで、(ボケ役の岩崎)う大さんにネタを見てもらいたいなと思って。
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ネタ作り担当&ツッコミの本間キッド
――う大さんは「note」で毎年、キングオブコントやM-1の総括を書いていて、それが芸人間でもすごい評判になっているんですよね。
本間 すごい具体的だし、的確じゃないですか。それで伊藤が「う大さん、ネタ見てくださいよ」みたいに軽い感じで突撃したら、「いいよ。じゃあ、データで動画を送っといてくれない?」ってなって。
何日か後にLINEで「今、電話できる?」ってきたので、歯医者さんの帰り道だったんですけど、生涯、何本かの指に入るほどの命がけダッシュで家に帰りました。すぐ電話をかけたら「メモ取れる?」って言うから、メチャメチャちゃんとダメ出ししてくれるんだ! と思って。
決勝は「チームや団」のネタだった
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ボケのロングサイズ伊藤はNSC中退後→就職を経て、途中からや団に参加
――う大さんからのアドバイスで、実際に採用されたものもあるのですか。
伊藤 『バーベキュー』のネタで使ったブルーシートとかはそうですね。
本間 伊藤が死んだフリをしている中嶋を包むために、車からブルーシートを引っ張り出してくるシーンがあったんですけど、僕はそれまで「それはみんなで仲よくバーベキューするために用意したブルーシートだから」っ言ってたんです。でも、もともと使う予定だったのなら最初の段階で持ってきているはずだから、わざわざ車に取りに行くのはおかしい、と。
そこを「それはみんなで花見に行ったときに使ったやつじゃん」みたいに言えば、時間的な奥行きも出て、三人の関係性もより深いものに感じられるからいいんじゃない? ってアドバイスをいただいて。いいですね! って、使わせてもらいました。こんな風に、う大さんは矛盾点を突いたあと、必ず代替案を出してくれるんです。
中嶋 そんな人、普通いないんですよ。作家さんとかも「ここ、変じゃない?」とは言うんですけど、じゃあ、どうすればいいかという案までは出してくれないので。
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ボケの中嶋亨。ネタでは「実は一番ヤバいやつ」を担当することが多い
本間 具体的なことを言ってもらえないダメ出しって、芸人としてはすごく苦しんですよ。
中嶋 あと、ソラタローの足も、う大さんの指摘で修正したんだよね。
本間 『雨』の中で、中嶋は、天気予報のマスコットキャラクター・ソラタローの中身という設定だったんです。その正体を、どこでどうバレるようにするかが結構、難しくて。最初は僕の「君はソラタローの中身なんだよ!」というセリフを盗み聞きされていて、それで伊藤にバレるという風にしていたんです。そうしたら、う大さんが「無理に展開しているだけで、笑いになってないから」ってズバリ突いてきて。「ソラタローに何か癖があって、それで気づくみたいにできないかな」って言うから、じゃあ、足の開き具合で勘付いたと言うのはどうですかって返したら「そうそう」と。
中嶋 すご、って思いましたね。あそこの指摘は。
本間 あれで流れが自然になったし、「そこで気づいていたの?」って笑いどころも増えたんです。
――決勝のネタは、言ってみたら「チームや団」のネタだったというわけですね。
本間 本当にそうなんです。14年間、ずっと疑心暗鬼だったんですけど、この1年でようやくこの方向でいいのかなというのが何となく見えてきました。15年目で初めて準決勝の壁を突破できたのは、僕らが何か劇的に変わったわけではなく、足りない部分をいろんな人のダメ出しで埋めてもらったからなんです。
取材・文/中村計 撮影/村上庄吾
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