「明確なツッコミがないネタは、決勝ではハネない」無冠の40歳トリオ「や団」が明かす、キングオブコント決勝の”独特な空気”
集英社オンライン / 2022年12月29日 17時1分
かねてより「準決勝と決勝では会場のお客さんのノリが違う」と指摘されることも多かったキングオブコント。出場する芸人はそうした会場の雰囲気も計算に入れながら、ネタを微調整することが求められる。今年、3位と爪痕を残した”40歳トリオ”のや団は、決勝の空気をどう読んでいたのか?
浜田(雅功)さんとCM中に…
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や団。SMA NEET Project所属。ネタ作り担当&ツッコミの本間キッド(中央)、ボケの中嶋亨(右)、ロングサイズ伊藤(左)
――決勝本番、ネタをやり終えたときの本間さんの「気持ちいいっす〜」というセリフと、「やり切った感」あふれる表情がとても印象的でした。
本間 めちゃくちゃ楽しかったです。
中嶋 そんなこと、言ってたっけ?
本間 俺、言った。ネタが終わって、浜田さんに「どうでしたか?」って聞かれて、「気持ちいいっす〜」って。あれだけウケると、アドレナリンも出ますしね。
中嶋 俺は逆だったな。ネタ前が、ウキウキで。俺ら3人のネタを早く見せたいという感じだったんですけど、終わったら、「ああ、終わっちゃったか」と。浜田(雅功)さんの隣にいるときも、もう普通のテンションでした。
——初出場ながら、司会の浜田さんとも、堂々とやり合っていましたよね。
中嶋 以前、「山―1グランプリ」(『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』内の企画)に出たことがあるんです。今回の決勝で点数が出る前、CMが入ったんですけど、そのときに「山―1以来です。ご無沙汰してます」ってあいさつをしたら「どうりで見たことあったわ」って言っていただいて。
本間 浜田さんはほんと優しい方で、CMの間も、いっぱいしゃべらせてもらって。僕らが言うことに対して、いちいち笑ってくれるんですよ。「僕ら3人とも40(歳)になるのに結婚もしていないし彼女もいないんです」って言ったときもメチャメチャ笑ってくれて、CM明け、いきなり「全員、彼女いないそうです」ってイジってくれて。
中嶋 嬉しいよね。あんな絡み方をさせてもらえると。
伊藤 僕らがうまくトークしたんじゃなくて、浜田さんが話しやすい雰囲気に持っていってくれただけなんです。僕らは浜田さんの手の上で気持ちよく転がっていただけで。
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――決勝1本目は、6番目の登場でした。初めての大舞台でしたが、あがったりはしませんでしたか。
本間 当日、朝起きたときが、いちばん緊張しましたね。「ああ、今日だ」と。僕はいつも会場入りして練習をして「いつでもできるぞ」ってなってくると、少しずつ緊張が解けてくるんです。当日、TBSへ行くと、楽屋の他に1組ずつ稽古部屋が用意されていて。そこで2本のネタを3回ぐらいずつ合わせて、やっと落ち着いてきた感じです。
――ネタに入ったとき、とにかく思いっきりやろうぜという感じがすごく伝わってきましたよね。
本間 そこはもう芸歴の長さでしょうね。始まったら開き直ることができました。
――お客さんの反応もよかったですか?
本間 実は1本目の『バーべキュー』のときは、ちょっと焦った場面があったです。中嶋が死んだフリをしていて、それを知らない伊藤が中嶋を埋めようとスコップを持ってくるシーンがあったじゃないですか。本当は、あそこがいちばんウケるはずなんですけど、思いのほか笑いが少なくて。
松本人志が「狂気と笑いのバランスが絶妙」
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中嶋 準決勝までは目の肥えたお客さんが多いんです。だって、わざわざ予選を見に来るって、よぽどのお笑い好きじゃないですか。だから、スコップを持ち出したところで、その意味を察して笑ってくれるんですよ。「うわ、埋めるつもり?」って。
でも決勝のお客さんは、そこまでコアなお笑いファンではないので、きちんとツッコんだところでは笑ってくれるんですけど、そうでないところでは反応が薄い印象がありました。
本間 あそこは伊藤が「これ使え」ってスコップを差し出して、僕は「えっ?」って目を見開いて受け取るだけなんです。本当はそれで気づいて欲しいんですけどね。
――確かに、準決勝のお客さんは、笑うタイミングが本当に早かったですよね。先回りして笑ってくれている感じがしました。
本間 そういうお客さんに対しては、ツッコまない方が笑いは大きくなるんです。あそこでわざわざ僕が「埋めるつもり?」って説明したら逆に白けちゃう。そのあたりは難しいところですよね。
――わかりやすければいいというものではないんですね。
本間 2本目の『雨』も、僕が実はテレビのお天気コーナーを担当している気象予報士だということが、だんだんわかってくるところがおもしろいんですよ。「あ、折り畳み傘を差している人は気象予報士で、こっちのビチョビチョに濡れてる人は、この人の天気予報を信じて傘を持ってこなかったら雨に遭って濡れちゃった人なんだな」って。
――その関係性がわかるにつれて、笑いがこみ上げてきますもんね。
本間 あそこも決勝ではちょっとだけ言葉を足して、お客さんがより気づきやすいようにしているんです。僕らにアドバイスをくれた芸人仲間の中には、決勝のお客さん向けに、最初に気象予報士だということを言っちゃった方がいいのではと言う人もいたくらいで。
――ラウンドごとにそうした対策があるのですね。話が前後しますが、1本目のネタは470点を獲得し、その時点でトップに立ちました。あの時はどんな思いでしたか?
