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最重要作『邪願霊』から最新ヒット『カラダ探し』まで。低迷していた「Jホラー」が再ブームとなったワケ

集英社オンライン / 2023年1月11日 15時1分

90年代からゼロ年代にかけて、一世を風靡した「Jホラー」と呼ばれるジャンルの映画。紆余曲折を経て、同界隈に再び注目が集まっている。一時期は下火となったJホラーに今、何が起きているのか。ホラー映画に特化したWEBメディア「cowai」の編集長・福谷修さんに話を聞いた。

「得体の知れない恐怖」を描く

―そもそも「Jホラー」とはどのような映画を指すのでしょうか。「日本製のホラー=Jホラー」というわけではないですよね。

ひと言でいうと、日本発の「“得体の知れない恐怖”を描いた映像作品」ということになるかと思います。そのような作品が、90年代の日本で同時多発的に生まれたんです。その作り手たちが互いに影響を与え合いながらブラッシュアップしていき、日本だけでなく海外でも評価されるようになると、それらはいつしか「J(Japanese)ホラー」と呼ばれるようになりました。



Jホラー特有の要素としては、具体的に「陰鬱な画作り」「じめっとした空気感」「抑制された効果音」「恐怖の対象がはっきりと現れない」「エロティックなシーンがない」などが挙げられます。

それまでの日本のホラーは、『東海道四谷怪談』(監督:中川信夫 、1959年)に代表される怪談映画が主流でした。そこではおどろおどろしい効果音やBGMとともに、どぎつい照明の中で、いかにもなお化けが出てくるわけですから、その違いは明白ですよね。

恐怖の対象についても、Jホラーにはモンスターや殺人鬼といったわかりやすい敵は出てきません。敵がわからないから倒しようがない、勝ち目がない。そもそも「勝ち負けを想定していない」というか、作品世界に一歩踏み込んだら最後、もう恐怖に浸るしかないんです。

WEB映画マガジン「cowai」編集長の福谷修(ふくたに・おさむ)さん

―どうしてそのような作品が生まれたのでしょうか。

90年代というと、いわゆるバブルが弾けて、日本経済に暗雲が漂い始めた時代で、社会不安が都市伝説として広まりやすくなった背景もあると思います。

作品のルーツとしては、当時のJホラーの隆盛を担った作り手たちが揃って言及するのが、イギリスの心霊ホラー『回転』(監督:ジャック・クレイトン、1961年)です。些細な、しかし度重なる怪奇現象、曖昧な幽霊描写といった抑制された恐怖演出が、リアルな感触を生み出していました。

ほかにも、イギリスのフェイクドキュメンタリー(フィクションをドキュメンタリー映像のように演出する表現手法。モキュメンタリーとも)「第三の選択」(1977年)はホラーではありませんが、“Jホラーの起源”(※後述)といわれる「邪願霊」(監督:石井てるよし、脚本:小中千昭、1989年)に影響を与えていて、ここでもドキュメンタリー風の作りがリアルだったという点が大きい。

つまり大切なのは「日常と地続きのリアルな恐怖」です。日本の作り手たちがさまざまな衝撃と刺激を受けながら、従来の日本の怪談映画では決して体験できない、まったく新しい恐怖にこだわった成果がJホラーといえるでしょう。

「赤い服の女の霊」という大いなる発明

―Jホラーの始まりの1本は、やはり先ほど挙げていただいた「邪願霊」ですか。

そうですね。諸説ありますが、“Jホラーの父”と呼ばれる「ほんとにあった怖い話」『リング0バースデイ』の鶴田法男監督が定義したのが「Jホラーの起源は『邪願霊』、原点は『ほんとにあった怖い話』」です。私も異論はありません。

