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教師や生徒の不安を煽るだけの「内申書」問題を改革。名古屋市教育長が目指す“好きな学び”を突き詰められる学習環境

集英社オンライン / 2023年1月15日 12時1分

高校受験において、学力検査と同等に重視される“内申書”。評定(いわゆる内申点)を取りやすい生徒もいれば、そうでない生徒もいる。評定を取れない子は、高校受験で志望校に入ることを諦めるしかないのか。“内申書改革”に取り組んだ経験を持つ名古屋市教育委員会教育長・坪田知広氏に話を聞いた。

様式も判定も、不透明な部分が多い現在の“内申書”

中学生、また中学生の子を持つ保護者が高校受験を見据えた際、“内申書”を意識することは避けられない。正確には“調査書”、一般的には“内申書”と呼ばれる書類には、中学3年の12月までの9教科の成績を5段階評価したものや、出欠状況、部活動や生徒会活動などの様子といった項目が並ぶ。これらを学級担任はじめ、各教科の担当教員が記入し、作成していく。



元文科省職員で、2022年7月より名古屋市教育長を務める坪田知広氏は、全国51校の国立高等専門学校を設置・運営する国立高専機構理事の職に就いていた頃に、調査書(内申書)の問題に気づき、改革を進めた経験を持つ。

「現行の調査書の問題点はいくつかあります。様式の問題、判定の透明性の問題、担任をはじめとする教師の手に内容が委ねられているというプレッシャーの問題などです。

まず、様式については、本当に合否判定に必要なのか疑問を抱かざるを得ない項目が多々あります。また出欠状況についても、欠席が多いと不合格になるのか、実際にどのように判断に使われているかは不明です。

合否判定に直結しない項目が入っているのは、受験生にただ不安を煽るだけでメリットがないですよね。そこで国立高専機構では、調査書の項目を吟味し、必要最低限の項目に絞った様式に改めるように各校にお願いをしました」

簡略化にあたっては、文科省の考え方のほか、広島県教育委員会が2023年春の入試から実施する項目を絞った調査書の様式も参考にした。その結果、一般入試で学力検査を受ける志望者は9教科の評価のみを記入、推薦入試の場合のみ部活動や生徒会活動等の情報も記入する形になった。

「どこの自治体であっても、項目を見直していくと同じような様式になるはずです。従来の様式が使い続けられているのは、決してそれが必要だからではなく、単純に議論が進んでいないから。各教育委員会は、調査書の様式見直しよりも、入試問題の作成にリソースを割いているのです。

また、提出する中学校側と、それを受け取る高校側との合意も必要なので、様式の変更をどちらが言い出すかというところもあるのでしょう。誰かリーダーシップを持ってできる人がいれば、すぐに改革はできると思います」

“内申書”だけでなく高校入試制度改革を

現在、坪田氏は名古屋市で「ナゴヤ・スクール・イノベーション」と銘打ち、個別最適な学び、協働的な学びを市立小中学校で取り入れる試みを行っている。

画一的な学びよりも、子どもひとりひとりに応じた学びで個性を伸ばす方が、社会に貢献するイノベーティブな人材を育てることは明白だ。しかし、こういったイノベーティブな教育にも調査書(内申書)の問題が立ちはだかる。

ナゴヤスクールイノベーション公式サイト。各学校での取り組み、ナゴヤスクールイノベーションの全体像がわかりやすく紹介されている

「小学校では、児童が自分でカリキュラムを作り、タブレットPCを使って学習を進め、そこで得た内容を発表する様子が見られます。ただ、中学校がイノベーショティブな授業を取り入れても、中学2年生の終盤か中学3年生からは、高校入試を見据えて従来型の教育に切り替えざるを得ません。これを打破していくことが課題です。

調査書の各教科の評価も、相対評価ではなく絶対評価なので、それぞれが立てた目標に対してどこまでできたのか、どれだけ成長したのかに着目すれば、個別最適な学びであっても評価は可能です。ただ、なぜその評価になったのかという説明責任を教員が負うことに抵抗感があるという声が聞かれます」

それをふまえて坪田氏が提案するのは、教師が評価するのではなく、生徒本人が中学3年間に学んだ内容を自己PRすること。その内容を学力検査の点数に加味して合否を決めるという形式だ。

「アメリカの大学入試で自分の実績をまとめたポートフォリオを作成するのと同じような感じですね。学校側も手間がかかりますし、受験生にとっても自己PRを作成するのは学力検査の勉強よりも大変かもしれませんが、イノベーティブな教育の延長線上にある入試としては、それが理想ではないでしょうか。

調査書の改革に加えて、高校入試の制度自体をイノベーティブな教育と接続していくような形に改革していくことが今後は必要だと確信しています。子どもの個性を尊重しながら自律と共生を学ぶ「イエナプラン教育」や、「モンテッソーリ教育」などの新しい教育で学んだ子も、安心して進学していけるモデルを名古屋市から発信していくことが現在の私の使命だと感じています」

“どの学校でも好きな学びを突き詰められる”
学習環境を名古屋モデルに

現在、調査書(内申書)で評価を得にくく、高校入試で志望する高校を目指すのが難しいと考える子どもと保護者が、戦略的に中学受験をして中高一貫校に進学するケースもある。それについては坪田氏も認識している。

「私立中学の選択肢が多い都市部では、そのようなケースも珍しくないと思います。私自身はそれもまたひとつの考え方とはとらえています。6年間かけて能力を伸ばしてくれる中高一貫校や、好きなことをとことん突き詰められるような教育を行っている学校もありますので、子どもによっては私立中学に進学したことで進路の幅が広がることもあるでしょう。それよりも問題なのは、公立高校の受験、進学が偏差値で輪切りになってしまっていることではないでしょうか」

地域のトップレベル校に進学できればいいが、いわゆる下位校に進学すると大学進学がぐっと難しくなり、将来の選択の幅が狭まるという現状があることは否めない。

「家の近くの公立高校に進学して、自分の好きな勉強を高校でひたすらやって、それをさらに伸ばすために大学に進学できる……そういった学習環境を整える時代に来ていると思います。

今はタブレットPCを使ってオンライン授業も受けられるのですから、民間事業者と提携してハイレベルな数学の授業を受けてもいいし、他の学校でやっているファッションやデザインの授業を受けてもいい。

まだ私の頭の中にしかない構想ですが、名古屋市にある14の市立高校が連合体となって、どの学校に入っても自己実現できる環境を整えることは、個別最適な学びを進めるうえで、学校がどうあるべきか、さらには入試制度がどうあるべきか、全国へのメッセージになると考えています」

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