本間 TBSの担当ディレクターに「460点台後半を取れれば、上位3組に残れる可能性は高いと思います」って言われてたんです。なので、袖に入ったとき、互いに肘と肘をぶつけ合いましたね。海賊みたいに。「優勝あるかもしれんぞ」って。
伊藤 かなりワイルドな気分になってました。
――審査員の松本人志さんも「狂気と笑いのバランスが絶妙」だと大絶賛でした。
中嶋 実は松本さんに『バーベキュー』を見ていただくのは三度目だったんです。山−1グランプリでもやったし、偶然ライブで見ていただいたことがあって、その時にもこのネタをやっていたので。でも過去2回見ていただいた時よりも断然、よくなっていたと思います。
ツッコミのないネタは不利?
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「(今年に関しては)結果的に明確なツッコミのないネタは、決勝のお客さんにはハマらなかった部分もあったように思いました」と語る中嶋(右)と本間キッド(左)
——(1位から3位の組に用意された)暫定席では、すでに2本目の準備に入っていたのですか。
本間 そんな余裕はなかったですね。次のコットンに並ばれて、その次のビスブラ(ビスケットブラザーズ)に481点で一気に抜かれて。
その後、ニッポンの社長、最高の人間と実力者が控えていたので、もう気が気じゃなかったですね。2組とも準決勝ではめちゃめちゃウケていましたから。ちょっと、あきらめも入ってました。やっぱりそんなに甘くねえよな、って。
――結果的に、ニッポンの社長、最高の人間の点数がそこまで伸びず、ギリギリでファイナルステージに残りました。
中嶋 クロコップ(8位)、ニッポンの社長(10位)、最高の人間(6位)も面白かったんですけど、結果的に明確なツッコミのないネタは、決勝のお客さんにはハマらなかった部分もあったように思いました。
本間 ニッポンの社長は、暗転とか表情の変化がツッコミ代わりになっているんですけど、口ではツッコんでいない。それだと決勝のお客さんには伝わり切らないのかもしれません。そのあたりのさじ加減がすごく難しい気がしましたね。
――2本目も平常心でできましたか。
本間 2本目は、もうお祭りでした。僕らはトップだったので、バタバタしていて、緊張する暇もなかったですし。
中嶋 ただ、2本目の点数(473点)が出たときは、もう優勝はないな、と。
本間 1本目の時点でビスブラとは11点差ついていたので、よっぽどのことがない限り俺らの優勝はないなと思っていました。
——1本目と2本目の合計点で順位を決めるキングオブコント方式だと、そうなりますよね。
本間 だから、2位を目指していたんですけど、コットンに1点差で負けちゃって。そこは悔しかったな。
——2位と3位だと気持ち的にまた違うものなんですかね。
中嶋 そんなに違わないとは思うんですけど。ただ、今回は、SNSとかで「優勝は(2位の)コットンだったのでは」みたいなことを言われていて。僕らが2位になっていたら、どんな反応があったのかなとは思いますね。
本間 この前、ある番組でビスブラと一緒になったとき、原田(泰雅)君がこぼしてたんです。「コットンがヒーローで、優勝した俺らがヒールみたいになってんですよ」って。だったらもし僕らが2位に食い込んでいたら、ヒーローになれてたのかな……みたいな。SNSとかで「や団が優勝だろ」って言って欲しかったな、って。
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取材・文/中村計 撮影/村上庄吾
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