「邪願霊」は「第三の選択」と同様フェイクドキュメンタリーで、作品そのものが“テレビの取材テープを再構成した映像”という体裁です。フェイクドキュメンタリーは新しい手法のように思われがちですが、もうすでにこの頃からあった。それを心霊ホラーで採用した最初期の作品が「邪願霊」。
ほかにも“画面の背景に映り込む幽霊”など、のちにつながる要素が多分にあって、Jホラーの起源といわれる所以です。

対して、原点はオリジナルビデオ「ほんとにあった怖い話」(監督・脚本:鶴田法男、脚本:小中千昭、 1991年・1992年)になるでしょう。この「ほん怖」で、その後のJホラーの方向性がほぼ決まったと言っていい。それだけ、恐怖の「型」ともいえる表現をたくさん生み出しています。

1991年・1992年「ほんとにあった怖い話」(監督・脚本:鶴田法男、脚本:小中千昭)。フジテレビ版ドラマシリーズは、2022年現在でも放映される長寿コンテンツにとなった(画像出典:Amazon.com)

―具体的にはどのような?

実話怪談のホラー漫画をもとにした作品なんですが、実話ならではの曖昧さといいますか、結果的に「よくわからないから怖い」という部分に焦点を当てています。この「ほん怖」と先の「邪願霊」の両方の脚本を手掛けた小中千昭さん(“小中理論”でホラーファンに知られる脚本家)によれば、「ほん怖」の鶴田監督のホラー演出はいわば“引き算”。音で怖がらせたり、見せ場を過剰に盛り込む“足し算の演出”ではなく、あえて“はっきり描かない”“音で驚かせない”引き算の演出で、しっかり怖がらせるのは非常に難しい。鶴田監督はそれをやってのけたんです。

それから、“赤い服の女の霊”という重大な発明がありました。赤い服を着た髪の長い女が、うつむき加減に不気味な動きをする。この恐怖演出は、その後の内外のさまざまなホラー作品にトレースされています。もちろん、貞子の原型ですね。

―貞子の登場する『リング』(監督:中田秀夫、脚本:高橋洋、1998年)は、世界でいちばん有名なJホラーになりました。

「邪願霊」でまかれた種が、「ほんとにあった怖い話」で形になり、90年代後半、一気に花開いたんです。『リング』のほかに、『CURE キュア』(監督・脚本:黒沢清、1997年)や「呪怨(オリジナルビデオ版)」(監督・脚本:清水崇、1999年)といった傑作が立て続けに誕生しました。

1997年に公開された『CURE キュア』(監督・脚本:黒沢清)(画像出典:Amazon.com)

言わずと知れたJホラーの金字塔『リング』(監督:中田秀夫、脚本:高橋洋、1998年)(画像出典:Amazon.com)

「呪怨」は、オリジナルビデオ版のあとに公開された劇場版(監督・脚本:清水祟、2002年)が大ヒット(画像出典:Amazon.com)

「失われた恐怖」を求めて

―2000年代に入ると海外進出が目立つようになりますね。

最初に国際的な評価を得たのは、『CURE キュア』や『回路』(2000年)の黒沢清監督です。その後、『リング』『呪怨』がハリウッドでリメイクされたり、それぞれの監督がハリウッドデビューを果たしたりと、Jホラーにとって飛躍の時期でした。貞子の幽霊イメージはホラーアイコンとして、海外でもすっかり定着しているんですよ。

―Jホラーに影響を受けた海外の作品はありますか。

ジェームズ・ワン監督の『インシディアス』(2010年)『死霊館』(2013年)『アナベル』(2014年)シリーズは、間違いなくJホラーの影響を受けていて、作品的にも興行的にも大成功を収めています。ほかに、NETFLIXで話題を集めた台湾映画の『呪詛』(監督: ケヴィン・コー、2022年)や、少し前なら韓国映画『哭声/コクソン』(監督:ナ・ホンジン、2016年)など、Jホラーの影響を受けながら、独自の進化を遂げたアジア作品も目立つようになりました。

