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〈漫画第2話無料公開〉「もう2度と漫画を描くことはないと思っていた」…家族を描く野原広子が、“2番目に描くのが苦しかった作品”とその理由

集英社オンライン / 2022年12月29日 18時1分

離婚し、親権をもたずに子どもと離れて暮らす側の親は、面会の約束が守られず、会えずにつらい思いをしていることも少なくない。漫画『今朝もあの子の夢を見た』は離婚後、我が子と会えず、傷つく家族の思いに寄り添って描かれた。漫画の著者・野原広子氏に執筆の動機や作品に込めた思いを聞いた。

妻の言い分をちょっとしか描きませんでした

友人の告白をきっかけに、本書(『今朝もあの子の夢を見た』)の着想を得た野原氏だが、「最初はこの企画が通るとは思っていなかった」という。

「触れてはいけないタブーなのかな、と思ったりして。連載がスタートしてからも、読者にも私と同じように興味を持ってもらえるかな、と心配もしました」



だが心配は杞憂に終わり、連載中、読者からは多くの反応があった。

「なかには切々と自身の置かれている苦しい状況を訴えてくるお父さんからのメッセージもありました。連載の途中で読み、胸が苦しくなりましたね。その後の展開を読んだら、この方はどう感じるだろうか、と悩みました。でも、一番傷ついて、苦しんでいるのは子ども。知人の話を参考にして、そこはブレずに描きましたね」

意外にも、子どもに会わせていない側の親からの声は、野原氏にはまったく届かなかったそうだ。

「届かないということは触れてほしくないのだろうな、と思いました。それもあって、この作品では妻の言い分をちょっとしか描きませんでした」

【漫画】『今朝もあの子の夢を見た』第2話(すべての画像を見るをクリック)

本作に限らず、第25回手塚治虫文化賞短編賞を受賞した前作『妻が口をきいてくれません』『消えたママ友』なども含め、家族や友人といった身近な人間関係の悲喜こもごもを描いてきたが、激しい感情を激しくは描かず、静かに、淡々と描いてきた。
そこが野原作品の魅力で、傷ついている人にとっては優しく感じられ、かつ心をつかまれ、揺さぶられる。

「私自身がもともと激しい感情が苦手。ハラハラ、ドキドキも苦手で、サッカーW杯も見られませんでした。好きなのはお料理番組とか(笑)。作品の勉強のために、激しいドラマとかをご覧になる作家の方はすごいなあと思います」

人物や背景などを、あまり描きこまない素朴な絵も、優しく感じられて読みやすい。

「しっかり描きこんだ漫画を描いていらっしゃる先生方には怒られるんじゃないか」と語るが、野原氏の絵はシンプルながらも繊細で、じつに表情豊かに描き分けられている。

「コピー用紙に0.28ミリ芯のボールペンで描き、スキャンして取り込み、データ化しています。本当は最初からiPadで描けばいいのでしょうが、編集の方が『このガタガタな線がいいんですよ』と言ってくださるので、お言葉に甘えていまだに紙に手描きです(笑)。
以前は、子どもたちが学校に行っている間や夜に描き、子どもたちが独立した今は、お昼頃に起きて、こたつに入ってYouTubeを見ながら、描いて休んで……の繰り返しですね」

母親を亡くした後に、愛娘に勧められて再奮起

野原氏にとって『今朝もあの子の夢を見た』は9冊目の著作となる。

「まさか、こんなにたくさん描かせていただけるとは思っていませんでした。ありがたいことにチャンスに恵まれました」

デビューが40歳を過ぎてから、と遅咲きで、すでに結婚して子どももいた。一冊本が出せればいい、と思っていたという。

「子どもができる前に、少しストーリー漫画を描いていたのですが、漫画ってプロットを描いて、ネーム描いて……と本当に大変。私には向いていない、もう2度と漫画を描くことはない、と思っていたのですが、母親が亡くなって何もやる気が起こらずボーッとしていたとき、娘に勧められてまた描き始めたのです」

そうして描いたのが、デビュー作のコミックエッセイ『娘が学校に行きません 親子で迷った198日間』(メディアファクトリー)。これまでで1番描くのが苦しかった作品だったという。
初めてのコミックエッセイで勝手がわからなかったことと、やはり、自身と家族のことを描くのは苦しかったときのことを生々しく思い出し、たくさんの迷いが生じるたのだろう。

「編集者に『ひとつの作品を描くことで人生が変わることもあるのです。その覚悟がありますか』と怒られました。それでも描きたくて。
2作目からは自身の体験とフィクションが半々の“セミフィクション”です。3作目からは『離婚してもいいですか?」などのモヤモヤとしたテーマのものを描くようになりました。ただ、不思議なことに、描いたときは自分のことではない、と思っていたのに、読み返すと自分のことのように感じるんですよね」

2作目からはフィクションで描いてきたが、『今朝もあの子の夢を見た』はこれまでで2番目に描くのが苦しかった作品だったという。
ちなみに、“野原広子”はペンネームだというが、次回作ははたしてどんなものになるのか?

「子どもたちが自立して、人生折り返し地点に立っている女性の話が気になっています。鉄は熱いうちに打てで、気になっているうちに描きたいなあと思っています」

次回作が読める日も、そう遠くなさそうだ。

『今朝もあの子の夢を見た』

野原 広子

2022年11月25日発売

1320円(税込)

168ページ

ISBN:

978-4087880823

『妻が口をきいてくれません』(第25回手塚治虫文化賞「短編賞」受賞作)の野原広子が、離婚後の家族に切り込む。大反響のウェブ連載を経て、待望の書籍化。

妻が書き置きのみを残し、娘を連れて家を出た──。
山本タカシ、スーパー勤務、ひとり暮らしの42歳。離婚して10年、当時7歳だった子どもに一度も会えず、元妻とどこに住んでいるかも連絡先もわからない……この家族にいったいなにが起こったのか。

【目次】
第1話 バツイチ男の日常
第2話 笑う42歳
第3話 新人さん
第4話 雨の日に
第5話 新しい恋
第6話 ふたりの距離
第7話 会えない理由
第8話 晴れた日に
第9話 父の想い
第10話 悲しみの深さ
第11話 再会
第12話 行方
第13話 他人の家庭
第14話 母の想い
第15話 つないだ手
第16話 未来の姿
第17話 遠く離れて
第18話 心配
第19話 記憶
第20話 封印
第21話 父と娘

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