―他方、その頃になると国内ではJホラーの話題が聞かれなくなりました。

2010年代に入ると「Jホラーとはこういうもの」というイメージが定着して、新たな恐怖を生み出せずに停滞してしまったんです。目立つものといっても、『貞子3D』(監督:英勉、2012年)『貞子vs伽椰子』(監督:白石晃士、2016年)『貞子』(監督:中田秀夫、2019年)など、人気作の派生作品ばかりで。

とはいえ、この時期の収穫として「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」シリーズ(監督・脚本:白石晃士、2012年〜)があります。フェイクドキュメンタリーの新たな地平を切り拓いた快作です。元々はDVDレンタル向けの作品でしたが、ニコニコ生放送で配信され、人気に火が付きました。

「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」シリーズ(監督・脚本:白石晃士、2012年〜)(画像出典:Amazon.com)

「怖すぎるホラー映画は受けない」

―停滞していたJホラー界隈ですが、最近にわかに活気づいている印象です。

2020年の『犬鳴村』(監督:清水崇)と『事故物件 恐い間取り』(監督:中田秀夫)、両巨匠のスマッシュヒットから潮目が変わったように思います。2022年10月に公開された『カラダ探し』(監督:羽住英一郎)も事前予想を上回るヒットを記録していて、ホラーが売れる土壌が再構築されつつあるのを感じますね。

現在の不況の中で、オリジナル映画の企画が通りやすいのはアニメと、実写ではホラー。原作の人気に頼ることなく、オリジナル作品を作れるというのは、映像作家としても魅力があります。また、キャストの縛りがそれほどなく、アイデア次第で、比較的低予算で利益が出やすいのも特徴です。

ただ、今の日本の一般的な映画市場では「怖すぎるホラー」は敬遠されやすい傾向にあるので、そのへんの状況が、自分も含めて根っからのJホラー愛好者、本格ホラーを求める向きには歯がゆいところかもしれません。

―新たな恐怖は、まだ生み出せていないということですか。

その萌芽は十分に見られますよ。『真・鮫島事件』(監督:永江二朗、2020年)『N号棟』(監督:後藤庸介、2022年)『オカムロさん』(監督:松野友喜人、2022年)といった、若手作家による、従来のJホラーの枠に縛られない才気あふれる作品が続々と登場しています。

また「ゾゾゾ」に代表されるYouTubeチャンネルなど、新たなスタイルのホラーが生まれ、若い観客に支持されて、広がりを見せています。こうした流れから新たなホラーのムーブメントが生まれていくと思います。その辺りは過去のJホラーが、ビデオレンタル黎明期に、オリジナルビデオを通して表現され、当時の新しい衝撃、恐怖を求めていた若者に支持されて、ブームが広がっていたのと似ています。

いつの時代も、若い人が新たな表現のプラットホームを利用して新しいコンテンツを生み出す。Jホラーも今、そんな流れの中にあると思います。

都市伝説「鮫島事件」をモチーフにした映画「真・鮫島事件」(監督:永江二朗、2020年)

―しかし「怖すぎるホラーは受けない」現状で、Jホラーは本当に復活できるのでしょうか。

映画を育てるのは観客だと思います。「こういうものが見たい」という観客の欲求が市場を形成することで、予算のついた映画製作を可能にするわけですから。時代ごとの映画の変遷を左右するのは、一番に観客の目なんです。

私としては、まずはそうした観客の皆さんに、少しでも多くの良質なホラー作品を知ってもらうために、ホラー専門のWEB映画マガジン「cowai」を立ち上げました。ここでさまざまな情報に触れてもらって、いい意味で刺激を受けて、新時代のJホラーを求める機運が高まればいいなと思います。

福谷さんが製作・プロデュース・監修する新作ホラーアニメ映画「アムリタの饗宴」(監督:坂本サク)。2023年5月公開予定(https://www.amrita-movie.com

取材・文/山本安寿紗

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